グリモワールの修復師

アオキメル

文字の大きさ
69 / 111
2章 リリスと闇の侯爵家

69 エリカの衝撃

しおりを挟む
「あれはダミアンお兄様?」

 屋敷のなかを歩いていると、いつもとは違う光景にエリカは足をとめた。
 お兄様に少し強く出すぎてしまったかしらと反省をして、お兄様の様子が気になって屋敷の中を探していた。
 そんな折に、珍しい光景を見た。

 ダミアンお兄様が見知らぬ女と歩いている。

 これはとても珍しい光景だ。
 ダミアンお兄様は現在二十二歳になる。
 次期侯爵となるダミアンお兄様にはたくさんの縁談が来ているのだか、どの令嬢にもお兄様は会っていない。
 夜会など舞踏会がある日はお兄様を狙う令嬢が少しでも気に入られようと話しかけているが、微笑みを浮かべて適当に相打ちをして何処かに行方をくらますことが定番となっていた。
 ダミアンお兄様の心の中には”薔薇姫”がすでに存在していて、どの令嬢も越えることができないのが、私としては残念なところだ。
 薔薇姫じゃない誰か他の令嬢に心変わりした方が、お兄様も以前のように優しいお兄様に戻るかもしれないのに…。

 ダミアンお兄様は薔薇姫以外の女性との接触を嫌っている。
 女性が近くによることすら拒むお兄様がなぜとエリカは不思議に思うのだった。

 目を凝らしてエリカはダミアンお兄様の隣にいる女の様子を眺める。
 褐色の肌に灰色の髪、とんがった耳はエリカが今まで見たことがないものだ。

「…魔族の方?」

 視線に気づいたのか魔族の女がこちらを振り返る。
 見つかってはいけないと、エリカは建物の影に隠れた。

「魔族の王子様方の従者かしら?
 それにしても、すごい格好をしているのね…。
 寒くはないのかしら?」

 女の肌や見た目にばかりに気を取られていたが、あの格好はどういうことだろうか。
 女が着ている服装に眉を寄せる。
 あんなに露出が多い服を着るなんてはしたないわ。
 それになんだか、ところどころ服が乱れていた。
 この方向は薔薇姫の塔から出てきてるのよね?
 ダミアンお兄様が薔薇姫の部屋に他の女を招き入れるなんて想像がつかないが、あの服装を見る限り何かあったのかもしれない。
 あの部屋は今は無人だものね。
 想像を巡らせたエリカは恥ずかしくなる。

「…いけないのだわ、私ったら」

 頭をぶんぶん横に振り、冷静になろうとする。
 淑女たるもの慎み深く優雅でなければと教わってきたエリカには女の服装や行動が刺激的すぎた。

 エリカは魔族について学んできたことを思い浮かべる。
 魔族の種族性についても、調べていたので多少ならわかる。
 あの女はきっとダークエルフだ。
 長い寿命を持ち、魔術に長けた種族。
 魔族というものは本能に忠実な種族であると本には書いてあった。
 この国にもエルフは住んでいるが、それとは違う種族。
 あの女からは溢れ出る色欲の欲望を感じる。

「ダミアンお兄様はあの女と手を組んだということかしら?」

 にわかには信じ難い出来事だが、実際エリカの眼前で女は親しげにダミアンの腕にしだれがかっている。
 艶やかな微笑みはダミアンお兄様に向けられていた。
 いつものお兄様ならば穢らわしいと罵倒しながら女の手を振り腹って怒ってどこかに行ってるところなのに…。
 それを黙って許している。

「…嘘よね?」

 信じられないことが起きていることは確かた。
 この状況、あの魔族がお兄様に手を貸したとみていいだろう。
 重要な情報を持っていたのかもしれない。
 そしてそれをダミアンお兄様は受け入れている。
 ならば、エリカは先手を打つために考えなくてはいけない。
 お兄様よりも薔薇姫を先に見つけなくてはならない。
 薔薇姫に会うとお兄様は変わってしまうから。

「絶対にお兄様を薔薇姫に会わせないようにしなくては…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

処理中です...