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第二部
21.初秋の朝(前編)
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社交シーズンも終わりを迎え、季節が夏から秋に移り変わったある朝のこと。
エリスがいつもどおり食堂で朝食を取っていると、対面に座るアレクシスが言いにくそうに切り出した。
「実はな、エリス。三週間後に行われる軍事演習に、急遽俺も参加せねばならなくなったんだ。それで、しばらく……というか、演習が終わるまでは休みが取れそうにない。すまないが、約束していた街歩きは、演習から戻ってからでいいだろうか?」――と。
「…………」
その言葉を聞いたエリスは、おもむろに、ナイフとフォークを持つ手を止めた。
――軍事演習、という聞き慣れない単語を頭の中で繰り返し、不意に思い出す。
(そう言えば、シオンが何か言っていた気がするわ)
どこからそんな話題になったのかは覚えていないが、シオンがまだ宮に滞在していたとき、帝国の軍事演習についてこのように語っていた。
『この辺の国は毎年秋になると、帝国主導で合同軍事演習をするんだ。参加国は毎年変わるんだけど、今年はランデル王国も参加するって王国内で話題になってたよ。去年は第七師団が取り仕切ってたから、順番通りなら今年は第一師団かな』――と。
その記憶を思い出すと同時に、エリスの脳裏に過ぎったのは昨夜のアレクシスの挙動不審な態度で、エリスはようやく腑に落ちた。
ああ、なるほど、と。
(何か言いたそうにしているなと思ったら、こういうことだったのね)
実は三日前、エリスはアレクシスと街歩きデートの約束をしたばかりだった。
どうやらアレクシスは、建国祭のときエリスに街を案内できなかったことをずっと気に病んでいたらしく、『貴族たちが領地に戻るこの時期ならば、知り合いに声をかけられることもないだろう。今なら気兼ねなく街を歩ける。君に帝都を案内したい』と、エリスを誘ってくれたのだ。
当然、エリスは喜んで頷いた。
三月に帝国に嫁いできてから七ヵ月が過ぎたというのに、未だ二人きりでは出掛けたことがなかったからだ。
(街歩きって、いったい何を着ていったらいいのかしら。マリアンヌ様とお茶をするときの様なドレス……は駄目ね。目立ちすぎるわ。殿下はいったいどんな格好を……って、そう言えばわたし、軍服か部屋着姿の殿下しか見たことないわ。それって、妻としてどうなのかしら……)
エリスは、そんな風に考えてしまうくらいにはデートを楽しみにしていた。
それが、まさか約束してたった三日で反故にされるとは……。
エリスは内心ショックを受けた。けれど、すぐに思い直す。
別にアレクシスは、デートをしないと言っているわけではないし、仕事なのだから仕方ない。
それに今一番気に病んでいるのは、自分ではなくアレクシスの方なはず。
その証拠に、アレクシスはまるでこの世の終わりとでもいうかの表情で、こちらの顔色を伺っているのだから。
「殿下、どうかそのようなお顔をなさらないでください。確かに残念ではありますが、約束自体が無くなるわけではないのですから。殿下と出掛ける日を楽しみに待つ時間も、わたくしにとっては、とても尊いものですもの」
「そうか……そう言ってもらえると……。演習後は、必ず休みを取ると約束する」
「はい、そのときを楽しみにしております。ところで、出立の日は決まっているのでしょうか? お戻りは、いつごろに?」
エリスがいつもどおり食堂で朝食を取っていると、対面に座るアレクシスが言いにくそうに切り出した。
「実はな、エリス。三週間後に行われる軍事演習に、急遽俺も参加せねばならなくなったんだ。それで、しばらく……というか、演習が終わるまでは休みが取れそうにない。すまないが、約束していた街歩きは、演習から戻ってからでいいだろうか?」――と。
「…………」
その言葉を聞いたエリスは、おもむろに、ナイフとフォークを持つ手を止めた。
――軍事演習、という聞き慣れない単語を頭の中で繰り返し、不意に思い出す。
(そう言えば、シオンが何か言っていた気がするわ)
どこからそんな話題になったのかは覚えていないが、シオンがまだ宮に滞在していたとき、帝国の軍事演習についてこのように語っていた。
『この辺の国は毎年秋になると、帝国主導で合同軍事演習をするんだ。参加国は毎年変わるんだけど、今年はランデル王国も参加するって王国内で話題になってたよ。去年は第七師団が取り仕切ってたから、順番通りなら今年は第一師団かな』――と。
その記憶を思い出すと同時に、エリスの脳裏に過ぎったのは昨夜のアレクシスの挙動不審な態度で、エリスはようやく腑に落ちた。
ああ、なるほど、と。
(何か言いたそうにしているなと思ったら、こういうことだったのね)
実は三日前、エリスはアレクシスと街歩きデートの約束をしたばかりだった。
どうやらアレクシスは、建国祭のときエリスに街を案内できなかったことをずっと気に病んでいたらしく、『貴族たちが領地に戻るこの時期ならば、知り合いに声をかけられることもないだろう。今なら気兼ねなく街を歩ける。君に帝都を案内したい』と、エリスを誘ってくれたのだ。
当然、エリスは喜んで頷いた。
三月に帝国に嫁いできてから七ヵ月が過ぎたというのに、未だ二人きりでは出掛けたことがなかったからだ。
(街歩きって、いったい何を着ていったらいいのかしら。マリアンヌ様とお茶をするときの様なドレス……は駄目ね。目立ちすぎるわ。殿下はいったいどんな格好を……って、そう言えばわたし、軍服か部屋着姿の殿下しか見たことないわ。それって、妻としてどうなのかしら……)
エリスは、そんな風に考えてしまうくらいにはデートを楽しみにしていた。
それが、まさか約束してたった三日で反故にされるとは……。
エリスは内心ショックを受けた。けれど、すぐに思い直す。
別にアレクシスは、デートをしないと言っているわけではないし、仕事なのだから仕方ない。
それに今一番気に病んでいるのは、自分ではなくアレクシスの方なはず。
その証拠に、アレクシスはまるでこの世の終わりとでもいうかの表情で、こちらの顔色を伺っているのだから。
「殿下、どうかそのようなお顔をなさらないでください。確かに残念ではありますが、約束自体が無くなるわけではないのですから。殿下と出掛ける日を楽しみに待つ時間も、わたくしにとっては、とても尊いものですもの」
「そうか……そう言ってもらえると……。演習後は、必ず休みを取ると約束する」
「はい、そのときを楽しみにしております。ところで、出立の日は決まっているのでしょうか? お戻りは、いつごろに?」
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