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祝福と憧憬 5
しおりを挟む「いいなあー、結婚式ー」
「あれ、さっちゃん結婚願望あったんだっけ?」
「いや参加する側の話しです」
「えぇ?なんでまた」
敬吾が瞬くと、幸はふっと呼吸を逃して腕を組んだ。
「結婚式ってか披露宴ですけどね、あんながっちりおめかしできる機会あんまりないですもんー。おしゃれワンピ着てちっさいバッグ持って美容院行って豪華なご飯とケーキですよ!テンション上がりますよ!」
「へー……そういうもん?」
普段どちらかと言うとシンプルな格好が多い幸がこんなにも熱を込めることが意外で、敬吾は更に大きく瞬く。
これが女心というものか。
「そういうもんです!やっぱ普段するお洒落とは全然違いますもん。ただまあ──」
「?」
幸が悲壮感たっぷりに溜め息をついた。
「………その分お金掛かりますけどね。女子は。」
「ああーーーーーー、」
「もーね、今姉が同級生の結婚ラッシュで。ヒィヒィ言うとりますわ」
「ふわーー………そっかーー………」
「そしてね、同級生ともなりますと招待客も大分被りますのでね?毎回毎回服も同じもん着られんのですよ、写真だの動画だのも女性陣中心で撮られちゃうもんでがっちり記録に残りますしね?」
「生々しい生々しい」
「おはようございまーす」
出勤して来た逸がタイムカードを押す。
各々挨拶を返すとちらりと目が合い、敬吾は軽く息を呑んだ。
昨夜は何と言おうか──あまりに熱がこもっていて。
敬吾は寝ている逸を起こさずそのまま出てきたので、今初めて顔を合わせたことになる。
何を思っているのかふと笑いかけられてしまい、敬吾はなにやら追い詰められている気がした。
「さて、じゃああたし休憩行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」
幸がいなくなってしまうと、微妙な沈黙が落ちる。
こんな日に限って客足も悪いし大した作業もない。
「今日──」
「敬吾さん──」
「えっ?」
「あ、先どうぞ」
「いや……暇だぞって言おうとしただけ………」
歯切れ悪くそう言って視線を逃がす敬吾に、逸は困ったように笑いかけた。
「雨降ってますもんね」
「えっマジで?」
「敬吾さん帰るとき止んでるといいんですけど……荷物結構でかいでしょ?」
「だなあ」
「あと、これ」
逸がロッカーを開き、紙袋を敬吾の荷物の近くに置く。
昨日言っていたホットサンドか。
「電車の中で食べて下さい」
「──あ、どうもな……」
そこへ遠くから、スタッフを呼ぶ声が届いた。
機敏に返事をしそちらに向かった逸はいつも通りの明るい様子だったが、先の声と横顔が妙に悲しげで。
少々気に掛かる。
──が、そこからは客足も増え篠崎も出勤してきて、話をすることもなく敬吾の退勤の時間になってしまった。
──逸の作ったホットサンドは美味かった。
敬吾の好きな蒸し鶏と野菜、苦いチョコレートとアーモンド。
食べ終えた後にコーヒーを飲みながら、敬吾は昨日からの逸のことを考えていた。
──あの表情は、なんなのだろう。
押し隠そうとしているようだが見え隠れしてしまう、物憂げで、思慮深いような──
(苦手なんだよ…………)
あの男の、明るくない表情は。
あの日敬吾を陥落させたのもその表情だった。
憔悴して、擦り切れた、震えている子犬のような。
(なんかあったのか……?)
コーヒーを飲みながら目を閉じ考えると、携帯が震えた。
車内も空いているのでそのまま通話にする。
「………なに?」
『サプライズでいっちー来るとかない??』
「ねえよ。」
『あたしそーゆーのちゃんとびっくりできるよ!?』
「安心しろ。ない。」
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