32 / 40
32【近付いた心の距離】
しおりを挟む「ねぇ、アルヴァート、私と話をしよう? 何がそんなに気に入らないの?」
「離してよ! そんなこともわからないの!?」
本当はなんとなく知っている。
でもアルヴァートの口からちゃんと聞きたい。
「話してくれなきゃわからないよ」
観念したのかアルヴァートが話し始めた。
「あんたが、フィーリア姉さまの代わりみたいにいるのがいやなの!」
ついにあんた呼ばわりされてしまった。
「それで?」
「それで!? それだけだよ!」
「私は誰の代わりでもないし、フィーリアさんにとって代われる人なんて誰もいないわ」
「そ、そんなことわかってるよ!」
足元の地面がなんかおかしい。
周りの地面がボコボコと動き始めた。
アルヴァートを見ると、体の周りに魔力が漏れ出していた。これはもしかして魔力が暴走している!?
まずい。
「アルヴァート、ちょっと落ち着こうか!?」
「ただの嫉妬だってわかってるもん!」
「お願いだから落ち着いて!」
「でも、でも!」
その時地面がバコッと割れた。
私はとっさにアルヴァートを抱き寄せる。
魔法を習う時、ヴィンセントさんに教えてもらったことがある。それは魔力への干渉は危ないから絶対にしてはいけないということを。
干渉をされた者より、した者への反動が大きいと。
だけど今しないでいつするのよ!? ってね!
私は自分の魔力を使ってアルヴァートの漏れ出した魔力を押さえ込もうとした。
やったことなんてないし、もちろんやり方も知らないけど。
触れているところから自分の魔力でアルヴァートの魔力へと干渉する。これで合っているのかわからないけれど、そうしているうちにだんだんと苦しくなってきた。
ちょ、すごい苦しいんだけど。
アルヴァートの方は大丈夫だろうか。
アルヴァートも今の状況がまずいと思ったのか、「離して!」って言うけど、ここで離したら二人とも大怪我をしてしまうだろう。
すごく苦しくて"あ、もうやばいかも"と思ったところで大きな音がして周りの魔力が消えた。
もしかして成功にたの? それともアルヴァートが落ち着きを取り戻した?
腕の中にいるアルヴァートに怪我がないか確認をする。
「痛いところは、ない?」
「あんた……バカじゃないの」
「なっ、それが助けてくれた人に言うこと!?」
「僕ね……」
うん?
「フィーリア姉さまのことで、思い出せないことがあるのに気付いたの。それで怖くなったんだ……」
思い出せなくなる…?
あぁ、そうか。
アルヴァートはまだ七歳だから、時間が経つにつれて記憶を忘れていってしまうのだろう。
大人になると子どもの頃の記憶ってあまり覚えてないと思う。
あ、私は何も覚えてないんだけどね……。
「あの時なんて言ってた? とか思い出せないの……このまま全部忘れちゃったらどうしよう?」
「大丈夫だよ。まだ思い出せることいっぱいあるでしょう? あ、そうだ! 今のうちに紙に書いておくのはどう? そうすれば後から何度も読み返せるよ!」
「紙に書くって……もうちょっといい案はないの? やっぱりバカだね」
ひどい、結構いい案だと思ったんだけど。
「でも、ありがと。助けてくれて」
アルヴァートが小さく呟いたのでよく聞こえなかった。
「え? もう一度言って?」
「やだ」
「えぇ……」
「本当は、あんたのことも、家族が増えたみたいだって思っちゃったの」
え、何、急にどうしたの? そこまで飛躍する?
「まぁ私も、遊び相手ができたみたいで楽しかった、かな? ずっと勉強ばっかりだったからね。ただちょっと過激だったけど」
「怪我させてごめんなさい」
「いいの。私もごめんね」
私とアルヴァートは起き上がって周りを見渡す。地面がひどいことになっている。
これ、セレスさんに見られたらまずいんじゃ。
「ねぇ、アルヴァート、これ、直せる……?」
「うん、多分……やってみる」
アルヴァートは得意の土の魔力で地面を直していった。よし、これならバレないだろう。
「すごいわ、アルヴァート!」
「こんなこともできないの? 僕より年上なのに」
「私はまだ勉強中なの! ねぇ、アルヴァート。このことは二人だけの秘密ね? セレスさんとアリシティアさんに怒られちゃう」
「うん、怒らせると本当に怖いから秘密にしてね」
それから二人で本邸へと戻った。そこにはみんなが私たちを待ってくれていた。
私たちのことを信じて待っていてくれたんだろう。
セレスさんを見てアルヴァートの表情が強張った。まぁ、怒られるって思うよね。
だって逃げ出してそのままなんだよ?
だけどなんだかその姿がかわいそうで、落ち着かせるために私はアルヴァートの手を握った。
意外にも、アルヴァートが握り返してくれて手は離されなかった。
「二人ともその姿はどうしたの!?」
セレスさんが心配そうに私たちを見比べた。
あ、まずい。服が汚れたままだった!
「アルヴァートも私も怪我はしていませんよ!?」
慌ててセレスさんに二人の無事を伝える。
こういう時のためにやっぱり綺麗にする魔法を覚えておけばよかった。
アルヴァートは私の手をぎゅっと握る。
あら、可愛いところもあるじゃない。
「大丈夫だよ」
私はアルヴァートに優しく声をかける。
そんな私たちのやりとりをみて誰もなにも言わなかった。
グレイシアさんが私たちの前に来て手をかざすと、一瞬で服がきれいになった。
「グレイシアさん、ありがとうございます」
もう驚くまい。
「お兄様は、風、火、水の魔法が得意だからこういうこともできるのね。三つの魔力を同時に扱えるなんて知らなかったわ」
アリシティアさんが感心したように言った。
「今初めてやったからな」
あれ、ついさっきもこんなやりとりがあった気がする。
アリシティアさんの表情は無になっていた。
見てはいけない、見てはいけない。
「初めてでここまでできるなんて、グレイシアはやっぱりすごいわね」
セレスさんは感心しているけど、魔力は扱えても使ったことのない魔法は危ないんじゃなかったっけ……? あれ? いいの?
「さぁ、みんな入りなさい」
さっきは緊急事態でこの本邸に入ってしまったけど、また私が入ってもいいのだろうか。
公爵家の人間ではない、私が――。
273
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる