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二章 二度目の人生
51【サラへの聴き取り①】
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「二人とも座って」
声を掛けるとリリーは静かに頷きソファーへ座った。けれどサラは勢いよく床へと膝を付き、頭を下げた。
サラのその行動に私もリリーも驚いた。
「お、お嬢様っ、私は許されないことをしました! ですが……ですが、ここから追い出さないで下さい……! どうかお願いします……!」
サラは床に頭を付けたまま。
「サラ!? 追い出さないでって何を自分勝手なことを言っているの! その前にシアお嬢様に言うことがあるんじゃないの!?」
「わ、私は……」
サラの体はぶるぶると震えていた。ここから追い出されることを懸念してのことなのか、してしまったことへの恐怖からなのか。
「ねぇ、リリー。サラが持っていたものを見せてくれる?」
「あ、はい! こちらです」
リリーから渡されたものは小さな白い紙だった。握りしめてクシャクシャになってしまったそれを破らないよう丁寧に広げる。
その紙の中には少しだけ白い粉が付いていた。
「ねぇ、サラ。サラはこれが何か知っているの?」
「い、いえ……わ、私は……何も……」
「そう。なら、お父様に報告するしかなくなるわ。お父様にこれが何なのか調べてもらって、それから……」
「お、お嬢様! どうかそれだけは……!」
サラは必死だ。
「なら、これは何? ちゃんと話して」
「お嬢様の健康を害するような薬ではないとだけ……」
「薬、ね。これは毒じゃないの?」
毒、という単語を聞いてサラが頭を勢いよく上げた。
「そんな、毒ではありませんっ! 本当です! 私がお嬢様に毒を飲ませるなんて……そんな……そんなこと……」
「……それなら何だと思ってこれを私に飲ませていたの? ばれないようにこっそり混ぜるなんて、悪いものを飲ませている自覚があったからじゃないの……?」
「そ、それは……でも、私も飲みましたが特に何も……」
「ねぇ、サラ。飲んですぐに効果が出ない毒だってあるんだよ? 長期間服用して徐々に毒が身体中に回る……とか、思わなかったの……?」
「そ、れは…………」
そう言ってサラはまた下を向いて黙り込んでしまった。もしかするとそういう可能性もあると分かっていたのかもしれない。
サラに質問をしても歯切れが悪く、明確な返答がない。表情だけを見れば、私を本気で害するつもりはなかった……ようには見える。
毒ではなく薬、か。
ただ私の魔力の流れを止めることだけが目的ならば、たしかにそういう目的の薬はある。
私はサラをじっと見つめた。サラは毒ではないと言い切った。これが何かを知っているから、私に飲ませることができたのではないの?
「サラ……これが本当に何か知らなかったの? 知らないと言うなら自分で飲んで確かめたと言ったところで、得体の知れないものを平気で私に飲ませていたってことだよね?」
「…………」
「サラ」
「その薬は、その……」
「うん」
「魔力を……ほんの少しだけ抑えるための薬だと……。ですが本当に健康を害するようなものではありません!」
やはりサラは何か知っていた。魔力に影響はあっても身体を蝕むような毒ではないと。だから罪悪感を抱きながらも私に飲ませることができたんだろう……。
「サラッ! あなた知っていたの!? なんてことをっ、お嬢様はっ、お嬢様はそのせいで……」
リリーが泣きながら私のために怒ってくれる。
サラは頭を床につけながら「申し訳ありません」と何度も繰り返している。
「サラ、これは誰から渡された物なの?」
「わ、分かりません……」
「……本当に知らないの? また私に嘘を付くの?」
「いいえっ! 本当に、分からないのです……。最初に、男が接触してきたことは覚えているのですが……顔を思い出せないのです。たしかに見た覚えはあるのに……」
記憶を混乱させたり幻覚を見せるような魔法をかけられたか、薬を飲まされたか。
「ならどうしてこんなことをしたの……? 私か、それとも侯爵家に何か恨みがあるの……?」
「いいえ、お嬢様! 恨みだなんて、そんなことは絶対にありません! 私は侯爵夫人に助けていただいた恩があるのに……」
……お母様に?
