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第一章

第一章10「魔法の暴力」

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 正直油断していた。
 数秒前、ゴブリンが中級の炎魔法を容赦なく撃ってきた。
 容赦がないのは読めていたが、魔法を使うことについては微塵も思っていなかった。

 咄嗟のリアの判断で命が無くなることを防げたがそれがいつまでも続くか分からない。
 早いうちに倒しておきたい。しかし、そう簡単に勝てる相手ではないことは二人とも気づいていた。
 
 リアに視線でサインを送る。
 リアも返してきた。

 3.2.1と指で合図し、

「マグ・テネブリス!」

 突如、視界が、世界が暗黒に包まれる。
 上級魔法の代償でめまい、吐き気、体の節々が痛む。
 その中、上を向き、太陽があるか確認するが、見えそうにない。
 しかし、左右を見渡すとリアの姿をはっきりと目で捉えた。

「リア!今のうちに逃げるぞ!」

「伏せて!」

「は」

 言葉は続かなかった。先ほどゴブリンたちがいた方を何も見えない状況だが見る。
 何かが来ている。何か鋭利な物が。

 リアの言葉がなかったら死んでいただろう。
 鋭利な物はゴブリンが放った氷魔法だった。

「助かった。ありがとう。まだ来そうか?」

「いや、魔法の気配は消えたけど、ゴブリンが近い。多分感覚でこっちに来てる。」

「じゃあちょっとずれるか。この闇魔法がいつ切れるかが問題だな。切れる前に逃げ切るのが理想だが。」

「来る!!」

 またもや命を救われた。
 今度は風魔法だったと思う。
 思うというのは速すぎて見えなかったからだ。早い魔法と言えば風が一番に思いつく。
 これで分かった。あのゴブリンは一体につき一属性の魔法をつけるということに。
 炎、氷、風を撃たれたがそれぞれ来る方向が少しズレていた。
 あのゴブリンたちがそんなことを考えることはできないだろう。
 いや、この油断も禁物なのかもしれない。

「たまには反撃しないと相手の思うままだぞ!マグ・フラマ!」

 獄炎が闇を照らしながら高速でゴブリンのほうに飛んでいく。
 体が壊れそうだ。上級魔法を2発も撃ってしまった。

「っセイナ!大丈夫?!」

「効いてそうか?」

「うん。足音が止まった。今なら逃げれそう。セイナ、乗って!」

「乗るって何に?!」

「私にだよ!」

 おんぶをしてもらった。リアにどんな案があるのだろうか。

「ベンツ!」

 そう言うと、リアの体が浮きだした。

 風魔法で進むというのか。
 俺は何回か魔法を撃ってきたが風魔法は撃ったことがない。
 さっき風魔法を見たが、その風は直進していた。
 だが今はどうだろうか、自由に操っているように見える。
 


 受付の人は説明し忘れていた。
 魔法は低級になると操作しやすく。高級になると暴走しかねないということに。

 

 それをリアは見抜いていた。
 故に今浮いて、進んでいる。それもかなりのスピードで。

 進んでいる途中、セイナの放った闇魔法が切れ、視界が、世界が明るくなる。
 二人はゴブリンの横あたりにいた。
 ゴブリンは二人を見つけると、

「イプ・ベンツ。」

「っ!イプ・グラシエス!危ねえ!」

「ありがとうセイナ!」

「これくらいはしな――。イプ・グラシエス!」

 二回目の詠唱をしなかったら死んでいた。
 ゴブリンが放った風魔法が俺が作った氷の壁を貫通したのだ。

 2分ほど防戦一方だったが、

「そろそろ着くよ!」

「大丈夫だ。もう追ってきていない。」

「え?なんで?」

「あいつらは町に近づけないのだと思う。」

 リアが風魔法を解除する。

「それにしてもいい判断だったな。リア。まさか風魔法を使うなんて考えつかなかったよ。」

「前にセイナがグラシエスでスケートの底の部分を作ってたでしょ。そこで疑問に思ったんだよね。初級になるにつれて操るのが簡単になってるなって。」

「なるほどな。確かになぜスケートの底を作れたのかもよくわからなかった。」

 そんなことを話していると、

「大丈夫でしたか?!先ほどゴブリンと対峙していたのが見えた気がして。」

 あの憎たらしい門番のやつが話しかけてきた。

「なんだお前か。偽善はやめろ。」

「―――。申し訳ないと思っています。確かに言うべきでした。―――軽率な行動はダメだということに気づいてほしかった。冒険者なんかやめてほしかった。」

 門番は思い出すように話を始めた。

「私の両親はこの町で生まれました。その両親の親は冒険者で、私の両親は冒険者にならざるを得なかったのです。そして、死にました。年齢は30歳くらいでした。死因は戦争に巻き込まれただけ。今は北、東と、中央が戦争していますよね。それは40年ほど続いています。意味もない。そんなしょうもないことに私の両親は殺されました。あなたたちを止めなかったのは戦争を止めてほしいという気持ちがあったからです。でも、冒険者なんかやめてもらいたい。矛盾してますよね。」

 長い話が終わった。

「なるほど。そういう理由だったのか。俺達では戦争を止めれない。冒険者はやめられない。それが結論だ。」

 二人は町に入る。

「やっぱり理由があったでしょ?謝ってきたほうが良いんじゃない?セイナ?」

「そうだな。次にここを出るときに謝るとするよ。」
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