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銀雷は罪過に狂う
44話 リリーのステータス
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ステータス。
このファルシアにおいて、誰もが知っている、言わば知ってて当たり前の一般常識だ。
ステータスは人間も魔物も関係無く全ての生物が持っている。
だがそれも当然。ステータスとは魂の情報を可視化したものであり、それを持っていないということは即ち、体に魂が宿っていないことになる。
そしてリリーは、ステータスの存在を知らないと言った。
だが彼女は、どう見ても生きているようにしか見えないし、血も赤く作り物ではない。
これを踏まえて考えられるとすれば、リリーは誰からもステータスの存在を教えられていないということだ。
ステータスは念じれば、簡単に頭の中に浮かんでくる。
逆に考えてみれば、教えられることが無ければ一生見ることも無いのだ。
何故リリーは、母親からもステータスの存在を教えられていないのか。
まあこの疑問も【鑑定】すれば分かることだろう。
しかし、当の本人はというと――
「……ひっぐ……うぅ……美味しい、です……」
号泣しながら肉を頬張っていた。
濁った瞳から溢れる涙が料理にかかるのを気にした様子もなく、真白が次々と出す料理をその痩せ細ったお腹に収めていく。
その横では対抗するようにクウが笑顔で料理を平らげ、その度に真白が目にも留まらぬ早さで料理を補充していた。
料理を作って忙しいかと思われた真白も、時々席に付いては上品に、しかし高速で食事をとっていた。
……食いしん坊がまた増えたな。
俺はその対面に座り、その様子をどこか遠くを見つめるような目で見ていたのだが、このままでは話が進まないと判断してリリーを勝手に【鑑定】することにした。
------------------------------------------
名前:リリー
種族:狼人族
Lv:26
称号:被虐者
<パッシブスキル>
身体強化(4) 精神耐性(6) 打撃耐性(5)
突撃耐性(3) 斬撃耐性(2) 火耐性(2)
痛覚耐性(5) 状態異常耐性(4) 忍耐
<アクティブスキル>
短剣術(2) 採取(5) 調合(2) 薬学(2)
隠密(2) 直感 狂化
<ユニークスキル>
銀雷(1)
----------------------------------------------------------
「……へえ……」
なかなかに面白いステータスだ。
強さで言えば、このあたりの魔物に一対一で何とか勝てるくらいだろう。Eランクはいけるかもしれないが、Dランクの魔物では厳しい、というか負ける可能性の方が高い。
だが、レベルさえ上がればかなり強くなれるんじゃないだろうか。
優秀な各種耐性に、獣人の高い身体能力。
気になるのは、ユニークスキルの【銀雷】だ。
銀色の雷。リリーの髪も銀色だが、何か関係しているのだろうか。
分からないことは多い。
上位属性の雷属性を操る、【雷魔法】というスキルがあるが、これとはどこが違うのか。
ユニークスキルは例外なく強力なものが多いが、そもそもこのスキルが魔法なのかも不明だ。
俺は未だに食べ続けているリリーに話しかける。
リリーは俺が【鑑定】をかけた時はビクッと反応して辺りを見回していたが、目の前に並ぶ料理の方が重要なのかそのまま気にせず食事を続けていた。
俺は幸せというよりは必死に食べるリリーに話し掛ける。
「リリー、【銀雷】って何か分かるか?」
「……?」
俺の質問に対し、口をモグモグさせながら首を傾げるリリー。
一旦食べるのをやめろよ、と俺が言おうとした瞬間、リリーの前にあった料理が全て消え去った。
「マスターが聞いているのです。調子に乗っていると今晩の食材にしますよ」
「――ひっ! ………ご、ごめんなさいです」
真白、俺は食べないからな。
怒った真白によって料理を取り上げられたリリーは、怯えた表情で真白を見た後、涙を襤褸切れで無造作に拭う。
横目でまだ食べているクウを羨ましげに一度見てから、俺に金色の瞳を向けた。
「もう一度聞くが、【銀雷】って言葉に聞き覚えは無いんだな?」
「はい、です」
スキルレベルが一だったからもしやと思ったが、本人もこのスキルについては何も知らないようだ。
……どうしようか。一応スキルはあるのだから、使おうと思えば使える筈。
「……リリー、お前は【銀雷】というスキルを持っているんだが、使うことはできるか?」
「……スキルって何なのです?」
「そこからか……。まあいい、それは後で教える。とりあえず、こう、手からバチバチっと何かが出るイメージをしてみろ」