サラの言葉にリリーが声を荒げる。
「それならどうしてこんなことをしたの!? 奥様に恩があるのにそんな変な男の言うことを聞くなんてっ!」
リリーがサラを睨む。リリーは震える両手をぎゅっと強く握りしめている。怒りを抑えているのだろう。
サラが「それは……」と小さな声をもらす。
「ねぇ、サラ。その男に脅されているの? 弱みを握られているとか、誰かを人質にとられているとか……」
「………っ」
サラがびくりと反応した。
「お嬢様、私は……」
「うん……」
サラが黙ってしまう。言いたくても怖くて言えないのか。
「ねぇ、サラ。こんなことを言いたくはないんだけど、私に知られてしまった以上サラの立場は危ないと思うの……」
「あ……」
「サラに危険が及ばないか心配なの。もし家族や大切な人がいるのならその人たちも無事では済まないと思うわ」
これは確信している。リリーもアメリアもいなくなってしまったから。
だって、何かを知ってしまった人を生かしておくと思う……?
「そ、そんなっ……だって、」
「サラ、話してくれる? サラを助けたいの」
「私なんかを、どうして……」
どうして?
サラに裏切られていたことは事実だけれど、辛い時に優しくしてくれた、心配してくれたサラも知っているから。
——偽善者だと言われてしまうかもね。
「サラが大好きだから、かな。こんな理由じゃだめかな」
「そんな、だって、私は……」
リリーが立ち上がり、サラの背中を叩いたことで部屋の中にいい音が響いた。サラは突然叩かれたことに驚いている。
「サラ、だっても何もないの! さっきからウジウジとしちゃって! さぁ、シアお嬢様に全部話しなさい!」
「ねぇサラ、話してくれる?」
「はい、分かりました……。でも、私が知っていることなどほとんどないのでお役に立てるか……」
そうしてサラにはソファへと座り直してもらい、ぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
声を掛けるとリリーは静かに頷きソファーへ座った。けれどサラは勢いよく床へと膝を付き、頭を下げた。
サラのその行動に私もリリーも驚いた。
「お、お嬢様っ、私は許されないことをしました! ですが……ですが、ここから追い出さないで下さい……! どうかお願いします……!」
サラは床に頭を付けたまま。
「サラ!? 追い出さないでって何を自分勝手なことを言っているの! その前にシアお嬢様に言うことがあるんじゃないの!?」
「わ、私は……」
サラの体はぶるぶると震えていた。ここから追い出されることを懸念してのことなのか、してしまったことへの恐怖からなのか。
「ねぇ、リリー。サラが持っていたものを見せてくれる?」
「あ、はい! こちらです」
リリーから渡されたものは小さな白い紙だった。握りしめてクシャクシャになってしまったそれを破らないよう丁寧に広げる。
その紙の中には少しだけ白い粉が付いていた。
「ねぇ、サラ。サラはこれが何か知っているの?」
「い、いえ……わ、私は……何も……」
「そう。なら、お父様に報告するしかなくなるわ。お父様にこれが何なのか調べてもらって、それから……」
「お、お嬢様! どうかそれだけは……!」
サラは必死だ。
「なら、これは何? ちゃんと話して」
「お嬢様の健康を害するような薬ではないとだけ……」
「薬、ね。これは毒じゃないの?」
毒、という単語を聞いてサラが頭を勢いよく上げた。
「そんな、毒ではありませんっ! 本当です! 私がお嬢様に毒を飲ませるなんて……そんな……そんなこと……」
「……それなら何だと思ってこれを私に飲ませていたの? ばれないようにこっそり混ぜるなんて、悪いものを飲ませている自覚があったからじゃないの……?」
「そ、それは……でも、私も飲みましたが特に何も……」
「ねぇ、サラ。飲んですぐに効果が出ない毒だってあるんだよ? 長期間服用して徐々に毒が身体中に回る……とか、思わなかったの……?」
「そ、れは…………」
そう言ってサラはまた下を向いて黙り込んでしまった。もしかするとそういう可能性もあると分かっていたのかもしれない。
サラに質問をしても歯切れが悪く、明確な返答がない。表情だけを見れば、私を本気で害するつもりはなかった……ようには見える。
毒ではなく薬、か。
ただ私の魔力の流れを止めることだけが目的ならば、たしかにそういう目的の薬はある。
私はサラをじっと見つめた。サラは毒ではないと言い切った。これが何かを知っているから、私に飲ませることができたのではないの?
