グリモワールの修復師

アオキメル

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2章 リリスと闇の侯爵家

82 迷子

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「…どうしよう」

 リリスは困っていた。
 隣にいたはずのフルールの姿がない。
 気づいたらはぐれてしまったようだ。
 さっきまで、一緒に買い物をしていたはずなのにとリリスはフルールの姿を探す。
 周りを見渡しても混雑した通りには、目立つ金髪を見つけることができなかった。
 空を見あげれば青かったはずの空がピンクと紫色を混ぜたようないろをしていた。
 空の色はとても綺麗だと思うけど、もう夕方ということになる。
 そろそろ帰らないといけない時間に近づいてきている。
 カバンに入れてあるメルヒのブローチを握りしめた。
 このまま見つけられる自信ないし、ひとりで帰ってしまおうかとブローチを握りしめたまま考える。
 こんなことになるのなら、迷子になる前にはぐれた時の集合場所を決めておけば良かったとリリスは後悔していた。
 考えている間にも空は刻々と夜へ近づいていた。

「…ひとりで帰るのも手だけれど、悪いわよね。
 フルールも探してくれてるかもしれないし…」

 心細くなってリリスはひとり呟いた。
 そうだ、街の人に金髪で翼の生えた猫をつれた少女を見なかったが尋ねてみよう。
 ひとりで探すのも無理と判断したリリスは、歩く人に声をかけた。
 まずはあの優しそうなおじいさん。

「すいません!」

 けれどリリスが話しかけても、聞こえないのかおじいさんは何処かに歩いて行ってしまった。
 声が小さかったかしらと首をかしげて、リリスは次の人に挑戦することにする。
 あの親子に聞いてみよう。

「あの、お尋ねしたいのですが…」

「今日のご飯はお肉よ」

「わぁーい」

 そのまま親子はリリスに気付かすに行ってしまった。
 リリスは、ショックを受ける。
 フルールがいた時はこんなことなかったのにと。

「私の声は、誰にも届かないのかしら…。
 みんな夕方で忙しい?」

 まるで空気みたいだわとリリスは悲しい気持ちになってしまったが、そこでリリスは気づいた。
 この赤いマントはリリスの姿を隠すための魔術式を掛けていたことに。
 しかもリリスが不安を訴えたのでフルールにより重ねてかけられていた。

「この赤いマントのせいで私の声は届かない?」

 だからかとリリスは多少納得したが、リリスが分かる同伴者がいないと他者と会話も出来ないのかと頭を抱えた。

「…どうしよう、マント脱ぐ?」

 この赤いマントのせいで、人に声が届かないし気づいてもらえないのならば、脱げば話を聞いて貰えるはずだ。
 リリスはマントのリボンに手をかける。
 そこで手は止まってしまった。

「…見つかるのは嫌」

 リリスは現在探されている身だ。
 こんなに人が多いのだから、顔と髪を晒すのは危険なことだと踏み切れない。
 マントを脱いだ方がフルールを探しやすくなるけど、リリスはオプスキュリテ家から逃げたままでいたい。
 リリスはどうすることも出来ず、諦めてマントを着たままフルールを探すことにした。
 フルールなら目立ってるからきっとすぐに見つかるはずと思いながら、しばらくの間フォルセの街を歩くことになる。
 空は紫と濃紺を混ぜたような美しい夜空へと変わっていた。

 夜になったこともあり、リリスは心細くなる。
 夜風が吹き、肌にさざ波を立てるがマントのおかげで寒くはなかった。
 街路樹にある星の灯火を見て、リリスはメルヒと歩いた道を思い出す。
 お守りのようにメルヒのブローチを握りしめた。
 リリスは気をしっかり持ち、人混みのなかをキョロキョロと金髪を探す。
 それらしい人は見つけることが出来ない。
 リリスは街の地理にも詳しくないので、本当に困り果てていた。
 ちゃんと手を繋いでいたはずなのに、どうして離してしまったのだろう。
 そこに急に寒気が走った。
 背後から視線を感じる。
 振り返ることも恐ろしくてリリスは立ち止まった。
 その瞬間、強い風に吹かれた。

「…きゃ」

 目に風があたり強く瞳を閉じた。
 リリスのフードが風の力で持ってかれてしまう。
 長い黒髪がフードのからこぼれ落ち、風に流れる。
 突風が終わる頃には、リリスの顔は外界に晒されていた。

「あっ…」

 リリスは慌ててフードを持ち上げかぶり直した。
 見られてないし気づかれてないわよねと不安になる。
 このマントの力ならきっと大丈夫と思いながらも落ち着くために移動することにした。
 先程感じた視線を避けるように人混みを抜ける。
 リリスの足は人気のない路地裏へと進んだ。
 その足どりを追う人物がいるとは思わずに。
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