ずっとこっち向いててください

心節 2

「なるほどね」と後藤が打つ相槌には、やはり驚きも感激も何もない。

「式とかは？挙げんの？」
「なにをすんだよそれ一体………」

心底苦々しい顔をする敬吾にやはりかと逸は苦笑する。
逸としては、可能ならばそう言ったお披露目もしてみたいような──気がしなくも、ないような。

「え？たまにやってるカップルいるじゃん」
「いるけどさ……」

敬吾の知る限りではそういった人々は少なからず社会的な認知だとか立場の向上を旨としていたと思う。
そうでなくとも最低限周囲の理解があってこそだ。

「そこまでする気ない」

そう言ったあと敬吾はコーヒーカップを唇につけたままはたと静止し、首を傾げながら逸の方を伺うようにちらりと見る。

「………ぞ？」

その少し気遣わしげな視線が可愛らしく、逸は少々残念に思ったことも忘れて笑ってしまった。

「はい」

不満などひとつもなさそうな逸の返事に安心し、敬吾がコーヒーを飲んでいると後藤はつまらなそうに背伸びをする。

「なーんだ。見たかったのに」
「面白がってんだろお前」
「うん」
「あのなぁ……」
「いやまぁ、でもほんとに」

敬吾に窘められて苦笑しつつ、しかし後藤はそれを心底微笑ましげな笑顔にした。

「嬉しいからね、岩井君と敬吾がそういう風になるのは」
「………………」
「おめでとう」

──胸が詰まってしまって、敬吾は何も言えなかった。
逸とのことを知っている友人はそう多くなく、そもそもが祝われることだと思っていない節があった。
そんな冷めた、少々諦めていたような気持ちを温められると柄にもなく嬉しくて、言葉が出ない。

逸がきちんと礼を返すのを、少し泣きたいような気持ちで聞いていた。