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本編
絡まれる
しおりを挟むあの事件から1ヶ月、僕はいつも通りに仕事をして日常に戻っていた。
依頼者から受け取った依頼書の内容を確認し難易度別に選別して掲示板に張り出す。それを冒険者が自身のランクや実力に見合った依頼書を探し僕の受付けまで持ってきて僕がその依頼の納期期日などより詳しい内容を説明した後、ハンコを押し受理する。
この作業を朝から淡々とこなしているとバンっとギルドの扉が乱暴に開けられ軋むような音がした。手は動かしたままチラリと視線を上げるとそこには見たことない冒険者が複数人、多分他所からきたパーティだろう。ドカドカと床を踏み荒らし先頭に立つパーティリーダーらしき人物がギルド内を値踏みするように視線を彷徨わせた。
はぁ…今日は荒れそう…仕事が増えそうだな
そう心の中で呟きながらこの後起こるであろう出来事に頭を痛める。ここ最近は平穏な日々を過ごしていた分、余計に面倒くさいと思ってしまった。
はぁ…と小さくため息をこぼしていたらギルドを値踏みしていたパーティリーダーと目が合った。僕を見た瞬間ニヤっと気色悪い笑み浮かべながら真っ直ぐ僕の受付けまで歩み寄り口を開く。
「王都にある割には大したことないと思ったが、えらい別嬪なねぇちゃんがいるじゃねえかぁ…今夜俺の相手に選んでやるよ」
僕を女性と間違えているのか下品なしゃがれ声で夜の相手にと誘ってきた。威張る割には実力もオーラもなさそうで大したことない男だなと感じた僕は話しかけてきた相手に一瞥もくれず手元にある書類仕事を進めた。
「おいっ聞いてんのか!?」
まさか無視されるとは思っても見なかったのか僕の対応に相手の男は顔を真っ赤にさせ受付カウンターを思いっきり殴りつけながら怒鳴り散らす。至近距離で鼓膜を潰されそうな大声を上げ仕事の邪魔をされ僕の怒りゲージがどんどんと上がっていく。
「てめぇっ!!!この俺様の誘いを無視しやがったなぁっ!!!顔がいいからって調子乗ってんじゃねえぞ!!」
男が叫んだ拍子に男の口から唾が飛び僕の頬についた。
プチ…僕の中で何かが切れる音がした。
「あの男終わったな…」
「おいっアイツらから離れろ巻き添いを喰らうぞ」
ギルド内にいた誰かが発した言葉に従うように、ここでの活動が長い他の冒険者たちが一斉に距離を取った。
冒険者たちが避難し終わった瞬間、僕に向かって怒鳴り散らかしていた男は全身氷漬けになっていた。一瞬の出来事で理解出来なかったであろう男のパーティメンバーたちが目を見開き腰を抜かしてその場に座り込んだ。
ガクガクと身体を震えさせながら恐怖に染められた表情で氷漬けになった自身のリーダーをただただ見つめて呆然としていた。
僕がゆっくりと受付け席を立ち目の前まで歩いて行き立ち止まると「ひいいいいっ」と情けない声を漏らしながら僕を見上げる。
「当ギルドでは他の冒険者の方々の迷惑になるので節度ある行動を心がけて下さい。子供でも出来ますよ」
腰を抜かし床に座り込んでいた冒険者たちは僕の言葉にコクコクと激しく顔を上下に動かし震える声で「わ、わかった」と返事をした。
僕は頬に付いた唾を拭き取りながら再び書類仕事をしようと踵を返した時、一つ忘れていたことを思い出して振り返り…
「後…その氷、早く溶かさないと手遅れになりますよ」
それだけ言って今度こそやりかけになっていた書類仕事を再開させた。
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