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3.再会の第二ボタン
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配属初日を無事終えたその日の夜、湊斗は陸の部屋にいた。
地上四十階のタワーマンションから見える景色は、まるでこの世のものとは思えない美しさだった。
「会うのは十年ぶりか……長かったな」
ガラス張りの奥のネオン街を見下ろしながら、湊斗は話しかける。
あの頃とはまるで別人のようになった、経営者然とした陸に――。
「陸……凄い頑張ったんだな。日本にいる間、お前の名前を聞かない日はなかったよ」
そう言って過去を偲ぶように目を細めると、陸は「ふっ」と笑みを零した。
その笑みは、女性であれば一瞬で恋に落ちそうな美しい微笑みだった。
「何言ってるんだよ。僕の方こそ、入社1年目の表彰者の欄に君の名前があるのに気付いたときは目が飛び出るかと思ったよ。急いで君の経歴書を取り寄せて、本人だとわかってどれほど嬉しかったか」
「そうなのか?」
「そうだよ。僕、君のことは全部知ってる。ミシガン大学留学にはフルブライト奨学金を使ったこともね。あれ、凄く難易度が高いじゃないか。英語はいつも赤点だったのに、本当に凄いと思ったよ。どうやって勉強したの?」
「いや、まぁ、それは……色々と」
「ははっ。色々か。――色々だよね、十年だもんね。僕もあの頃とは随分変わってしまったけど、君もすごく変わったよ。本当に別人みたいだ」
「……っ」
それはそうだろう、と湊斗は思った。
十年もあれば人は変わる。――でも、変わらなかったものも確かにある。
湊斗はジャケットの内ポケットから銀色に輝くボタンを取り出した。
それは十年前桜の下で別れたときから、肌身離さず身に着けていたものだった。
次に会うときは、これを返すとき――そう思って持ち続けていたものだった。
あの時は恥ずかしくて言えなかったけれど……。
「陸――このボタン、覚えてるか?」
そう言って差し出した手のひらの上のボタンに、陸の瞳が驚きに満ちる。
「これ……もしかして……」
「そうだ。卒業式に、お前の制服から俺が引きちぎったボタン。俺、ずっとこれをお守り代わりにしてたんだ」
「…………」
「当時はかっこつけて言えなかったけど、あのとき俺は何となく、もう二度と陸に会えないような気になって……何か会う理由を作れないかって、咄嗟に考えて」
「……湊斗」
「それで――このボタン。幼稚だよな」
湊斗は誤魔化すように笑う。
けれど、陸は少しも笑わなかった。
彼はただ真剣な顔で、湊斗の手のひらから銀のボタンを取り上げる。
「――陸?」
「なら、このボタンはもう返してもらうね?」
「――は? なんで……」
「だって、もう僕に会う理由はいらないだろう? こんなものがなくても、これから毎日会うんだからさ」
「……!」
湊斗のはっとした顔に、陸は今度こそ柔らかく微笑む。
「これから、末永くよろしくね、湊斗」
「あ――ああ」
こうして、再会の夜は明けていった。
――この後二人は更に名前を轟かせ、陸に至っては兄たちを退けて財閥の後継者となるのだが、それはまた別のお話。
(Fin)
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