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本編
再会…そして愛の告白
しおりを挟む「よし、ちょうど終わった」
朝から一波乱あったがなんとか予定の時間内に急ぎの書類仕事を終えられ安堵のため息を小さくこぼす。視線をあげ時計を見るとそろそろお昼休憩の時間だった。
キリもいいことだし書類をギルド長に渡したらそのまま休憩に入ろう…必要な書類をまとめ、手に持ち受付け席から立とうとしたとき、ぎぃぃ…と軋んだ音を立てながらギルドの扉が開かれた。
フードで顔まで隠した黒いマントを羽織った怪しげな男がそこに立っていた。マント越しでもわかる程の長身と鍛えられた身体は圧倒的なオーラを放っていた。ギルド内にいた他の冒険者たちはその男から距離を取るようにして警戒するほどだ。
その男は辺りを少し見渡した後、受付け席にいた僕を見た瞬間、歓喜に満ちたように口元に笑みを浮かべコツコツと僕の元へ歩み寄ってきた。
今日は厄日なのか…また面倒ごとがやってきた
「はぁ…ついてない」
そうため息をこぼしながら僕は近づいてくる男を見つめた。すぐ対応できるように無詠唱で魔法を発動させておく。先ほど男が氷漬けになったのは僕の魔法のせいだ。僕を抵抗できないか弱い女性だと思って油断していたおかげで一瞬で対応できたが、目の前の男からは油断も隙も感じられず身体がこわばる。
ゴクリ…唾を飲み込み男の出方を伺っていると…
「やっと見つけた…1ヶ月ぶりだな」
「1ヶ月…ぶり?」
何を言っているんだこの男は?
僕の目の前に立ち止まった男は意味不明な言葉を発しながらフードを外し顔を見せた。その顔を見た瞬間、僕は発動させていた魔法を解除した。
「な、なぜ貴方が…このような場所に…」
思いも寄らぬ人物に声が上ずる
「ほう、無詠唱で魔法を発動させたと思ったら解除も一瞬か。なかなかの腕前だな」
「っ…そこまでお見通しとは…さすが白翼の騎士団団長ルーク・ガルシア様ですね」
まさか無詠唱で発動、解除させた魔法を感知されていたとは…さすが王国一の実力者だ、白炎の獅子という二つ名は伊達じゃないな
1人心の中で感心していると嬉しそうな笑みを浮かべたルーク騎士団長。
「名前を知ってもらえているとは光栄だな…ノア」
その整った顔のキラキラスマイルはギルド内にいた女性たちにクリティカルヒットしたようだ。黄色い歓声を上げながらバタバタと倒れていく姿が目の端に映った。至近距離で見てしまった僕も一瞬ときめいてしまい顔に熱が集まる。
「ど…して、僕の…名前」
なぜ白翼の騎士団長ともあろう人がただのギルド職員にすぎない自分の名前を知っているのか…そんな疑問に顔を顰めているとイタズラが成功したような無邪気な笑顔でルーク騎士団長は答えた。
「ノア自ら教えてくれたんだぞ…ベットの中で」
「え…」
今この人…なんて言った…?ベットの、中?…うそ…うそだ、そんなわけ…
驚きと困惑でフリーズしているとルーク騎士団長は僕の耳元で甘さを含んだ声で僕にしか聞こえないように囁いた。
「蕩けた顔で淫らに腰を揺らしながら俺のモノを強請るノアはとても可愛かった」
「ねだっ…」
僕しか知らないはずの痴態をなぜ知っているのか…「1ヶ月ぶり」という言葉をハッと思い出した僕はそこでやっと一夜を共にした相手がこの男、白翼の騎士団団長ルークだと知った
僕の驚愕の表情で全てを察したらしいルーク騎士団長はニヤっと含みを持たせた笑みを浮かべた。
「その顔は思い出したようだな」
「そんな…まさか」
現実を受け止めきれず一歩ずつ後ずさる僕をルーク騎士団長は素早くガシッとその長く逞しい腕で抱き寄せる。あまり早技と腕力で抱きしめられ抜け出すことが出来ない。
「あれから君を1ヶ月も探したんだ…もう逃がすわけないだろう」
「あっ…」
狙いを定めた肉食獣のように僕を射抜くその鋭い眼光に抗えず僕の身体は勝手に大人しく従ってしまう。ルーク騎士団長は大人しくなった僕を愛おしそうに見つめ頬を優しく撫でる。
普段の僕なら男に抱きしめられるなんてありえなのに…嫌悪感に苛立ち返り討ちにしてるはず、だが今の僕はどうだろうか…屈強な男に抱きしめられ、あまつさえ頬を撫でさせているこの状況…おかしい。
しかも嫌悪感なんて微塵も感じない…むしろもっとその大きく暖かい手で撫でてほしいとさえ思っている自分がいる。
なんなんだ…この感情は…心を乱される。
静かになった僕をルーク騎士団長は覗き込むように見つめる。
「ノア、落ち着いたか?」
「な、なんとか…」
「そうか、いい子だ」
「っ…!」
よしよしと頭を撫でられ硬直する僕と嬉しそうに撫で続ける白翼の騎士団長を静かに見守っていた周囲の冒険者たちが唖然とした表情で見つめていた。
「俺の見間違えか…?あの『氷結の女王』の頭を…撫でてるぞ」
「いや…俺にもそう見えている…」
「なんか…心なしか可愛く見えるんだが…」
「お前もか!?」
ザワザワと騒ぎ出すギルド内にいる冒険者たちを一瞥しルーク騎士団長が小さく舌打ちした
「ちっ…ノアの愛らしさがバレてしまったか。だがこんな可愛いノアを一番に見つけ出し愛しているのはこの俺だ」
「ふぇ…?」
この人…今なんていた?僕を愛してる…?えっ!?
すぐそばにいる僕にしか聞こえないような吐息が漏れるように発せられた小さな呟き
いろんな情報が一気に押し寄せパンク寸前の頭と、心の準備も整わないうちにされた突然の告白に僕は完全にオーバーヒートして気絶した。
「ノアっ!」
目が閉じる最後の瞬間、ひどく慌て焦った表情のルーク騎士団長が見えた気がした。
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