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2話
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「よー、いるかー?」
場所は普通より少し敷地が広く、古そうな家の、少し広い庭。
声の主である、スキンヘッドでサングラスをかけた柄の悪そうな男は、その庭から見えるガラス戸に声をかける。
「はいはい、なんですかー?」
一般常識的に危ないであろうその男の顔を見ないままガラス戸を開け、声の主を見た20代後半くらいの男性……喜寿操介(きじゅそうすけ)は、驚くでも怖がるでもなく、ため息をついた。
「はぁ、毎回言ってますけど、ちゃんと扉から入ってきてくださいよ」
「しゃーねーだろ、ここから入んのが1番コーリツがいいんだからよ」
不思議な効率、のイントネーションにツッコミをすることのない操介は、懲りない目の前の男性に対して、家に入るように指示をする。
指示をされた男は、土足のまま家に入ろうとするのを、操介は諌めると、
「わりーわりー、昨日まで日本じゃなかったもんでな」
「別にうちだから注意で済みましたが、日本の別の家だったら怒られますからね」
「へいへい、そりゃーすいませんね」
そんなセリフとともに、スキンヘッドの男は、サングラスを取り、羽織っていた重苦しいコートを脱ぎ、操介に投げて渡す。
操介はそのふたつを器用に受け取り、コート掛けにかけた。
「それで、今回はどのような要件で?」
「操さんは用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ?」
にししと笑いながら、テーブルの近くに座るスキンヘッドの男性に、操介はため息を再度つきながら、
「逆でしょ?
ナナシさんが用がある時しか来ないから、こうやって聞いてしまうんじゃないですか」
「あちゃー、これ以上来るってなると仕事をいくつかサボらないといけねぇな」
スキンヘッドの男……ナナシは、自身の頭を撫であげると、悔しそうな顔をする。
「いや、私のために仕事をサボらないと行けない位、私のことが大事なんですか?」
「いやいや、操さんのためなら俺は命張るつもりですよ、いつでも」
真剣な顔付きで答えるナナシに対して、操介はお茶を出しながら、
「そういうことは、私の依頼を完遂してからにしてください」
「操さんは自分の出した依頼の難易度くらい把握してくれよぉ……あの依頼何年カガリだと思ってるんだよ……」
「まぁ、ざっとあと10年はかかるでしょうねぇ……」
「そうそう、その間操さんにはちゃんと生きてもらわないと行けないのに、操さんってば変な商売初めて……」
「変とは何ですか」
操介はナナシの言葉に少しムッとした雰囲気を醸し出しながら、テーブルを挟んで向かい側の位置に操介は座る。
「あんたみたいな世界的に活躍……いや、夢想できる実力の持ち主が、なんでこんな田舎臭いところで探偵業なんか初めて……」
「田舎臭いところは否定しませんが、探偵業なんか、とはなんですかなんかとは」
操介は湯呑みを手に取りながら、ナナシに対して言葉を放った。
「いや、別に探偵、ってもんが悪いんじゃなくて、こんな田舎臭いところで、探偵業をしているのが不思議に思ったんですよ」
「だからこそじゃないですか」
「…………なんか理由でもあんのかい?」
ナナシの顔をチラリと見て、操介は立ち上がり、部屋から出たと思いきや、車椅子に乗った喜寿篤郎(きじゅとくろう)と共に出てきた。
「私の技術のおかげで、こうやって篤郎さんはまだ生きていることがわかっているし、この顔と探偵という稀有な仕事をしていることは、知れ渡りました」
篤郎の話す姿は、まるで生者が実際に話しているようにすら見える。
この技術は、ナナシの見てきた30以上の国でも早々見ることのできない、もしいればたちまちミリオンスターも夢じゃないようなものを見て、感心していた。
