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ご指名です?
アレクシア=ランティス
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アレクシア=ランティスはランティス国の長女として産まれた。
産まれた当初は、この国最初の王女ということで、民からも祝福され両親や城中の者が彼女を大切にしてくれていた……らしい、記憶ないけど。
しかしその一年後、妹のセシルが産まれると、彼女の生活は一変することとなる。
珠のように可愛らしい赤子に皆が夢中になり、アレクシアの地位は早々に無いも当然という扱いになった。
毎日来ていた(らしい…)両親はセシルに掛かりきりになり、使用人たちからも、可愛がられている妹についた方が得だというように、最低限の身の回りの世話以外、寄り付かれることがなくなった。
そんなアレクシアはグレることなく、奇跡的にも真っ直ぐな性格に成長した。
「この国の王女といえどもこの扱い!もし何かあったときのために必要なのは知識と力!肩書きなんてなんぼのもんじゃい!」
もはや口癖になってるこの言葉を繰り返し、今日も今日とて図書室で勉強をしたり、騎士たちの鍛練を覗いては、訓練の真似をする日々に明け暮れた。
残念─アレクシアにとっては幸い─なことに、必要以外誰もそばにいない王女の行動を、誰も止めるものはいなかった。
◇
「なにこの状況……」
16才になったアレクシアは、何故か朝から突撃してきた沢山の侍女たち─いつもは1人、たまに二人─に、風呂に入れられてドレスを着せられ、飾り付けられると何処かへと案内された。
(あれは最早連行だな……うん)
ちなみに、この間ひたすら無言でやり取りされるので、アレクシアは混乱で頭が追いついていなかった。
ただ良いことでないのは肌で感じていた。
(こういうのを敏感肌っていうのかしら?)
案内された部屋に入ると、玉座に座る父とその隣には母がいた。
久しぶりに会う両親は……こんな顔だったかしら?ぐらいにしか思わなかった。
遠目では何度か見かけたことはあるがそれだけで、交流なんてものがなかったから仕方がない。
とりあえず礼をとって挨拶をしたアレクシアだったが、父である王は、彼女が頭を上げた瞬間、前置きなしに爆弾を落とした。
「お前の嫁ぎ先が決まった」
・・・は?
「相手は大国ノワールの国王だ」
「良かったわね、アレクシア」
話の流れについていけないアレクシアを置いて、母が何やら嬉しそうにしている。
「………この国には跡継ぎとなる男子がいません。この場合長女である私が婿をとって、セシルが嫁ぐのが普通では?」
思わず顔が無になるのは仕方がない。
「………彼方がお前をご指名だ」
「え?」
はっきり言おう。アレクシアは王家の催事に関わったことはない。
社交界デビューは一応したのだが、あのときも主役はどちらかというとセシルの方であった。
自分も一応王族なので、それなりの物を身に付けてはいたのだが、会場で一番輝いていたのはセシルだった。
(主役より目立つって……ねぇ……)
デビュタントは妹を取り囲む人々を遠目に眺めた記憶しかなかった。
それ以外で公に姿を現した記憶がないのに…ご指名?……あり得ない。
「それは何かの間違いでは?」
思わず怪しげに見てしまう。
「だいたい彼方からしてみれば此方は小国。もっと利がある国があると思うのですが?」
「だ…だまれ!とにかくお前が嫁ぐのは決定事項だ」
「そうよ!あ…貴方もあんな大国に迎えてもらえるんだから良かったじゃないの」
怒りだす父に、それをフォローする母。
益々怪しく感じるが、この国の王の決定。逆らうことはできない。
(まぁここでの生活よりマシでしょう……)
このまま此処にいても何かが変わるわけではないし、まだ見ぬ大国に期待をしてみるのもいいかもしれない。
「……わかりました。ではいつ頃彼方へ?」
「一週間後だ」
……ソウデスカ。
もう用は済んだとばかりに退室を促す父に言葉がでなかった。
それからはドタバタの一週間だった。
今まで周囲にこれ程人が居たことがあっただろうか。
マナーを改めて叩き直され、大国について学び、疲れて眠るの繰り返しだった。
それでも元々飲み込みの早いアレクシアは、あっという間にそれらを身に付けていった。
いざ嫁ぐとなった日、国から盛大に送り出されることとなった─が、
「うちにあんな王女様っていたっけ?」
「そういえば昔聞いたような……」
という会話が、街中を通り抜けるときいくつも聞こえてきた。
(やっぱりそういう認識だったか……)
手を振る国民に、笑顔で手を振りかえしながらも、心は折れそうだった。
◇
「ここが…」
馬車に揺られること10日……目的地である王都の街にたどり着いた。
(流石大国ね……人も街もランティスとは桁違いに活気づいてるわ)
窓から見える街の景色に、母国との違いを感じる。さらに、城へと向かう道の途中、他国から嫁いできた王女を歓迎するかのように人々が手を振ってくれることに、新たな生活への期待が膨らんでいく。
(良かった……歓迎されてるわ)
城に到着すると門の前にはアレクシアを出迎えるためか、ずらりと人が立っていた。
そして、馬車が止まると、一人の男性が此方に歩いてくる。
「ようこそいらっしゃいました、セシル様。私はこの国で宰相を勤めますルドルフ・メイナードと申します」
………え?
