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第1話 婚約破棄の書状
しおりを挟むそれから半年が過ぎた、ある夏の日の早朝――。
馬蹄の音が、伯爵家の門前に響いた。
「……リディ!」
ジェイド・マクラーレンは鞍から飛び降りると、震える手で外套の内側をまさぐる。
そこには、父から渡された一通の書状があった。
中には、リディアとの婚約破棄が成立した、という内容が記されている。
(リディ――君に、いったい何があったんだ?)
半年前、ジェイドは奇跡的に一命を取り留めた。
後遺症で身体が思うように動かせない中、遠征先の街で懸命にリハビリをし、半年かけて、こうして馬に乗れるほどまで回復した。
けれどその間、一度もリディアからの手紙は届かなかった。
自分が重傷を負った報せは届いているはずなのに、何の音沙汰もなく、それどころか、手紙を送っても返事はない。
理由がわからず、このままでは埒が明かないと思ったジェイドが、騎士団長である父を問い詰めると、父はようやく、この書状を出してきた。
「お前とリディア嬢の婚約は破棄された。彼女のことは忘れるように」という、信じられない通告と共に。
ジェイドは憤った。
理由を聞いても、何一つ答えようとしない父に失望し、静止も聞かず遠征先を飛び出した。
そして、昼も夜もなく馬を駆け続け、本来なら二週間かかるところ、十日でリディアの屋敷に辿り着いたのだ。
(まさか病気か? それとも、事故に……。とにかく、彼女の無事をこの目で確認しなければ)
ジェイドは、リディアの愛を少しも疑っていなかった。
十歳の頃から兄妹のように過ごし、いつしかそれは恋心へと変化していったが、お互いを思い合っている関係であることに、絶対の自信を持っていた。
だから、婚約破棄を知らされたとき、最初に抱いた感情は、リディアへの心配だった。
婚約破棄をしなければならないほど、のっぴきならない事情があったのではないか。
だからリディアからの手紙は途切れ、返事も来なくなったのではないか。
もし、彼女が不治の病にでもかかっていたら。
もし、半年前の自分のように、生死の境をさ迷っていたら――。
そう考えだしたら居ても立っても居られず、ジェイドは手綱を引いたのだ。
だが、伯爵家の門を叩いたジェイドを待っていたのは、あまりにも酷い仕打ちだった。
「娘は素性も知れぬ男と駆け落ちし、もう半年も戻っていない。だからどうか娘のことは忘れて、君は別の幸せを見つけてほしい。本当に申し訳ない。この通りだ!」
すっかり憔悴しきった様子で、自分に頭を下げるリディアの父親。
その姿に、ジェイドは、全身の血が一瞬にして冷え切るのを感じた。
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