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2章 リリスと闇の侯爵家
45 双子王子
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「今日も知らせはないな…」
「待ちくたびれたね」
薔薇姫が行方不明となり、一ヶ月は経った。
未だ、オプスキュリテ侯爵からの良い知らせは来ない。
私たちは互いに鏡合わせのように、よく似た顔を見合わせる。
魔族の王たる特徴を継ぐ黒い髪に、赤と青のオッドアイを持つのは、双子の王子リオン・シャイターンとレウ・シャイターンだ。
地底深くにある魔族の国アビスから、許嫁である愛しい花嫁を迎え入れるためにやってきた。
だというのに、薔薇姫リリスは私たちが到着したその日に行方知れずになったという。
ここまで長く行方不明ということは自ら意思を持って逃げていると見ていい。
まだ薔薇姫の死体が見つかったわけではないのだからと、その点については希望を持っていた。
「僕達のこと嫌で逃げちゃったのかな…」
弟レウが悲しそうに下を向く。
「それを言うなら私もになってしまうよ」
リオンもまた悲しみを秘めた眼差しで微笑んだ。
長く続く魔族王家とオプスキュリテ侯爵家の歴史の中で、薔薇姫が逃げ出したことなど一度もない。
書に綴られていた記録には、どの薔薇姫も幸せな笑みを浮かべながら、自ら進んで嫁いできていたという。
それが私たちの代で問題が起きてしまった。
此度の薔薇姫は、私たちを逃げ出すほどに拒否しているようだ。
そのことを考えると胸がぎゅっと締め付けられる。
やっと、この手で触れることが叶うと思ったのに。
一体、薔薇姫にどのような教育をしてきたのか疑問に思う。
薔薇姫の執事に聞いてみようか、きっと彼なら何かを知っているのかもしれない。
考え事をしていると、部屋の扉をノックする音が響いた。
「「どうぞ」」
自然と二人とも声が揃う。
「失礼します」
立っていたのは黒い燕尾服がよく似合う執事ミルキだ。
考えていたら、ちょうど本人が現れた。
彼は薔薇姫がいなくなってからは、私たちの世話をしてくれている。
幼少の頃より知っている顔なので、安心できる。
人のように生活しているが、彼もまた魔族だ。
「そろそろお茶をお飲みになる頃かと思い用意しました」
「ちょうどよかった。
いただくよ」
優雅にテーブルに焼き菓子と紅茶を並べる。
それを見たレウの表情がやわらいだ。
「僕、ここのお菓子好き。
リリスはどのお菓子が好きだったの?
リリスの好きな物全部知りたい」
並べられていくお菓子にレウが反応する。
レウは私よりも子供ぽいところがある。
普段なら注意するが、悲しげな顔を見るよりはずっといい。
私もテーブルについた。
「私もそれは、知りたい」
穏やかにミルキは微笑む。
「リオン殿下も表情が和らぎましたね。
心配なのは分かりますが、難しい顔ばかりですと身が持ちませんよ」
ミルキに言われ、自分もレウの同じ表情をしていたことに気づく。
指摘されると恥ずかしいものがある。
「それで、どれがリリスの好みなの?」
「リリス様は甘酸っぱい物が好きでした。
このベリーを使ったお菓子をよく手に取られていましたよ」
「僕、これ食べてみる」
ミルキはリリスの好みをさらさらと述べていく。
やはり一緒にいた時間が長い分、知っていることが多いようだ。
私は疑問に思ったことをミルキに聞くことにした。
「ミルキ、私も聞きたいことがある。
どうしてリリスは私達のことを避けたのだろうか…」
その質問にミルキは悲しげな眼差しを向ける。
「リリス様は殿下達を嫌ってるわけではありません。
まだ、正式にお会いしたことはないではないですか。
リリス様は、ただ時間と自由が欲しかっただけですよ」
「自由?」
「リリス様は薔薇姫の塔から出ることを心から望んでおりました。
窓から臨む景色を見ては、自分を連れ出す何かを夢見ていました」
「それなら、私たちが連れ出したのに」
口の中が苦い、それを流すように紅茶を口に含んだ。
レウを見れば、何かを考えながらミルキの話を聞いている。
「そうですね…。
そうであれば、良かったのですが」
言いにくそうにミルキは口を噤む。
「僕達以外の誰かがリリスを外の世界へ連れ出したんだよね。
リリスは望んで、その者と出て行ったんだ。
あぁ、兄さん。
どうしよう、僕は悔しいよ」
ガタガタと机が揺れる。
レウから溢れる魔力が攻撃的だ。
「そんなに外の世界を熱望していたのならば、心が満たされてリリスの鍵が解けてしまう」
「七つの鍵、全てが解けないことを願うよ」
薔薇姫リリスの魂には秘密がある。
リリスの魂は滅びることなく数百年周期で、人の国へ魂が渡り復活する。
魂に人として生きられるよう七つの拘束具がかけられており、心が震えるほどの経験をすると鍵が解け、夜の女王としての記憶と能力が解放される。
全ての鍵が解放された時、魔族の国を造った始まりの女王そのものになるのだ。
鍵が解ける度に人としての人格は少しずつ侵食され溶け合い混じり合う。
場合によっては残らないこともあるらしい。
純粋に人としてのリリスを愛したいという私たちの願いは難しいものになりそうだった。
私たちの手で、心震えるほどの何かをリリスに与えてみたかった。
悔しさに私も身を震わす。