扉が開いて、馬車から降りようとしたアレクシアは、頭を下げて挨拶をする男の言葉に驚き、固まってしまった。
「っいえ!此方は姉のアレクシア様でございます!」
ここまで着いてきてくれた護衛が慌ててアレクシアの名前を告げる。
「?!」
ルドルフは勢い良く顔を上げ、見定めるようにその目を細めると、アレクシアを上から下へと見た。
「……此方が指名したのは第二王女のセシル様だったはず……確認しますが、貴女様は違うのですね?」
「…………はい」
アレクシアの頭は混乱していたが、誤魔化してもどうしようもないと肯定の返事をした。
ただし、その声は消えそうなほど、とても小さなものだった。
「…………暫しこのままで」
ルドルフは一思案したのち、踵を返すと並んでいた人々に指示を出し始めた。
男が此方に戻ってくるのと同時に、各々が動き始めたことで、アレクシアは自分が歓迎されておらず、出迎えるのにも値しないということがわかった。
「………それではついてきて下さい」
難しい顔をするルドルフに、このまま帰りたい気持ちになる。しかし、あれだけ盛大に送り出されたのだ。戻る場所などない。そもそも彼処にも自分の居場所など最初からなかったではないか。
アレクシアは腹をくくると、ノワールの土地へと足を踏み出した。
通されたのは客室だと思われる。此処に来るまで人に会わなかったことから、普段使われる場所ではないのかもしれない。
とりあえず言われるままにソファーに腰掛けたアレクシアは、連れてきた侍女が入れてくれた紅茶を口に含んだ。
彼女の喉は想定外の展開にカラカラだった。
テーブルを挟んだ反対側にルドルフが座り、彼女がカップを置いて一息ついたのを見計らって口を開いた。
「さて、先程も仰った通り、私どもはランティス国のセシル様に縁談を持ちかけました。その際其方は多額の金品を要求し、わが国はそれを支払った。言わば取引は成立していたのです。ところが蓋を開けて見れば別人…………どういうことでしょうか?」
ルドルフは冷たい目でアレクシアを見据えた。
(やっぱりおかしいと思ったのよ!だって滅多に表舞台に立たない私に縁談がくるなんておかしいもの!あの二人はセシルを手元に置きたいから私を送り込んだのね!あんなに盛大に送り出せば戻ってこれないと踏んで……)
「……はぁ……申し訳ございません。私はランティス国王である父に、私の名前で縁談があったと言われ追い出……送り出されたので、その事実は知りませんでした」
「なるほど……つまり我が国を謀ったと?」
「そう言ってしまえばそういうことなんでしょうね」
もうあの国がどうなろうと知ったことではない。
(金品を受け取っておいて、よくこのまま話が通ると思ったわね)
自業自得ながら、あまりの考えなしの行動に呆れてものが言えない。
「とりあえず彼方に手紙を出します。貴方はこのまま此処に滞在していて構いません。あんなに人の目を引いて来たのです。人違いだと言ってしまえば簡単ですが、格下の国に侮られたと知られれば国の威信に関わります……」
「……申し訳ございません」
頭を下げたアレクシアにため息を吐くと、ルドルフは立ちあがり、部屋を後にした。
出る直前、振り向いた彼は「出来るだけこの部屋から出ないようにお願いします」と釘を指すことも忘れなかった。
(ここでも私の存在は不要なのか……)
目頭が熱くなるが、アレクシアはそれをグッとこらえた──
産まれた当初は、この国最初の王女ということで、民からも祝福され両親や城中の者が彼女を大切にしてくれていた……らしい、記憶ないけど。
しかしその一年後、妹のセシルが産まれると、彼女の生活は一変することとなる。
珠のように可愛らしい赤子に皆が夢中になり、アレクシアの地位は早々に無いも当然という扱いになった。
毎日来ていた(らしい…)両親はセシルに掛かりきりになり、使用人たちからも、可愛がられている妹についた方が得だというように、最低限の身の回りの世話以外、寄り付かれることがなくなった。
そんなアレクシアはグレることなく、奇跡的にも真っ直ぐな性格に成長した。
「この国の王女といえどもこの扱い!もし何かあったときのために必要なのは知識と力!肩書きなんてなんぼのもんじゃい!」
