グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

35 修復準備~アメリアの絵本~

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  目が覚めると外はもう明るかった。
 昨日みたいに視界がうるさく変な感じはしない。
 一体なんだったのだろう。
 ぼんやりとした頭で、浴室まで移動し身支度をする。
 シャワーを浴びたところで、鏡に自分の姿が映された。

「…あっ」

 毎日見ている自分の顔だ。
 すぐに違和感に気がついた。
 鏡に近づき顔をよく見る。
 コツンとおでこを鏡にあて凝視する。

「…いつもよりも赤い」

 瞳の赤い色味が濃くなっているように見えた。
 しかし、今日は昨日のように視界に違和感はない。
 原因が何かわからないが、生活に支障は無さそうだ。
 赤い瞳は目立つからできれば暗めでありたいけれど。
 ひとまず、いつまでも裸体でうろうろする訳にはいかないので身支度を整える。
 今日は三つ子たちがいなくても一人で準備できそうだ。
 私は貴族令嬢ではあったが、一人でいることが多いせいで大抵のことは自分の力で準備出来る。
 ここに来てから三つ子達はいつも来てくれていたので、いないと思うと寂しいけれど。
 彼女達はお客様を優先している。

 身支度を整え、食堂に向かうとメルヒがアメリアと話をしていた。

「おはようございます」

 私は二人に挨拶をする。

「おはよう、リリス」

「おはようございます」

 メルヒは私の体調を探るような視線を送ってくる。
 アメリアはほがらかに声をかけてくれた。

「リリスちゃんはもしかして貴族のお嬢さんではなくて?
 昨日も思ったのだけど、姿勢もいいし挨拶の仕草がとても美しいわ」

「まあ、ありがとうございます。
 ですが私は何も持たない、ただのリリスです」

 私は、はにかみながら微笑んだ。

「うーん、なにか理由がありそうだわね。
 褒めたかっただけだから、あんまり気にとめないでちょうだいね」

 誤魔化そうと思った訳だけれど、ダメだったかしら。
 穏やかな人だから、問題は無さそうだけど。
 家から逃亡している身の上なので、あまり印象に残りたくない。

「メルヒ様とお話していたのだけれど、あのあともう作業に取り掛かってくれたのよね?」

 アメリアが瞳を輝かせている。

「はい、状態確認と方針をたててましたよ。
 私はまだ分からないことばかりなので、ほぼ見ているだけなのですけど」

 私はやったことを答える。

「働く女性って素敵よ。
 この仕事しっかり覚えて将来に役立てると良いと思うわ。
 技術を覚えるのは生きる力になるわよ。
 応援してるわ」

 アメリアは私の手を取り強く握る。
 じんわりと熱が伝わってきた。
 真剣な眼差しに動けなくなる。

「働く女性を見ているとね。
 母のことを思い出すの。
 顔も髪の色も全然違うのに…」

 瞳にキラキラと水分が集まってゆく。

「やぁね、歳をとると少しのことで泣いてしまいそうになるのよ。
 私はね、母と同じ看護師になろうとしたけれど周りの反対で叶えられなかったわ。
 心の通りに生きるのは難しいこと。
 リリスちゃん、何があっても心を強く生きるのよ」

 事情を知らないはずなのに、私の人生を応援してくれている。
 やりたいことがなんなのか分からないけれど、現状としてはメルヒとの修復作業は楽しいと思っている。

「頑張ります」

 私もアメリアの手を握り返した。
 しわしわの優しい手の感触が伝わってくる。

「絵本が直るのを心待ちにしているわ」

 絵本のことが本当に恋しいというようにアメリアは目を細めた。
 アメリアとメルヒは世間話と作業の進み具合を話したあとアメリアは部屋に戻って行った。
 扉の向こうでメイド服が翻るのが見えたのでサファイアとルビーもアメリアの後について行ったみたいだった。

 アメリアが部屋に戻ったあと、メルヒは朝食を食べる私に向き直る。
 今日の朝食はパンケーキとカリカリベーコン。
 妖精さん、今日も美味しいです。

「リリス。
 体調は大丈夫?」

「はい、ゆっくり眠れたので頑張れそうです」

 私は食べる作業を中断し答えた。

「やっぱり、昨日は疲れてただけみたいだねぇ。
 無理して工房に連れて行って悪かったよ」

 ほっとしたようにメルヒ息をつく。

「よく考えたら、リリスはあんなに騒がしいの初めてだったもんね。
 情報量が多すぎて具合悪くなったんじゃないかとあとから考えて反省してたんだ。
 今日は無理しないように、具合悪くなったらすぐに教えてねぇ」

 メルヒには迷惑ばかりかけて申し訳ない気持ちになった。
 いつも心配をかけてしまう。

「…はい。
 知恵熱がどうかはわかりませんが、ご心配おかけしてすいません」

「リリスはまだゆっくりしてて大丈夫だからねぇ。
 僕は工房で作業の準備してるから、準備ができたら工房にね」

「分かりました」

 メルヒも食堂から出て行くのを見送る。
 ゆっくり朝食を味わって食べたが、一人で食べるのはなんだか寂しかった。
 食事は最後まで誰かと食べたい。
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