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一章 一度目の人生
35【聖獣】
しおりを挟むそして私は三ヶ月を牢で過ごし、毒を飲み死んだ。
お父様がやっと会いに来てくれたのに。
なのに、最後に何も言えなかった。
どうしてもっと早く来てくれなかったの?
なぜ三ヶ月も放っておいたの……?
なんて、そんなことはどうでもよかった。ただただ会いに来てくれたことだけが嬉しかった。
お父様はどうして涙を流したの?
私のために力を使ってくれようとしたの?
意識がなくなる直前で、お父様が抱きしめてくれた感触が今でも体に残っている。何年振りに抱きしめてくれたのだろう。
後ろにいたのはお兄様よね? 目が霞んでしまい、顔が分からなかったけれど、でもきっとお兄様だと思うの。
お兄様は本当は私のことをどう思っていたの?
お母様がいた幼い頃は優しかったお兄様。面倒臭そうにしながらも、私の手を引いてくれた。
お父様にも、お兄様にも、もっと自分から歩み寄ればよかった。
愛してもらえるのを待つだけじゃなくて——。
そこでふと今の状況を不思議に思った。
あれ? 私、死んだのよね……?
どうして死んだあとのことを考えているのだろう。おかしいよね? え?
なぜ、こうしてまだ意識があるの。もしかして、あのまま倒れただけなの?
目をゆっくり開いてみると、そこは不思議な場所だった。うん、そうね、これは夢に違いないわ。
『……ア』
周りには誰もいなければ、何もない。ただただ白い空間が広がっている。
なんだかキラキラと光っているようにも見える。不思議な空間……やっぱり夢ね。
『……シア!』
どうしよう、いつになったら夢から覚めるのだろう。それまでこうしているしかないのかしら?
『え、あれ、おかしいな……。聞こえていない……?』
え、何だか幻聴が聞こてきた、ような……。周りに誰もいないのに声だけ聞こえてくるなんて!
『あ~! シア~! よかった、やっと気付いてくれた!』
「えっ!? 私のことを知っているのですか?」
私の名前を呼ぶ声につい、質問してしまった。
『うん、もちろん知っているよ。だって僕はずっとシアのことを見守ってきたから』
私のことを見守って……?
「えーっと、あの、あなたは誰ですか? ここはどこなのでしょう? 私は死んだと思っていたのですが……」
『ここはどこでもないよ。時間の概念がないんだ。言葉にするなら、そうだなぁ……シアの意識の中、かな?』
「は、はい……?」
すみません、ちょっと意味が分からないのですが……。
『ねぇ、こっちだよ。僕の声に意識を集中してみて。そうすれば僕の姿が見えると思うんだ』
いえ、あの……。いきなり意識を集中してと言われてもどうしていいのか困ってしまう。
よく分からなかったけれど、声が聞こえた方をじっと見つめていると、小さな光となり、そこに何かが見えた。
よく見てみると……。
「あら、かわいい猫ちゃん」
小さな白い猫だった。瞳は金色と水色で、つい触りたくなってしまうような綺麗な毛並みだった。
『いや、猫じゃないよ!? 今はこんな姿になっちゃったけど、本当はもっとこう、かっこいいんだから!』
「ふふ。まぁ、そうなんですね」
『信じてない……』
「それで、あなたは誰なのですか? もしかして神様、なのでしょうか? だって、猫が話せるなんて……」
『だから猫じゃないよ! 君たちで言うところの聖獣、かな? 一応……多分……』
「聖、獣……?」
『ねぇ、シア』
「……はい?」
自分のことを聖獣だと言った猫ちゃんが先ほどとは違う真剣な声色で聞いてくる。
『もう一度シアとして生きたい……?』
「あの、何を言って……?」
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「あの、すみません、ちょっと意味が……」
『うん、そうだよね。ごめんね。でも君との会話も初めてじゃないんだけどね』
え?
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もう一度……?
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『……ごめんね、僕の残りの力では時間を戻すことしか出来ないんだ。シアが望むのなら時間を子供の頃まで戻してあげる。そうだな、十年ぐらい、かな……』
十年前に戻れるなら、それなら、もう一度お父様やお兄様、リリーたちにも会えるということ?
会えるの? もう一度……?
やり直せるの……? あの時言えなかったことを、できなかったことを、やりたかったことを。
「私、もう一度、会いたい……」
自然と涙が頬を伝わる。
『なら決まりだね。シア、君は君のやりたいことをすればいいよ』
「私のしたいこと……?」
『そう、例えば復讐、とかね』
「え、ふ、復讐!? 私は、そんなこと——」
『本当に? 本当にそう思ってる?』
「私、は……」
『ははっ。冗談だよ! 子供の頃に戻れるんだから、シアが願っていたこと、あるでしょう?』
「私が子供の頃に? それは——。私はただ、家族として一緒に過ごしたかった……」
『それでいいんだよ、シア。君の人生だ。好きなように生きればいいよ』
「本当にそうしてもいいの? 好きなように生きてもいいの?」
『もちろん。八歳の頃なら、まだやり直せるよ』
「でももし、また同じようになってしまったら……?」
私のこれまでの長い年月を思い出す。思い出されるのは悲しいことばかり。
当たり前だけれど、時間が戻れば私に嫌がらせをしてきた人たちは自分のしたことなど当然覚えてもいない。小さなことも、大きなことも。
あんな人たちが毎日笑って過ごすなんて。
そんなの、許せない——。
『ははっ! 早く魔力を取り戻して。シアは力を付けないと、ね。大丈夫、すぐにまた会えるから』
そう言ったと同時に猫ちゃんと私の体が光り出した。
「え? 待って! まだ聞きたいことが……!」
『ごめんね、僕ももっとシアと話していたいけれど時間がないんだ』
「ここは時間の概念がなかったのでは……?」
『ここはね。けれど外の世界は違う。離れすぎると時間を戻せなくなってしまうんだよ。君なら大丈夫。今度こそ後悔しないように生きて』
「あ、あの! 魔力を取り戻すってどうやって……!」
『あ、忘れてた。僕たちと同じ存在がいるでしょう? すぐに……』
途中で会話はできなくなり、最後まで聞くことはできなかった。聖獣と同じ存在……?
そうして意識が薄れる中、『一度も助けられなくてごめんね』そう聞こえた気がした。
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