「まぁ、そりゃこんな国で探偵やっているやつなんて後ろ暗いやつかよっぽどのアホしかいないもんなぁ」
その事にまだ納得のいっていないナナシは、肩を竦めた。
車椅子から手を離した操介は、どこから取り出したのかわからないが、大きな地図を持ってきた。
「これは?」
「ここら一体の地図です」
そこにあったのは、今いる家を中心とした、この地域全域の地図。
「私は、この地域を決戦の地にするつもりです」
「…………おいおい、俺より先に目処を立てちまってんのかよ、操さんは」
ナナシの驚く顔をチラリと見た操介は、したり顔で、
「それはあなたの仕事でしょう?」
「…………見つけてたら俺ほんと形無しだぜ」
「だから、私は詰めから準備をすることにしました」
と言って指で囲み始めたのは、家からおおよそ半径5キロ圏内だろうか。
「この地域は?」
「わたしの完全な情報網です」
「っていうと?」
「ここで何かあった場合、すぐ私のところに連絡がきます」
日頃から小さな事件を解決している篤郎は、その温厚な性格や表情で、防犯を呼びかけている。
そして、自分の知りうる限りの敵の特徴を教え、即座に自分が収集できるように情報網を広げていた。
その説明を聞いたナナシは理解はしたようだが、あまり納得はしていないようだ。
その顔を見て、操介は話を進める。
「そして、ココ最近ようやく完成しつつあります」
「それが終わったら、何をするつもりなんだい?」
「恐らく、ナナシさんも薄々気づいているんでしょう?」
「………まぁ、都合がいいとは思ったわ」
操介は、ナナシの方を向いて、真剣な眼差しで答える。
「私はこれから、名を売ります」
「それは、人形師の喜寿操介としてかい?」
首を横に振る操介。
その顔……いや、その瞳を見て、ナナシは過去の操介を思い出し、問い直す。
「探偵の、喜寿篤郎かい?」
「えぇ、この名を、この人を、まだここにありと、世界に知らしめます」
しばらくの沈黙。
ナナシは操介の顔をしばらく見つめたあと、天井を仰ぐ。
「っかー、全くいいタイミングだよ!ほら!」
ナナシが懐から出した紙は、乱雑に折られていて、操介はそれを開き、目を通す。
「隣の県で起きた事件だ。
明らかにおかしい」
「そこに向かいがてら、話を聞きましょう」
操介は立ち上がり、外出の準備をする。
「操さん!」
「…………どうした?」
自分の準備と篤郎の準備を進める操介を、ナナシは呼び止める。
「操さんの願い、叶えましょう」
「その前に、目の前の事件を片付けてしまいましょう」
こうして、3人(?)は事件へと足を運ぶ。
場所は普通より少し敷地が広く、古そうな家の、少し広い庭。
声の主である、スキンヘッドでサングラスをかけた柄の悪そうな男は、その庭から見えるガラス戸に声をかける。
「はいはい、なんですかー?」
一般常識的に危ないであろうその男の顔を見ないままガラス戸を開け、声の主を見た20代後半くらいの男性……喜寿操介(きじゅそうすけ)は、驚くでも怖がるでもなく、ため息をついた。
「はぁ、毎回言ってますけど、ちゃんと扉から入ってきてくださいよ」
「しゃーねーだろ、ここから入んのが1番コーリツがいいんだからよ」
不思議な効率、のイントネーションにツッコミをすることのない操介は、懲りない目の前の男性に対して、家に入るように指示をする。
指示をされた男は、土足のまま家に入ろうとするのを、操介は諌めると、
「わりーわりー、昨日まで日本じゃなかったもんでな」
「別にうちだから注意で済みましたが、日本の別の家だったら怒られますからね」
「へいへい、そりゃーすいませんね」
そんなセリフとともに、スキンヘッドの男は、サングラスを取り、羽織っていた重苦しいコートを脱ぎ、操介に投げて渡す。
操介はそのふたつを器用に受け取り、コート掛けにかけた。
「それで、今回はどのような要件で?」
「操さんは用がなきゃ来ちゃいけねーのかよ?」
にししと笑いながら、テーブルの近くに座るスキンヘッドの男性に、操介はため息を再度つきながら、
「逆でしょ?
