こっち向いてください

もなか

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TrashWorks 11

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視線と同じく静かな声音だった。
だが微かな揺れが切ない。
泣いてしまうのだろうかと逸は一気に心配になる。

「……なんか言うことねえのか!」
「えっ!すみませんっ!」
「何がだ!?」
「えっ!?えっとっ、変なやきもちやいて…………??」
「………………」

無言で額を張られ、逸は小さく仰け反った。

「なんっにも分かってねえじゃねーか!!」
「うっ……?」

少々うろたえた間に敬吾にぐいぐいと押し上げられ、なぜかきちんと正座してしまった逸は額を押さえたまま立ち膝の敬吾を見上げる形になった。

「俺が何のために断ったと思ってんだよ。お前が言った通りやっぱ嫌だぞ、あんな必死なの断わんのは!」

──そうだ。
だから自分も振られずに済んだのだ。

こくこくと頷く逸に敬吾は、「そうじゃねえだろこの馬鹿」とひとりごちる。
それに恐怖したように、やや訝しく首を傾げる逸はやはり大馬鹿者だ。
普段はそれなりに頭も切れるくせに、自分が絡むとどうもこの男は──

「──お前、俺がもしかしたら流されると思って不安だったんだろ。俺は実際断ってんのにだ」

言葉にされると愚鈍も甚だしい。
流石に恥ずかしくなって逸はやや小さくなった。

「それ以前に俺が恋愛対象にされんのも嫌なんだろ。そんなの誰にもどうっしようもねえのに」

これもまたその通りで、冷静に言われると非常に考え足らずな感情だ。
更に小さくなりながら赤くなり、逸は小さく頷く。

「──で、それを俺に知られたら嫌われるって思ってる」

それも、その通りだ。
だがそこだけは恥じることもなく狂信者のように曇りのない気持ちで頷いた。
敬吾はため息をつく。

「……そこがおかしいっつってんだろ。栗屋さんが誰好きになろうと自由だし、俺ちゃんと断ってるし。お前がどうこうできるもんじゃない」
「う……」
「……でもどう思うかは自由だろ。妬くのはいいよ別に、お前彼氏だろ」
「────!」

まだ落ち込んだような、それでも華やいで一気に近づく顔をバスケットボールよろしく片手で止めてから敬吾は続ける。

「んでそのやきもちめんどくせえなって思うのも俺の自由なわけ!まあもし喧嘩して別れるようなことになったらお前の不安は的中なわけだけども!!」
「ええっ………!」

もがもがと呻いてから必死に敬吾の手を退け──自分が引けば早いのだと気づくのには数秒かかった──逸はもう一度敬吾ににじり寄り、かぶり付きで聞き募った。

「ほらぁ!やっぱりめんどくさいんじゃないですかっ……」
「そりゃめんどくせえよ」
「じゃあっ……」
「だから!めんどくせえと思ってんのは俺が謂れなき誤解を受けてるからだ!!栗屋さん振るのもお前の焼きもち許すのもなんで選択肢から外れてんの?なんでそこの是正からしなきゃなんねーんだよ!」
「………………へ」

きっちりと厳格だった敬吾の顔がややそらされて、僅かに赤らんでいくように見える。──のは、逸の願望だろうか。
その疑いが消えないので逸はいつまでもそうして敬吾の顔を見守っていた。

──浮かれて良いのだろうか。



やはり判断がつかずに結局教えを乞うことになる。

「…………え、じゃあ……」
「…………………」
「……俺むちゃくちゃ妬いても敬吾さん、嫌にならない?………」
「………………………………」

相変わらず不服気な顔はやはり、すこし赤い。
今度は逸の目の迷いではない。
小さく頷いたのもきっと。

「……………じゃあ俺、あの………」
「………………」
「やっぱまだ妬いてるから、………」
「………………」
「──俺だけの敬吾さんが見たいんですけど」
「……………………」
「──嫌いにならない?」

──嫌う、どころか。
静かに低まった声は腰から背中をくすぐった。
何をされるのかなど、分からないが。

「………たぶんならない」
「…………………っ」

一応の余地は持たせたものの、かなりの確信を伴った、全ての解だった。






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