魔法を使う上で大切なのはイメージだ。【銀雷】が魔法と同じように魔力を使って発動するものなのかは分からないが、何も情報が無い現状、こうやって教えるしかない。
リリーは戸惑うそぶりを見せていたが、やがて小さい両手を前に出し、手の平を上に向けて集中し始める。
「……むむ、むぅ……」
「体内にある魔力……何かの力を感じたらそれを手から放つんだ。お前の髪と同じ、銀色の雷だ」
俺の言葉が終わると同時に、リリーの手の平の上に白、いや、銀色の光が次第に集まってゆく。
「……な、何ですっ!? いやっ!」
光に驚き、パニックになったリリーが手をがむしゃらに振り回すが、その間にも銀色の光は強くなっていく。
どうやら暴走して、制御できなくなっているようだ。
「マスター、お下がりください」
俺を守るようにして目の前に真白が立つ。
真白はそのまま暴走したリリーを見据え――
「真白、殺すなよ」
「……分かってます」
今の間は絶対に殺す気だっただろ。
真白が返事をしてから【空間魔法】で障壁のようなものを張るのと、それが放たれたのは同時だった。
銀色の雷が空気を裂いて矢の如く放たれ、真白の張った障壁に激突する。
だがそこはチート人形である真白。
障壁は衝撃を耐えるのではなく、受け流すように張られたものだったらしく、大して音も立てずにベクトルを変えてリリーのすぐ横へと飛んでいった。
……そう。食事の最中だったクウの元に。
「「あ」」
真白の珍しく間抜けな声と俺の声が重なる。
そして、何かが弾けるような音と共に、辺りが一瞬、光に包まれた。
光が収まり、目を開けた俺の目に映ったのは――プスプスと煙を立てて椅子に座ったまま項垂れるクウの姿だった。
「! ……効いたのか?」
それはおかしい。
クウは【全属性吸収】によって殆どの属性を吸収して、自分の魔力にすることができる筈だ。検証も済んでいる。
「うぅ……ごしゅじんさまぁ……」
って今はそれどころじゃなかった!
「クウ! 大丈夫か!?」
クウは顔を上げて声をかけた俺見た。合った目に、じんわりと涙が浮かび始める。
これはマズイ。
「う……ぐすっ!」
「こ、これぐらい大丈夫だって!」
「くーのごはんがぁ……」
見れば、雷によってクウの目の前の料理は黒焦げを通り越して灰になっていた。
「真白! 追加の料理を今すぐ頼む!」
「かしこまりました!」
それから俺達は暫くの間、クウのご機嫌とりに奔走させられたのだった。
このファルシアにおいて、誰もが知っている、言わば知ってて当たり前の一般常識だ。
ステータスは人間も魔物も関係無く全ての生物が持っている。
だがそれも当然。ステータスとは魂の情報を可視化したものであり、それを持っていないということは即ち、体に魂が宿っていないことになる。
そしてリリーは、ステータスの存在を知らないと言った。
だが彼女は、どう見ても生きているようにしか見えないし、血も赤く作り物ではない。
これを踏まえて考えられるとすれば、リリーは誰からもステータスの存在を教えられていないということだ。
ステータスは念じれば、簡単に頭の中に浮かんでくる。
逆に考えてみれば、教えられることが無ければ一生見ることも無いのだ。
何故リリーは、母親からもステータスの存在を教えられていないのか。
まあこの疑問も【鑑定】すれば分かることだろう。
しかし、当の本人はというと――
「……ひっぐ……うぅ……美味しい、です……」
号泣しながら肉を頬張っていた。
濁った瞳から溢れる涙が料理にかかるのを気にした様子もなく、真白が次々と出す料理をその痩せ細ったお腹に収めていく。
その横では対抗するようにクウが笑顔で料理を平らげ、その度に真白が目にも留まらぬ早さで料理を補充していた。
料理を作って忙しいかと思われた真白も、時々席に付いては上品に、しかし高速で食事をとっていた。
……食いしん坊がまた増えたな。
俺はその対面に座り、その様子をどこか遠くを見つめるような目で見ていたのだが、このままでは話が進まないと判断してリリーを勝手に【鑑定】することにした。
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名前:リリー
種族:狼人族
Lv:26
称号:被虐者
<パッシブスキル>
身体強化(4) 精神耐性(6) 打撃耐性(5)
突撃耐性(3) 斬撃耐性(2) 火耐性(2)
痛覚耐性(5) 状態異常耐性(4) 忍耐
<アクティブスキル>
短剣術(2) 採取(5) 調合(2) 薬学(2)
隠密(2) 直感 狂化
<ユニークスキル>
銀雷(1)
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「……へえ……」