ナナシさんが用がある時しか来ないから、こうやって聞いてしまうんじゃないですか」
「あちゃー、これ以上来るってなると仕事をいくつかサボらないといけねぇな」
スキンヘッドの男……ナナシは、自身の頭を撫であげると、悔しそうな顔をする。
「いや、私のために仕事をサボらないと行けない位、私のことが大事なんですか?」
「いやいや、操さんのためなら俺は命張るつもりですよ、いつでも」
真剣な顔付きで答えるナナシに対して、操介はお茶を出しながら、
「そういうことは、私の依頼を完遂してからにしてください」
「操さんは自分の出した依頼の難易度くらい把握してくれよぉ……あの依頼何年カガリだと思ってるんだよ……」
「まぁ、ざっとあと10年はかかるでしょうねぇ……」
「そうそう、その間操さんにはちゃんと生きてもらわないと行けないのに、操さんってば変な商売初めて……」
「変とは何ですか」
操介はナナシの言葉に少しムッとした雰囲気を醸し出しながら、テーブルを挟んで向かい側の位置に操介は座る。
「あんたみたいな世界的に活躍……いや、夢想できる実力の持ち主が、なんでこんな田舎臭いところで探偵業なんか初めて……」
「田舎臭いところは否定しませんが、探偵業なんか、とはなんですかなんかとは」
操介は湯呑みを手に取りながら、ナナシに対して言葉を放った。
「いや、別に探偵、ってもんが悪いんじゃなくて、こんな田舎臭いところで、探偵業をしているのが不思議に思ったんですよ」
「だからこそじゃないですか」
「…………なんか理由でもあんのかい?」
ナナシの顔をチラリと見て、操介は立ち上がり、部屋から出たと思いきや、車椅子に乗った喜寿篤郎(きじゅとくろう)と共に出てきた。
「私の技術のおかげで、こうやって篤郎さんはまだ生きていることがわかっているし、この顔と探偵という稀有な仕事をしていることは、知れ渡りました」
篤郎の話す姿は、まるで生者が実際に話しているようにすら見える。
この技術は、ナナシの見てきた30以上の国でも早々見ることのできない、もしいればたちまちミリオンスターも夢じゃないようなものを見て、感心していた。
「まぁ、そりゃこんな国で探偵やっているやつなんて後ろ暗いやつかよっぽどのアホしかいないもんなぁ」
その事にまだ納得のいっていないナナシは、肩を竦めた。
車椅子から手を離した操介は、どこから取り出したのかわからないが、大きな地図を持ってきた。
「これは?」
「ここら一体の地図です」
そこにあったのは、今いる家を中心とした、この地域全域の地図。
「私は、この地域を決戦の地にするつもりです」
「…………おいおい、俺より先に目処を立てちまってんのかよ、操さんは」
ナナシの驚く顔をチラリと見た操介は、したり顔で、
「それはあなたの仕事でしょう?」
「…………見つけてたら俺ほんと形無しだぜ」
「だから、私は詰めから準備をすることにしました」
と言って指で囲み始めたのは、家からおおよそ半径5キロ圏内だろうか。
「この地域は?」
「わたしの完全な情報網です」
「っていうと?」
「ここで何かあった場合、すぐ私のところに連絡がきます」
日頃から小さな事件を解決している篤郎は、その温厚な性格や表情で、防犯を呼びかけている。
そして、自分の知りうる限りの敵の特徴を教え、即座に自分が収集できるように情報網を広げていた。
その説明を聞いたナナシは理解はしたようだが、あまり納得はしていないようだ。
その顔を見て、操介は話を進める。
「そして、ココ最近ようやく完成しつつあります」
「それが終わったら、何をするつもりなんだい?」
「恐らく、ナナシさんも薄々気づいているんでしょう?」
「………まぁ、都合がいいとは思ったわ」
操介は、ナナシの方を向いて、真剣な眼差しで答える。
「私はこれから、名を売ります」
「それは、人形師の喜寿操介としてかい?」
首を横に振る操介。
その顔……いや、その瞳を見て、ナナシは過去の操介を思い出し、問い直す。
「探偵の、喜寿篤郎かい?」
「えぇ、この名を、この人を、まだここにありと、世界に知らしめます」
しばらくの沈黙。
ナナシは操介の顔をしばらく見つめたあと、天井を仰ぐ。
「っかー、全くいいタイミングだよ!ほら!」
ナナシが懐から出した紙は、乱雑に折られていて、操介はそれを開き、目を通す。
「隣の県で起きた事件だ。
明らかにおかしい」
「そこに向かいがてら、話を聞きましょう」
操介は立ち上がり、外出の準備をする。
「操さん!」
「…………どうした?」
自分の準備と篤郎の準備を進める操介を、ナナシは呼び止める。
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