箱庭の君

小町そと

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11 階段を抜けて

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「――え?」

地下室を見た僕は目を見張った。 
 

階段を下りきった突き当たり。その左横にあるドアを開けて(外側に開くから日本式ではないらしい)、辰野先生はこちらに緩やかに顔を向けて、先に入るよう促した。


そこは誰かの部屋のようだった。それも、洗練されたモデルルームのような。

全体的に落ち着いたブラウンと白を基調としてまとめられている。隅に置かれるはモンステラの鉢。見回せばクローゼット、ベッド、作業机と回転椅子(車のシートに匹敵する立派さだ)に加えシャワールームまであるようだ。

奥の壁には天井まで届きそうな書棚が二つ。いずれの列も所狭しと本が並んでいる。……すごい量だ。かといってそこは粗雑な訳ではなく、整列した本の上部と棚の隙間に本が入っている様子は見受けられない。こういう仕舞い方をする人物には好感が持てる。一体誰が管理しているのだろうか。


部屋の中央にはアイボリーの長方形テーブルが置かれている。それを挟むように設置された二つの椅子は理科教室のそれで、垢抜けた空間の中でそこだけが唯一のアンバランスだった。


あ、良いなぁ、と思った。妙に不釣り合いなものも共存する不完全な空間。

「変だろう、その椅子。まぁ俺は割と気に入ってるんだけどね」

辰野先生はやや苦笑気味に言った。

「いや、でも僕も結構こういうの居心地良いです……何でだろう」
「洒落たものの中にある日常は、謎の安心感があるんじゃないか?」
「あーっそれですね…!こう、身の丈に合っていると言ったらおかしいですけど」
 

安心感――って、辰野先生が居るから一層そうなのかもしれない、なんて考えた。話していて本当に安らぐ人だ。つい先刻まで赤の他人だったとは思えないほどに。


「不完全は時としてほっとするんだよ。現にこの世界だって、完璧には成り立っちゃいない」

先生はどこか諦めたような、でも愛嬌のある笑いを浮かべた。やっぱり綺麗な人だ。またもや見惚れていたことにハッとして、慌てて話しかけた。

「ところであの、先生」

焦りつつも僕は純粋な疑問をぶつけてみる。

「ここって……何の部屋なんですか?」
 
まぁ学校らしくない場所だ。応接室と言ってもこんな入りづらい、その上職員室から離れた特別棟には普通ないだろう。
 
「ここ?俺が住んでる」
 
「へー先生が……えっ!?」
 
「えって?ああ、なんで地下室なのにシャワーがあるかって?それはな」
 
「違います!そうじゃなくて、住んでるって……えぇ!?」
 

正直確かに何でシャワーあるんだろうとも思ったけれども。地下にガスって引けるんだろうか。

「引っ越しが間に合わなかったって、そういう意味なんですか……」

「そう。だからここは俺の部屋」
 
「へ、へぇ……でも何でこんな所に住んで?」
 
「従兄に借りてるんだ」
 
「あ、従兄……そういえば辰野先生の従兄ってどなたなんですか?」
 
「銀――あ、シロガネか。生物の教師で、教師らしくない髪型の奴だよ。銀 朱里(しろがね しゅり)って言う」
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