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心節 6
しおりを挟む「ちーす」
「…………こんにちは。」
やや高めの後藤のテンションに、面倒臭そうな逸の半眼は気にすることなく後藤はさっさと自分の話を進める。
「はいこれ。ちょっと遅くなったけど、お祝いね」
「えっ、……マジですか、ありがとうございます」
「まあほんと気持ちだけど。んじゃね」
「え?上がっていかないんですか」
「うん。次飛行機逃したらぶち殺される」
穏やかでない物言いと本当に急いでいるらしい後藤の様子に逸が驚いていると、どうせ上がっていくのだろうと文字通り胡座をかいていた敬吾も出てきた。
「おう敬吾!じゃーね!」
「え?もう行くのか?」
「なんか急いでるんですって、これお祝い──」
などと言っているうちに後藤はもう小走りに外階段を駆け下りようとしていた。
その身長のおかげで辛うじて見えている後頭部に敬吾が「送っていくか!?」と声をかける。
「いや、走れば間に合うから!二人でそれ見てろ!」
「え、おう──」
「じゃあなー!」
一方的にそう言い切ると、慌ただしい足音だけ残して後藤は一瞬で姿を消した。
「………どこ行くんだ?あいつ」
「さあ……?」
その残滓が消えるまでぽかんとしていて、逸はようやく渡された紙袋の存在を思い出す。
「見てろってなんでしょうね」
「ああ、お祝いな」
袋の中身は薄いが大判でずっしりと重く、後藤の雰囲気とは似ても似つかない上品で華やかな包装が施されていた。
それを丁寧にほどくと、真っ白な表紙の本が一冊。
簡素極まりないが上質な装丁の表紙を開くと、頁もしっかりと厚い滑らかな紙だった。
──そしてその紙の上には、並んで歩く二人連れの後ろ姿を捉えたセピア写真。
見たことのない背中だが──普通、自分の後ろ姿など、見たことがなくて当然だ。
「これ……俺ら?ですよね?」
「……た、たぶん………」
幽かに疾るような気持ちで頁をめくると、今度ははっきりと二人揃って「自分だ」と思う。
ごく自然だが恥ずかしくなるほどの──幸せそうな、と言ってもいいほどの笑顔は、互いに見知ったものだった。
揃って無言のまままた頁をめくる。
その度現れるのは、一緒に食事に行った時や二年ほど前一緒にアウトドアレジャーに出かけた時、ことあるごとに後藤がふざけてシャッターを切っていたスナップ。
優しい記憶をそぞろに思い返す時間のような。
「………凄いな」
思わず敬吾が零すと逸は無言で頷く。
そうしてその先は、いつの間に訪ねていったのか敬吾の家族。
やはり取り留めのない、飾らない表情の写真が多いが桜と美咲だけはしっかりとカメラを見てピースサインなどしているあたりがまた彼女たちらしい。
そこに、出しゃばらないが洒落たデザインで家族からのメッセージも添えられている。
逸の家族も同じように綴られていて、そこに織り交ぜられる連れ立った歩き姿や浮かない表情の敬吾と苦笑している逸は恐らく、逸の両親に挨拶をする直前のものだった。
写真は本当に、肩肘張っていなくて自然な表情の見事なものばかり。
裏表紙に指が届く頃には、それぞれ嘆息を漏らしてしまっていた。
──が。
「忍者かあいつは……!」
「あはは!ほんとですよね」
嬉しげだが少し呆れたような笑みを揃って零し、敬吾が「でも」と続ける。
「……良いの見つかったな」
「ですね」
落ち着いたセピア色と色ガラスは、きっとよく似合うはずだった。
心節 終わり
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