もはや口癖になってるこの言葉を繰り返し、今日も今日とて図書室で勉強をしたり、騎士たちの鍛練を覗いては、訓練の真似をする日々に明け暮れた。
残念─アレクシアにとっては幸い─なことに、必要以外誰もそばにいない王女の行動を、誰も止めるものはいなかった。
◇
「なにこの状況……」
16才になったアレクシアは、何故か朝から突撃してきた沢山の侍女たち─いつもは1人、たまに二人─に、風呂に入れられてドレスを着せられ、飾り付けられると何処かへと案内された。
(あれは最早連行だな……うん)
ちなみに、この間ひたすら無言でやり取りされるので、アレクシアは混乱で頭が追いついていなかった。
ただ良いことでないのは肌で感じていた。
(こういうのを敏感肌っていうのかしら?)
案内された部屋に入ると、玉座に座る父とその隣には母がいた。
久しぶりに会う両親は……こんな顔だったかしら?ぐらいにしか思わなかった。
遠目では何度か見かけたことはあるがそれだけで、交流なんてものがなかったから仕方がない。
とりあえず礼をとって挨拶をしたアレクシアだったが、父である王は、彼女が頭を上げた瞬間、前置きなしに爆弾を落とした。
「お前の嫁ぎ先が決まった」
・・・は?
「相手は大国ノワールの国王だ」
「良かったわね、アレクシア」
話の流れについていけないアレクシアを置いて、母が何やら嬉しそうにしている。
「………この国には跡継ぎとなる男子がいません。この場合長女である私が婿をとって、セシルが嫁ぐのが普通では?」
思わず顔が無になるのは仕方がない。
「………彼方がお前をご指名だ」
「え?」
はっきり言おう。アレクシアは王家の催事に関わったことはない。
社交界デビューは一応したのだが、あのときも主役はどちらかというとセシルの方であった。
自分も一応王族なので、それなりの物を身に付けてはいたのだが、会場で一番輝いていたのはセシルだった。
(主役より目立つって……ねぇ……)
デビュタントは妹を取り囲む人々を遠目に眺めた記憶しかなかった。
それ以外で公に姿を現した記憶がないのに…ご指名?……あり得ない。
「それは何かの間違いでは?」
思わず怪しげに見てしまう。
「だいたい彼方からしてみれば此方は小国。もっと利がある国があると思うのですが?」
「だ…だまれ!とにかくお前が嫁ぐのは決定事項だ」
「そうよ!あ…貴方もあんな大国に迎えてもらえるんだから良かったじゃないの」
怒りだす父に、それをフォローする母。
益々怪しく感じるが、この国の王の決定。逆らうことはできない。
(まぁここでの生活よりマシでしょう……)
このまま此処にいても何かが変わるわけではないし、まだ見ぬ大国に期待をしてみるのもいいかもしれない。
「……わかりました。ではいつ頃彼方へ?」
「一週間後だ」
……ソウデスカ。
もう用は済んだとばかりに退室を促す父に言葉がでなかった。
それからはドタバタの一週間だった。
今まで周囲にこれ程人が居たことがあっただろうか。
マナーを改めて叩き直され、大国について学び、疲れて眠るの繰り返しだった。
それでも元々飲み込みの早いアレクシアは、あっという間にそれらを身に付けていった。
いざ嫁ぐとなった日、国から盛大に送り出されることとなった─が、
「うちにあんな王女様っていたっけ?」
「そういえば昔聞いたような……」
という会話が、街中を通り抜けるときいくつも聞こえてきた。
(やっぱりそういう認識だったか……)
手を振る国民に、笑顔で手を振りかえしながらも、心は折れそうだった。
◇
「ここが…」
馬車に揺られること10日……目的地である王都の街にたどり着いた。
(流石大国ね……人も街もランティスとは桁違いに活気づいてるわ)
窓から見える街の景色に、母国との違いを感じる。さらに、城へと向かう道の途中、他国から嫁いできた王女を歓迎するかのように人々が手を振ってくれることに、新たな生活への期待が膨らんでいく。
(良かった……歓迎されてるわ)
城に到着すると門の前にはアレクシアを出迎えるためか、ずらりと人が立っていた。
そして、馬車が止まると、一人の男性が此方に歩いてくる。
「ようこそいらっしゃいました、セシル様。私はこの国で宰相を勤めますルドルフ・メイナードと申します」
………え?
