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SugarCat 7
しおりを挟む低く低く掠れた声は、地獄の風はこんな響きだろうかと連想させた。
ひゅっと冷える背中に逸が思わず姿勢を正すと、敬吾は苛立ちを吐き出すようにため息をついて立てていた膝を下ろす。
「風呂入る。上がった時にまだいたらお前覚えとけよ」
「えっ!!ま、敬吾さん待ってそれは──」
──怖い!
今離れるのは、ひたすら怖い。
敬吾の心情がどう転がってしまうものか──
「うるっっせーなーもう!帰ってなかったら食いちぎるぞ!」
「うっ………」
敬吾の犬歯の鋭さを思い出し、逸はベッドから下りていく敬吾に伸ばした腕を数センチ引っ込めてしまった。
敬吾が慣れなかった頃は何度か掠められて本当に痛かったものだ──
──などと考えてしまうが、しかしチャンスは敬吾が浴室に入るまでの短い間しか無い。
なけなしの勇気を振り絞って逸は敬吾の後を追う。
「敬吾さんっ、ごめんなさい………本当に、ごめんなさい」
「………………」
逸の声音は真摯だが、あまり変わり身が早すぎるのも説得力がない。
大人しく抱きしめられたままながらも、敬吾は納得のいかない顔をしていた。
心底怒っていると言うわけではないが、これで有耶無耶にされるのも腹立たしい。
後ろ手に逸の頭を叩くと、敬吾は溜め息をついた。
「分かったから。離れろ」
「………………」
やや落ち着いたもののまだ呆れているらしい敬吾の声に、逸は悲しげに眉を下げて従う。
やはり帰らなければならないだろうか。
そのまま逸がしょんぼりと肩を落として見送っていると、その敬吾が僅かに振り向いた。
「……腹減ったからなんか作っといて」
「! はいっ!」
逸がぴんと背を伸ばし、嬉しげに元気な返事をする。
「でもそれ食ったら帰れ。」
「う……はい…………」
またてろんと肩を落とした逸を見て少し笑い、敬吾は今度こそ浴室に消えた。
甘やかしてはくれないが、これが敬吾の優しさであることももちろん分かっていた。
それで対等になるものではないが、きちんと対価を払わせてくれる。
安堵を含んだ呼吸を逃し、逸は冷蔵庫を開けた。
(何作るかなー……)
野菜室の中で熟しすぎたトマトと唐辛子を使ったパスタは甘くて辛く、美味しく出来上がって逸はなんとか敬吾を笑わせることに成功した。
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