なかなかに面白いステータスだ。
強さで言えば、このあたりの魔物に一対一で何とか勝てるくらいだろう。Eランクはいけるかもしれないが、Dランクの魔物では厳しい、というか負ける可能性の方が高い。
だが、レベルさえ上がればかなり強くなれるんじゃないだろうか。
優秀な各種耐性に、獣人の高い身体能力。
気になるのは、ユニークスキルの【銀雷】だ。
銀色の雷。リリーの髪も銀色だが、何か関係しているのだろうか。
分からないことは多い。
上位属性の雷属性を操る、【雷魔法】というスキルがあるが、これとはどこが違うのか。
ユニークスキルは例外なく強力なものが多いが、そもそもこのスキルが魔法なのかも不明だ。
俺は未だに食べ続けているリリーに話しかける。
リリーは俺が【鑑定】をかけた時はビクッと反応して辺りを見回していたが、目の前に並ぶ料理の方が重要なのかそのまま気にせず食事を続けていた。
俺は幸せというよりは必死に食べるリリーに話し掛ける。
「リリー、【銀雷】って何か分かるか?」
「……?」
俺の質問に対し、口をモグモグさせながら首を傾げるリリー。
一旦食べるのをやめろよ、と俺が言おうとした瞬間、リリーの前にあった料理が全て消え去った。
「マスターが聞いているのです。調子に乗っていると今晩の食材にしますよ」
「――ひっ! ………ご、ごめんなさいです」
真白、俺は食べないからな。
怒った真白によって料理を取り上げられたリリーは、怯えた表情で真白を見た後、涙を襤褸切れで無造作に拭う。
横目でまだ食べているクウを羨ましげに一度見てから、俺に金色の瞳を向けた。
「もう一度聞くが、【銀雷】って言葉に聞き覚えは無いんだな?」
「はい、です」
スキルレベルが一だったからもしやと思ったが、本人もこのスキルについては何も知らないようだ。
……どうしようか。一応スキルはあるのだから、使おうと思えば使える筈。
「……リリー、お前は【銀雷】というスキルを持っているんだが、使うことはできるか?」
「……スキルって何なのです?」
「そこからか……。まあいい、それは後で教える。とりあえず、こう、手からバチバチっと何かが出るイメージをしてみろ」
魔法を使う上で大切なのはイメージだ。【銀雷】が魔法と同じように魔力を使って発動するものなのかは分からないが、何も情報が無い現状、こうやって教えるしかない。
リリーは戸惑うそぶりを見せていたが、やがて小さい両手を前に出し、手の平を上に向けて集中し始める。
「……むむ、むぅ……」
「体内にある魔力……何かの力を感じたらそれを手から放つんだ。お前の髪と同じ、銀色の雷だ」
俺の言葉が終わると同時に、リリーの手の平の上に白、いや、銀色の光が次第に集まってゆく。
「……な、何ですっ!? いやっ!」
光に驚き、パニックになったリリーが手をがむしゃらに振り回すが、その間にも銀色の光は強くなっていく。
どうやら暴走して、制御できなくなっているようだ。
「マスター、お下がりください」
俺を守るようにして目の前に真白が立つ。
真白はそのまま暴走したリリーを見据え――
「真白、殺すなよ」
「……分かってます」
今の間は絶対に殺す気だっただろ。
真白が返事をしてから【空間魔法】で障壁のようなものを張るのと、それが放たれたのは同時だった。
銀色の雷が空気を裂いて矢の如く放たれ、真白の張った障壁に激突する。
だがそこはチート人形である真白。
障壁は衝撃を耐えるのではなく、受け流すように張られたものだったらしく、大して音も立てずにベクトルを変えてリリーのすぐ横へと飛んでいった。
……そう。食事の最中だったクウの元に。
「「あ」」
真白の珍しく間抜けな声と俺の声が重なる。
そして、何かが弾けるような音と共に、辺りが一瞬、光に包まれた。
光が収まり、目を開けた俺の目に映ったのは――プスプスと煙を立てて椅子に座ったまま項垂れるクウの姿だった。
「! ……効いたのか?」
それはおかしい。
クウは【全属性吸収】によって殆どの属性を吸収して、自分の魔力にすることができる筈だ。検証も済んでいる。
「うぅ……ごしゅじんさまぁ……」
って今はそれどころじゃなかった!
「クウ! 大丈夫か!?」
クウは顔を上げて声をかけた俺見た。合った目に、じんわりと涙が浮かび始める。
これはマズイ。
「う……ぐすっ!」
「こ、これぐらい大丈夫だって!」
「くーのごはんがぁ……」
見れば、雷によってクウの目の前の料理は黒焦げを通り越して灰になっていた。
「真白! 追加の料理を今すぐ頼む!」
「かしこまりました!」
それから俺達は暫くの間、クウのご機嫌とりに奔走させられたのだった。
応援ありがとうございます!
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