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心節 4
しおりを挟む「敬吾君、本当に、本っ当に申し訳ない!」
「いやあの……ほんとに、お願いですから顔上げて下さい……」
中庭の見える料亭の個室の中、文字通りの土下座をしている逸の両親、光一と瞳に敬吾はおろおろするばかりだった。
普段見慣れない敬吾の動揺ぶりに、逸もおたついてどちらをフォローすればいいのか分からない。
それほどの謝罪ぶりだった。
二人がやっと顔を上げたのはそろそろお運びも来てしまいそうだからと敬吾が懇願してやっとのこと。
実際襖が開いてからも光一は敬吾の手を握り、恐縮しきりだった。
「うちの愚息が、本当に申し訳ない!嫌になったらいつでも捨ててくれて構わないから」
「父さん!」
それまでは立場を決め兼ねていた逸も、これにはさすがに抗議した。
が、光一は聞いていない。
同じく息子を完全に黙殺する瞳も敬吾ににじり寄り、憐れむような悲母さながらの表情で訴える。
「もしね、この馬鹿が何かしでかしたら本当に、何っでも言ってね!あたしたちは敬吾君の味方だからね!」
「あのなあ、しでかさないから!何も!」
敬吾を悲しませるようなことなどするはずがない、という確固たる自信が逸をやや苛立たせた。
それでもやはり二人は聞く耳をもたず、逸は諦めたような溜め息をつく。
実の息子の言葉すら聞かないのだ、自分が何を言ったところで──とは思いつつも「自分も好きでしていますから」と敬吾が訴えると、二人はやっと腰を落ち着かせる。
やっとそうして腰を下ろしはしたものの、光一のやや鬼瓦に似た顔は未だ苦し気だ。
「敬吾君のご両親にも申し訳が立たない。近いうちにきちんとお詫びをさせて頂くけれども」
「いや、お詫びなんて本当に。滅相もないです」
本当に恐縮してしまっている敬吾を数秒眉尻を下げて見つめた後、とりあえずは宥められつつも光一は「でもなあ」と言った。
「わざわざこんないい青年を。自分にお似合いのチャランポランで手を打っとけばいいのにこのバカ息子はもう~」
言っていることは辛辣だがさきほどよりは口調が砕けているので敬吾も安心して笑う。
が、逸は流石に不愉快そうである。
光一が宣い、瞳の頷くそれは逸としても何度も考えたことだったのだ。
そして、考えたところでどうすることもできないことでもあった。
「いや、そういう話に関しては自分も両親に心配をかけてたようですから。むしろ逸君でよかったと喜ばれてるので……、そう悪し様に仰らないで下さい」
また敬吾が嘆願すると、心配そうに目元を細めながらも瞳が瞬く。
「本当に?無理してない?」
「本当です本当です!な?」
急に話を振られて逸が慌てて頷くと、両親はじっとりと疑わしげな目で我が子を見た。
「なんだその態度の違い!」
ぱんぱんと腹立たしげに膝を叩いてみせる逸はまた黙殺され、光一と瞳は二人揃って頭を落とし、深く深く溜め息をついた。
「……とは言ってもやっぱり、この馬鹿の親としては敬吾くんが良いなら良いだろうでは済まない。申し訳ないけども、ご両親との席も設けさせてもらうな」
「──はい」
なんとなし切ない気持ちになり、顔合わせはともかくその謝罪を両親が固辞してくれるよう敬吾は祈る。
恐らくそうはするだろうが。
その敬吾の居た堪れない胸中を察したか、光一はまた苦笑気味に破顔した。
「……それにね、礼を失したままでは祝えるものも祝えない。逸は大馬鹿だがやっぱり息子だ、こんな風に伴侶を得たことが親として本当に嬉しい」
「…………………」
その柔らかな声音に二人して言葉を失っている間、感極まっている様子の光一の隣で瞳も深く微笑んでいた。
「敬吾君と知り合ってから逸は随分変わりました。まだまだ頼りないとは思うんだけど……どうぞ末永くよろしくお願いします」
そう言って瞳は土下座とは違う綺麗な座礼で頭を下げ、言葉が出なくなってしまっている光一もそれに倣った。
こちらこそよろしくお願いしますと礼を返した後は「じゃあ謝罪はまた改めてにしましょう」と、生意気は承知で敬吾が空気を切り替える。
光一も瞳も形ばかりその提案に甘え、そこからは美味しい食事を楽しんだ。
遅れて合流した兄二人がやはりそれぞれに「愚弟が」と頭を下げて兄弟喧嘩の片鱗が見えてしまったのも、微笑ましいの範疇にどうにか収まっていた──。
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