「リオン殿下、レウ殿下…」
ミルキはそんな私たちを落ち着かせるように。
名前を呼んだ。
「待ちくたびれたね」
薔薇姫が行方不明となり、一ヶ月は経った。
未だ、オプスキュリテ侯爵からの良い知らせは来ない。
私たちは互いに鏡合わせのように、よく似た顔を見合わせる。
魔族の王たる特徴を継ぐ黒い髪に、赤と青のオッドアイを持つのは、双子の王子リオン・シャイターンとレウ・シャイターンだ。
地底深くにある魔族の国アビスから、許嫁である愛しい花嫁を迎え入れるためにやってきた。
だというのに、薔薇姫リリスは私たちが到着したその日に行方知れずになったという。
ここまで長く行方不明ということは自ら意思を持って逃げていると見ていい。
まだ薔薇姫の死体が見つかったわけではないのだからと、その点については希望を持っていた。
「僕達のこと嫌で逃げちゃったのかな…」
弟レウが悲しそうに下を向く。
「それを言うなら私もになってしまうよ」
リオンもまた悲しみを秘めた眼差しで微笑んだ。
長く続く魔族王家とオプスキュリテ侯爵家の歴史の中で、薔薇姫が逃げ出したことなど一度もない。
書に綴られていた記録には、どの薔薇姫も幸せな笑みを浮かべながら、自ら進んで嫁いできていたという。
それが私たちの代で問題が起きてしまった。
此度の薔薇姫は、私たちを逃げ出すほどに拒否しているようだ。
そのことを考えると胸がぎゅっと締め付けられる。
やっと、この手で触れることが叶うと思ったのに。
一体、薔薇姫にどのような教育をしてきたのか疑問に思う。
薔薇姫の執事に聞いてみようか、きっと彼なら何かを知っているのかもしれない。
考え事をしていると、部屋の扉をノックする音が響いた。
「「どうぞ」」
自然と二人とも声が揃う。
「失礼します」
立っていたのは黒い燕尾服がよく似合う執事ミルキだ。
考えていたら、ちょうど本人が現れた。
彼は薔薇姫がいなくなってからは、私たちの世話をしてくれている。
幼少の頃より知っている顔なので、安心できる。
人のように生活しているが、彼もまた魔族だ。
「そろそろお茶をお飲みになる頃かと思い用意しました」
「ちょうどよかった。
いただくよ」
優雅にテーブルに焼き菓子と紅茶を並べる。
それを見たレウの表情がやわらいだ。
「僕、ここのお菓子好き。
リリスはどのお菓子が好きだったの?
リリスの好きな物全部知りたい」
並べられていくお菓子にレウが反応する。
レウは私よりも子供ぽいところがある。
普段なら注意するが、悲しげな顔を見るよりはずっといい。
私もテーブルについた。
「私もそれは、知りたい」
穏やかにミルキは微笑む。
「リオン殿下も表情が和らぎましたね。
心配なのは分かりますが、難しい顔ばかりですと身が持ちませんよ」
ミルキに言われ、自分もレウの同じ表情をしていたことに気づく。
指摘されると恥ずかしいものがある。
「それで、どれがリリスの好みなの?」
「リリス様は甘酸っぱい物が好きでした。
このベリーを使ったお菓子をよく手に取られていましたよ」
「僕、これ食べてみる」
ミルキはリリスの好みをさらさらと述べていく。
やはり一緒にいた時間が長い分、知っていることが多いようだ。
私は疑問に思ったことをミルキに聞くことにした。
「ミルキ、私も聞きたいことがある。
どうしてリリスは私達のことを避けたのだろうか…」
その質問にミルキは悲しげな眼差しを向ける。
「リリス様は殿下達を嫌ってるわけではありません。
まだ、正式にお会いしたことはないではないですか。
リリス様は、ただ時間と自由が欲しかっただけですよ」
「自由?」
「リリス様は薔薇姫の塔から出ることを心から望んでおりました。
窓から臨む景色を見ては、自分を連れ出す何かを夢見ていました」
「それなら、私たちが連れ出したのに」
口の中が苦い、それを流すように紅茶を口に含んだ。
レウを見れば、何かを考えながらミルキの話を聞いている。
「そうですね…。
そうであれば、良かったのですが」
言いにくそうにミルキは口を噤む。
「僕達以外の誰かがリリスを外の世界へ連れ出したんだよね。
リリスは望んで、その者と出て行ったんだ。
あぁ、兄さん。
どうしよう、僕は悔しいよ」
ガタガタと机が揺れる。
レウから溢れる魔力が攻撃的だ。
「そんなに外の世界を熱望していたのならば、心が満たされてリリスの鍵が解けてしまう」
「七つの鍵、全てが解けないことを願うよ」
薔薇姫リリスの魂には秘密がある。
リリスの魂は滅びることなく数百年周期で、人の国へ魂が渡り復活する。
魂に人として生きられるよう七つの拘束具がかけられており、心が震えるほどの経験をすると鍵が解け、夜の女王としての記憶と能力が解放される。
全ての鍵が解放された時、魔族の国を造った始まりの女王そのものになるのだ。
鍵が解ける度に人としての人格は少しずつ侵食され溶け合い混じり合う。
場合によっては残らないこともあるらしい。
純粋に人としてのリリスを愛したいという私たちの願いは難しいものになりそうだった。
私たちの手で、心震えるほどの何かをリリスに与えてみたかった。
悔しさに私も身を震わす。
「リオン殿下、レウ殿下…」
ミルキはそんな私たちを落ち着かせるように。
名前を呼んだ。
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