「サラ……これが本当に何か知らなかったの? 知らないと言うなら自分で飲んで確かめたと言ったところで、得体の知れないものを平気で私に飲ませていたってことだよね?」
「…………」
「サラ」
「その薬は、その……」
「うん」
「魔力を……ほんの少しだけ抑えるための薬だと……。ですが本当に健康を害するようなものではありません!」
やはりサラは何か知っていた。魔力に影響はあっても身体を蝕むような毒ではないと。だから罪悪感を抱きながらも私に飲ませることができたんだろう……。
「サラッ! あなた知っていたの!? なんてことをっ、お嬢様はっ、お嬢様はそのせいで……」
リリーが泣きながら私のために怒ってくれる。
サラは頭を床につけながら「申し訳ありません」と何度も繰り返している。
「サラ、これは誰から渡された物なの?」
「わ、分かりません……」
「……本当に知らないの? また私に嘘を付くの?」
「いいえっ! 本当に、分からないのです……。最初に、男が接触してきたことは覚えているのですが……顔を思い出せないのです。たしかに見た覚えはあるのに……」
記憶を混乱させたり幻覚を見せるような魔法をかけられたか、薬を飲まされたか。
「ならどうしてこんなことをしたの……? 私か、それとも侯爵家に何か恨みがあるの……?」
「いいえ、お嬢様! 恨みだなんて、そんなことは絶対にありません! 私は侯爵夫人に助けていただいた恩があるのに……」
……お母様に?
サラの言葉にリリーが声を荒げる。
「それならどうしてこんなことをしたの!? 奥様に恩があるのにそんな変な男の言うことを聞くなんてっ!」
リリーがサラを睨む。リリーは震える両手をぎゅっと強く握りしめている。怒りを抑えているのだろう。
サラが「それは……」と小さな声をもらす。
「ねぇ、サラ。その男に脅されているの? 弱みを握られているとか、誰かを人質にとられているとか……」
「………っ」
サラがびくりと反応した。
「お嬢様、私は……」
「うん……」
サラが黙ってしまう。言いたくても怖くて言えないのか。
「ねぇ、サラ。こんなことを言いたくはないんだけど、私に知られてしまった以上サラの立場は危ないと思うの……」
「あ……」
「サラに危険が及ばないか心配なの。もし家族や大切な人がいるのならその人たちも無事では済まないと思うわ」
これは確信している。リリーもアメリアもいなくなってしまったから。
だって、何かを知ってしまった人を生かしておくと思う……?
「そ、そんなっ……だって、」
「サラ、話してくれる? サラを助けたいの」
「私なんかを、どうして……」
どうして?
サラに裏切られていたことは事実だけれど、辛い時に優しくしてくれた、心配してくれたサラも知っているから。
——偽善者だと言われてしまうかもね。
「サラが大好きだから、かな。こんな理由じゃだめかな」
「そんな、だって、私は……」
リリーが立ち上がり、サラの背中を叩いたことで部屋の中にいい音が響いた。サラは突然叩かれたことに驚いている。
「サラ、だっても何もないの! さっきからウジウジとしちゃって! さぁ、シアお嬢様に全部話しなさい!」
「ねぇサラ、話してくれる?」
「はい、分かりました……。でも、私が知っていることなどほとんどないのでお役に立てるか……」
そうしてサラにはソファへと座り直してもらい、ぽつりぽつりと自分のことを話し始めた。
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