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とある下町の、八百屋にて、事件が起こった。
「いやぁ、すまんね、篤郎さん!こんなことに呼び出しちゃって!」
「いえいえ、こんなこと、なんて言いなさんないで、どんどん頼って欲しいですぞ」
ハチマキを巻いた昔ながらの八百屋のおじさん、という感じの男性に、車椅子にのった、シルクハットを被り、ヒゲを蓄えたおじいさん……篤郎と呼ばれた男性は、そう答えた。
「いやぁ、それでなくなったというのは、ここの野菜たちかい?」
「へい!そこの人参とかジャガイモが無くなったんですよ!」
八百屋のおじさんが指さす方向は、ちょうど店の玄関……通りすがりの人に見える位置に置いてある棚を指さした。
「ほらあんた!あんなところに置いたら取られるに決まってんじゃないの!
ほんっとうちの旦那がすいませんねぇ……」
「いやぁ、そんなこと言わないでくださいよ。
うちみたいなところでも頼ってくれると嬉しいんですから」
「いやぁ!操介ちゃんも立派に手伝うようになっちゃって!
帰りになんか奢って言ってあげるわよ!」
「こんな年齢ですし、操介ちゃん呼ばわりはやめてくださいよ……」
と、答えるのは、篤郎……ではなく、後ろで車椅子を引く20代後半くらいの男性……操介だった。
「こらこら、操介。
私たちは早いところこの事件の解決をしなければならないんですよ」
「事件って言ってもじいちゃん……。
ほんとにここで事件が起こったのかい?」
というと、篤郎はその長い髭を揺らして笑い、
「はっはっは、それでは操介、少し取られた辺りを見渡してご覧なさい」
「取られたあたりを?」
操介は篤郎の発言を繰り返しながら、車椅子から手を離し、取られたと言われる周辺を探し始める。
「うーん、人参の値段は一本39円……安いし……ジャガイモも一個46円…………って買って帰るか……」
「こらこら、操介、しっかりと調べなさい」
操介は、篤郎に言われた通り、しっかりとあたりを調べ始める。
籠に入った野菜たちは、どれも新鮮で……と操介が呟いていると、
「あっ!」
操介が声を上げる。
八百屋のおじさんとおばさんは、2人して操介の視線の方向を見ると、
「なんじゃこりゃ……」
「お金…………だね」
「そうです、お金ですよ」
篤郎は、その人の良さそうな笑顔で、話し始める。
「ここ最近、子供がこの商店街に出入りしているのは、知っていますかな?」
「あぁ、俺んとこには来たことは無いが、確か……」
「社(やしろ)さんとこのけんちゃんかい?」
おばさんが声を上げると、篤郎はそれにニッコリと微笑んでから、操介に目配せする。
操介は急いで篤郎の後に周り、車椅子をお金の落ちてあった場所に運ぶ。
「ここには、お金があった」
そして、篤郎はおじさんの方を指さし、
「そして、最近お使いに来ている少年がいるのを知っているのに、何故か八百屋のおじさんは来たことがないと言った」
「確かに、八百屋ってお使いに来るにしては、だいたい来るんじゃないんですかね?」
「そして、先程操介が言ったように、ここの野菜は安くて、そして人気がある」
「そうですね、僕も昔からよく使いますし」
「それで、ここにおいてあるお金は、ちょうど85円」
「…………人参とジャガイモをたした値段?」
「そうかもしれないねぇ」
「いーや!そうだよ!」
おじさんが声を上げると、操介と篤郎はそちらの方を見る。
「この前ちっちゃい子が店を遠くから見ていたから、なんか買い物かい?って聞いたら、涙目になって逃げちまってさぁ……」
「あんたの顔が怖かったから逃げたんじゃないの?!」
「……多分そうかもしれなぁ……」
「まぁ、真実がそうかとは限りませんが、今回はこのお金でチャラにしてあげませんか?」
「……?なんでこのお金でチャラなんだ?」
まだ分かっていないようなので、操介が説明を始める。
「えっと、このお金、けんちゃんって子が置いてったかもしれない、ってことですよ」
「あぁ、確かに、うちの旦那の怖さにびびって、いない間にお金置いてとって帰っちまったってことかい?」
「このかごの裏においてあったのも、背が小さいからここに置くしかなかった、と考えるのが妥当ですねぇ……」
篤郎の言葉に、八百屋夫妻は、うんうんと頷く。
「まぁ、俺の勘違いかもしれなかったし!篤郎さんがそういうならそうだろうな!」
「今度からあんたも子供を怖がらせない顔して店番やんな!」
「無理言うなってぇ……」
そんな八百屋夫妻のやりとりを、篤郎と操介は微笑みながら見届けて、今回の事件は幕を閉じた。
「はぁ、まさか気づいていなかったとは…………」
操介は篤郎を載せた車椅子を引きながら、話し始める。
「でも、二人分の食料を貰えるのはいつもラッキーだと思うんだよねぇ……」
操介の手には、袋に入った野菜が揺れていた。
「じいちゃんは、食えないもんなぁ……」
彼の名前は、喜寿操介(きじゅそうすけ)
至って普通の探偵の助手……のようだが、真実は違う。
喜寿篤郎(きじゅとくろう)という人物はこの世にいない。
このヒゲを蓄えた壮麗の男性は、人形である。
そう、これは単なる事件簿ではない。
ひょんなことから人形とともに探偵をやることになった天才人形師、喜寿操介の、事件簿である。
「いやぁ、すまんね、篤郎さん!こんなことに呼び出しちゃって!」
「いえいえ、こんなこと、なんて言いなさんないで、どんどん頼って欲しいですぞ」
ハチマキを巻いた昔ながらの八百屋のおじさん、という感じの男性に、車椅子にのった、シルクハットを被り、ヒゲを蓄えたおじいさん……篤郎と呼ばれた男性は、そう答えた。
「いやぁ、それでなくなったというのは、ここの野菜たちかい?」
「へい!そこの人参とかジャガイモが無くなったんですよ!」
八百屋のおじさんが指さす方向は、ちょうど店の玄関……通りすがりの人に見える位置に置いてある棚を指さした。
「ほらあんた!あんなところに置いたら取られるに決まってんじゃないの!
