グリモワールの修復師

アオキメル

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1章 リリスのグリモワールの修復師

36 魔術式複製~アメリアの絵本~

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朝食を食べ終え、手を洗いメルヒの工房へと向かう。
手を洗うことも小さなことだけど、大切なことだ。
本を触る時に汚れを付着させないようにする。
手の脂もシミの原因になったり、カビなど菌類の餌になったりするらしい。
今日はどんな作業をするのだろう。
アメリアの言葉を聞いて、より学ぶことへのやる気が出てきた。
一人で生きていくには、頑張らないといけない。
工房へ入るとメルヒがこちらを向く。

「リリス、待ってたよ」
「お待たせしました。
今日は何をするのですか?」

私は作業机の近くの椅子に座る。
机の上には絵本が置いてあった。

「修復前の状態をカルテに記入できたし、魔術式の方も記入できたから。
魔術式の複製でも作ろうかな」
「複製…」

何をするのか分からず言葉をくりかえす。

「この本の修復の代金として、魔術式の複製を貰うことにしたからねぇ。
ひとまず、動く複製を作らないと。
複製してみたら、どこが悪いか分かるだろうしねぇ」

私は絵本を見る。

「悪い所が分かったらこの術式のまま使えるかもしれませんものね。
直したところを分かるように式を書くのですよね?
変えたところが分かればどこがオリジナル部分か分かりますし」

私の返答にメルヒは嬉しそうに微笑む。

「リリスはもうそこまで考えるようになったんだねぇ。
教えがいがあるよ。
直した場所が分かるようにという考えは修復で大切なところだ。
でもね、リリス。
その考え方は魔術式は切り離して考えて大丈夫だよ。
現物の本の部分にだけあてはめて考えることだ。
魔術式を使わないで残すという選択をした時には式もオリジナルの現物と考えていいけれど、残さない選択をした時は記録だけ残せれば大丈夫だからねぇ。
魔術式を描くのは素材も式に適応している事が条件だから、別のインクで色を変えて描いても動かないよ。
同一のインクで描かなければ、起動しない」
「そうでしたか…。
私は魔術式の知識があまりないのです。
魔術式は同一の素材でないと起動しないものなのですね。
じゃあ、この絵本の魔術式を複製して動いたところでこのオリジナルのインクの分析をして壊れた式を足せば直りますよね」
「インクが分かれば、それで大丈夫だけれど大抵の場合は新しく別の箇所に付与するものだよ。
合うものを探すのはなかなか難しいからねぇ。
分かったところで、色合わせもしなくてはならないし」

修復するのって、いろんなことを模索して考えることが多そうだ。

「まぁ、まずは動く複製を作ろうねぇ」

メルヒが道具棚からインクを取り出す。
絵本に描かれている魔術式と色を合わせて選んでいるようだった。
棚にはいろんな色が並んでいる。

「これはリリスも見えてる魔素そのものだよ。
魔術式を書く用に液状になってる。
魔術式インクというものだよ。
この国の住人なら誰しも一度は手にしてるものだ」

私はそれを言われて困惑する。
このインクは見たことが無かった。
どろりと黒いインクが瓶の中を揺れる。
所々にキラキラとした紫色の粒子が見えた。

「見たことないです…」
「そうだと思ってたよ。
試しに魔術式を描いてみようか」

そう言ってメルヒは試し書き用の紙と細い筆を持ってくる。

「万年筆とかガラスペンでも描けるけど、先の尖ったものは物を壊してしまうから、ここでは筆を使ってねぇ。
劣化した紙というのは割れやすい」

そう言って筆にインクを浸す。
私は筆を受け取ったが、何を書いたらいいか分からなかった。

「何を書けばいいのでしょう…」
「そうだねぇ、この絵本の魔術式を模写してみようか」

そう言われて、絵本をみながら筆を動かしていく。
同じに描くのはそこまで難しくない。

「何か絵でも描いたりしてた?
筆を持つ手が慣れているよねぇ。
それに線の引き方も、均一にまっすぐ書くことができてる。
…これって模写できてるねぇ!」

メルヒが興奮している声が聞こえる。
そこまで精巧に模写したつもりはないのですが、そうやって言われると意識してしまって、手もとが震えてしまう。

「あんまり騒がないでください。
描けなくなります。
一人で過ごす時は趣味として絵を書いたり刺繍をしたりして過ごしていたので手先は器用な方かと思いますが、それほどではないですよ」

塔の中で出来ることはミルキやお兄様に頼んで用意してもらっていた。
本を読んでいることが多かったけれど。

「ますます、助手としての期待値が上がったねぇ」

そうこうしている間に最初のページに描かれていた魔術式を完成させる。
すると描いた魔術式が輝きだし、声が流れ出した。
優しい女性の声だ。
その声が最初に描かれている本の文字を読みあげていく。

「この式は壊れてないということかな…」

メルヒは満足そうにこちらを見る。

「僕が描くより効率が良さそうだねぇ。この調子で全頁書いてみて、ひとつの紙にひとつずつ描くんだよ。
このまま複製として回収して報酬とするからねぇ」

その言葉に唖然とする。
魔術式を描いたことないから、試し書させてくれていたのではなかったのだろうか。
それを本番の複製として使われることになってしまった。

「あの、試し書きだったはずでは?」
「起動したんだからこのまま続けて」

メルヒは良い笑顔でこちらを見ていた。
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