扉が開いて、馬車から降りようとしたアレクシアは、頭を下げて挨拶をする男の言葉に驚き、固まってしまった。
「っいえ!此方は姉のアレクシア様でございます!」
ここまで着いてきてくれた護衛が慌ててアレクシアの名前を告げる。
「?!」
ルドルフは勢い良く顔を上げ、見定めるようにその目を細めると、アレクシアを上から下へと見た。
「……此方が指名したのは第二王女のセシル様だったはず……確認しますが、貴女様は違うのですね?」
「…………はい」
アレクシアの頭は混乱していたが、誤魔化してもどうしようもないと肯定の返事をした。
ただし、その声は消えそうなほど、とても小さなものだった。
「…………暫しこのままで」
ルドルフは一思案したのち、踵を返すと並んでいた人々に指示を出し始めた。
男が此方に戻ってくるのと同時に、各々が動き始めたことで、アレクシアは自分が歓迎されておらず、出迎えるのにも値しないということがわかった。
「………それではついてきて下さい」
難しい顔をするルドルフに、このまま帰りたい気持ちになる。しかし、あれだけ盛大に送り出されたのだ。戻る場所などない。そもそも彼処にも自分の居場所など最初からなかったではないか。
アレクシアは腹をくくると、ノワールの土地へと足を踏み出した。
通されたのは客室だと思われる。此処に来るまで人に会わなかったことから、普段使われる場所ではないのかもしれない。
とりあえず言われるままにソファーに腰掛けたアレクシアは、連れてきた侍女が入れてくれた紅茶を口に含んだ。
彼女の喉は想定外の展開にカラカラだった。
テーブルを挟んだ反対側にルドルフが座り、彼女がカップを置いて一息ついたのを見計らって口を開いた。
「さて、先程も仰った通り、私どもはランティス国のセシル様に縁談を持ちかけました。その際其方は多額の金品を要求し、わが国はそれを支払った。言わば取引は成立していたのです。ところが蓋を開けて見れば別人…………どういうことでしょうか?」
ルドルフは冷たい目でアレクシアを見据えた。
(やっぱりおかしいと思ったのよ!だって滅多に表舞台に立たない私に縁談がくるなんておかしいもの!あの二人はセシルを手元に置きたいから私を送り込んだのね!あんなに盛大に送り出せば戻ってこれないと踏んで……)
「……はぁ……申し訳ございません。私はランティス国王である父に、私の名前で縁談があったと言われ追い出……送り出されたので、その事実は知りませんでした」
「なるほど……つまり我が国を謀ったと?」
「そう言ってしまえばそういうことなんでしょうね」
もうあの国がどうなろうと知ったことではない。
(金品を受け取っておいて、よくこのまま話が通ると思ったわね)
自業自得ながら、あまりの考えなしの行動に呆れてものが言えない。
「とりあえず彼方に手紙を出します。貴方はこのまま此処に滞在していて構いません。あんなに人の目を引いて来たのです。人違いだと言ってしまえば簡単ですが、格下の国に侮られたと知られれば国の威信に関わります……」
「……申し訳ございません」
頭を下げたアレクシアにため息を吐くと、ルドルフは立ちあがり、部屋を後にした。
出る直前、振り向いた彼は「出来るだけこの部屋から出ないようにお願いします」と釘を指すことも忘れなかった。
(ここでも私の存在は不要なのか……)
目頭が熱くなるが、アレクシアはそれをグッとこらえた──
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