ほんっとうちの旦那がすいませんねぇ……」
「いやぁ、そんなこと言わないでくださいよ。
うちみたいなところでも頼ってくれると嬉しいんですから」
「いやぁ!操介ちゃんも立派に手伝うようになっちゃって!
帰りになんか奢って言ってあげるわよ!」
「こんな年齢ですし、操介ちゃん呼ばわりはやめてくださいよ……」
と、答えるのは、篤郎……ではなく、後ろで車椅子を引く20代後半くらいの男性……操介だった。
「こらこら、操介。
私たちは早いところこの事件の解決をしなければならないんですよ」
「事件って言ってもじいちゃん……。
ほんとにここで事件が起こったのかい?」
というと、篤郎はその長い髭を揺らして笑い、
「はっはっは、それでは操介、少し取られた辺りを見渡してご覧なさい」
「取られたあたりを?」
操介は篤郎の発言を繰り返しながら、車椅子から手を離し、取られたと言われる周辺を探し始める。
「うーん、人参の値段は一本39円……安いし……ジャガイモも一個46円…………って買って帰るか……」
「こらこら、操介、しっかりと調べなさい」
操介は、篤郎に言われた通り、しっかりとあたりを調べ始める。
籠に入った野菜たちは、どれも新鮮で……と操介が呟いていると、
「あっ!」
操介が声を上げる。
八百屋のおじさんとおばさんは、2人して操介の視線の方向を見ると、
「なんじゃこりゃ……」
「お金…………だね」
「そうです、お金ですよ」
篤郎は、その人の良さそうな笑顔で、話し始める。
「ここ最近、子供がこの商店街に出入りしているのは、知っていますかな?」
「あぁ、俺んとこには来たことは無いが、確か……」
「社(やしろ)さんとこのけんちゃんかい?」
おばさんが声を上げると、篤郎はそれにニッコリと微笑んでから、操介に目配せする。
操介は急いで篤郎の後に周り、車椅子をお金の落ちてあった場所に運ぶ。
「ここには、お金があった」
そして、篤郎はおじさんの方を指さし、
「そして、最近お使いに来ている少年がいるのを知っているのに、何故か八百屋のおじさんは来たことがないと言った」
「確かに、八百屋ってお使いに来るにしては、だいたい来るんじゃないんですかね?」
「そして、先程操介が言ったように、ここの野菜は安くて、そして人気がある」
「そうですね、僕も昔からよく使いますし」
「それで、ここにおいてあるお金は、ちょうど85円」
「…………人参とジャガイモをたした値段?」
「そうかもしれないねぇ」
「いーや!そうだよ!」
おじさんが声を上げると、操介と篤郎はそちらの方を見る。
「この前ちっちゃい子が店を遠くから見ていたから、なんか買い物かい?って聞いたら、涙目になって逃げちまってさぁ……」
「あんたの顔が怖かったから逃げたんじゃないの?!」
「……多分そうかもしれなぁ……」
「まぁ、真実がそうかとは限りませんが、今回はこのお金でチャラにしてあげませんか?」
「……?なんでこのお金でチャラなんだ?」
まだ分かっていないようなので、操介が説明を始める。
「えっと、このお金、けんちゃんって子が置いてったかもしれない、ってことですよ」
「あぁ、確かに、うちの旦那の怖さにびびって、いない間にお金置いてとって帰っちまったってことかい?」
「このかごの裏においてあったのも、背が小さいからここに置くしかなかった、と考えるのが妥当ですねぇ……」
篤郎の言葉に、八百屋夫妻は、うんうんと頷く。
「まぁ、俺の勘違いかもしれなかったし!篤郎さんがそういうならそうだろうな!」
「今度からあんたも子供を怖がらせない顔して店番やんな!」
「無理言うなってぇ……」
そんな八百屋夫妻のやりとりを、篤郎と操介は微笑みながら見届けて、今回の事件は幕を閉じた。
「はぁ、まさか気づいていなかったとは…………」
操介は篤郎を載せた車椅子を引きながら、話し始める。
「でも、二人分の食料を貰えるのはいつもラッキーだと思うんだよねぇ……」
操介の手には、袋に入った野菜が揺れていた。
「じいちゃんは、食えないもんなぁ……」
彼の名前は、喜寿操介(きじゅそうすけ)
至って普通の探偵の助手……のようだが、真実は違う。
喜寿篤郎(きじゅとくろう)という人物はこの世にいない。
このヒゲを蓄えた壮麗の男性は、人形である。
そう、これは単なる事件簿ではない。
ひょんなことから人形とともに探偵をやることになった天才人形師、喜寿操介の、事件簿である。
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