17 / 22
心節
しおりを挟む「へー、おめでとう………………
……え?今更?」
「ほらな」
「………………」
至極不思議そうな後藤と呆れきったような敬吾に見据えられ、逸は「せっかく報告してんのになんすか」とわざとらしくむくれてみせた。
「いやだって、とっくだと思ってたんだもん……むしろ今まで何してたのってレベルだよな。あんだけプロポーズ乱発しといて」
「な。」
「乱っ………」
逸は改めて、口の軽い酔っ払った自分を殴打したくなる。
まあその一発一発が与太話と片付けられないほど真に迫ってはいたが──と思いつつ、悶えている逸が面白いので後藤は言わずに放っておいた。
「んじゃどっちか名字変わるんだ、呼び方岩井くんじゃまずい?」
「いや?養子縁組とかではないんで……」
「つーか、それに関しては俺もずっと岩居だったぞ」
呆れたように敬吾に言われ、それもそうかと頷いた後後藤は首をひねる。
「え、じゃあ今までと何が違うの」
それは、逸にすれば天変地異さながらの大変化だ。
なんの憚りもなく敬吾を自分の伴侶と思っていられるのだから。
敬吾としてはそんなことは逸の自覚のないままに言われ尽くしてしまっているから新鮮味もないが、手続きだの挨拶だのとごたついていたのでその度これが岐点なのだという感慨はあった。
その辺りのことも知らない、傍から見ていただけの後藤からすると、何ら変わったところがないように見えても無理からぬことだった。
「まあ確かにどっちかの籍に入るとかそういうことじゃないんだよな。ただ限りなくそれに近い権限みたいなのをお互い持っとくって感じ、保険だの相続だの入院、手術だの」
「へえ………」
「もー、契約契約公正証書のコンボ」
ここのところその手続きにかかって忙殺されていた敬吾はややげんなりとした顔をする。
これが男女の話で婚姻届一枚で済むのならそれはもう幸せいっぱいなだけでいれば良い。
しかし同じく忙しかったはずの逸はまさにそんな顔をしていた。
特に、社会的な事柄はややこしくも整備されている法の中で手続きを済ませたが、倫理的な色合いの強い貞節関係は個人的な契約を交わす他なく、敬吾がわざわざそれをしようと言ったことが嬉しかったのだ。
ただでさえ面倒続きな上、下手を踏めば喧嘩沙汰にもなり得る、少々口が重くなってしまう内容でもある。
事実逸は言おうかどうか悩んでいた。
万一自分が──有り得ないが──浮ついたらそれを不貞だとしたい、誰かが敬吾に手を出したらそれを罪だと罰したい。
自分は心底そう思っているが、敬吾は。
その思いを察してくれたのかもしれないし、逸と同じように考えてくれたのかもしれない。
なんにせよ手間を掛け、自分を逸に縛ると敬吾が言ったのだ。
四角張った、事務的な契約書に花模様が浮かんで見えるほどに嬉しかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる