誰にも愛されずに死んだ侯爵令嬢は一度だけ時間を遡る

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一章 一度目の人生

31【シア、十八歳 私のペンダント】

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 リリーとアメリアがいなくなってから一年と数ヶ月。私は十八歳になった。
 
 別棟での生活も随分と寂しいものになっていた。リリーの明るい話し声も、アメリアの厳しくも優しい声はもう聞こえない。

 サラは私を元気付けようといろいろと話しかけてくれたけれど、会話をしようという気力が湧いてこなかった。

 どうして私はこの歳になってもまだ学園に通っているのだろう。結局、十八歳になっても魔法一つ使えないまま。

 その間にもソフィアは侯爵家の能力で多くの人を助けていた。私との差は広がるばかり。ソフィアが学園で皇族や他の六家の人たちと一緒にいても、ソフィアの存在は引けを取ることはなかった。
 
 魔獣を見せてくれたあの時の男の子は、入学後に何度も私に話しかけてくれた。それなのに私はひどい態度をとり逃げてばかりだった。私に関わって迷惑をかけたくなかったから。

 もともとクラスが違うから偶然会うこと自体がほとんどない中、わざわざ私に会いにきてくれたのに。

 でも私はそんな彼に、最後の会話で「迷惑だからもう二度と話しかけないで」と言ってしまった。それから話しかけてくることはなくなった。あの時の彼の顔が今でも忘れられない……。

 それでいい、これでよかったんだと思っても、悲しくなってしまった。

 以前、「学園を卒業したらお姉様と二人で暮らしてみたいな」とソフィアに言われたことがある。私にはそれが不思議で、「どうして?」と聞くと、「どうしてかな?」とただ笑ってソフィアは答えた。
 ソフィアも家を出たいのかな……? でも、私からすればソフィアが侯爵家から出る理由なんてないと思った。みんなソフィアのことが大切だから。
 でも、私には分からないソフィアの想いもあるのかもしれない。

 最近ふと、思う時がある。

"どうして私はここにいるんだろう?"

 お母様が自分の命を削ってまで私を産んでくれたのに、そんなことを漠然と思ってしまった私への神様からの罰なのだろうか。

 それは突然だった。

 いつものように学園へ来て教室に向かおうとした。けれど、後ろから私を呼ぶ声がして足を止めて振り返った。
 その聞き慣れた可愛らしい声は妹のソフィアのものだ。

「お姉様っ!」

「……え、ソフィア?」

 振り返るとやはりそこにはソフィアがいた。笑顔でこちらへ近づいてくる。
 学園では私が嫌がるから気を遣って話しかけてこないのに、なぜか今は大きな声で私を呼んだ。

「あぁ、お姉様! 追いついてよかった!」

 ソフィアの表情はとても嬉しそうだ。

「どうしたの? 何かあったの?」

 ここは学園の正門前。いくらまだ時間が早いとはいえ、多くの生徒たちがいる。
 ソフィアが私に話しかけたことによってその場にいた生徒たちが私たちに注目しているのが嫌でも分かった。

 私は今とても焦っている。どうしてこんな場所で呼び止めたのかと手が震えていた。
 それでも、周りからの視線を感じてなるべく落ち着いて話した。

「お父様からお姉様にプレゼントですっ!」

「え、お父様から……?」

 お父様が私へプレゼント? プレゼントをもらったことなど、もう何年前のことかわからない。
 お母様がまだ生きていた頃かしら……?

 ソフィアはそう言って、手に持っていたものを私へ渡そうと手を伸ばす。
 そこには小さな箱が。ソフィアは箱を開けて中を見せた。

「これは……?」

「お姉様に早く渡したかったんです。さっき、家を出る前にお母さんがお姉様に渡してって。……その、正直、お母さん……お姉様とあまり上手くいってないかなと心配していたんですけど」

「フレイアさんが?」

「はい、お父様から預かったから渡してって」

 フレイアさん経由だと知ってしまうと、本当にお父様からだと信じていいのか……。なぜ私に直接渡さないの……? フレイアさんが私のことをあまりよく思っていないのは知っているから、少し疑ってしまう。

 ソフィアもなぜこんな目立つところで……と思ったけれど、周りの反応からどうしてなのか分かった。

"まぁっ、侯爵様からのプレゼントですって"

"長女のことは見捨てたのでは?"

"でもソフィア様はとても嬉しそうだわ"

"もともと侯爵様って冷たいお方だし……"

「あの、お姉様……?」

「ううん、ありがとう。ソフィア、あなたが付けてくれる?」

「もちろんです!」

 箱の中には石の付いたペンダントがあった。石は薄茶色をしていて、私の髪色と一緒だな、と思った。そしてソフィアはそっとペンダントを手に持つ。

「お姉様、このペンダント私とおそろいで可愛いですねっ! 実はこれちょっと秘密があるんです」

 ソフィアのペンダントは桜色をしている。みんなはソフィアの髪色をピンクだというけれど、私には綺麗な桜色に見える。

「お姉様、このペンダントには魔石が付いてるんです! この石の能力は……きゃっ」

 ソフィアが私へペンダントをかけてくれようとしたその時、バチっと静電気のような現象が起きた。

 お互い無意識に離れるが、静電気のような現象がなくなることはなかった。
 ペンダントを持っていたソフィアは衝撃が大きかったのか、それを地面へと落とした。

「あっ……ご、ごめんなさいっ!」

 ソフィアは急いで拾おうとしたけれど、それは跡形もなく消えた。

「えっ!?」

 私は驚いてソフィアを見ると、ソフィアはなぜか苦しそうにしている。

「……うっ」

「え、ソフィア? なに、どうしたの!?」

「お、お姉……さま……」

「大丈夫!? 苦しいの!?」

 ソフィアは胸元を押さえて苦しそうにしていた。よく見ると、胸元が小さく光っていた。

 胸元にはいつもソフィアが付けていたペンダントがあった。
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