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第二部
66.絵ハガキ(前編)
しおりを挟む「うわぁ。君、まだ一文字も進んでいないじゃないか。エリス妃に手紙を書いたことがないって、本当だったんだね」
「……煩い。すぐに書く。少し黙ってろ」
「そうは言うけど……。とりあえず、あまり気負わずに書いてみたらどうだい? こういうのは気持ちだよ。絵ハガキだし、ほんの一言でもいいんだ。『俺は元気にしている』とか、『君が恋しい』とか、何でもいいんだよ」
「…………」
それは港町に着いて約半日が経過した、日の暮れ始める時間帯。
アレクシスは郵便局の外にある記入スペースで、ペンを片手に、眉間に大きく皺を寄せていた。
睨みつけるような視線の先には、まだ一文字も記入されていない、まっさらな絵ハガキがある。
そんなアレクシスの対面には、五枚以上の絵ハガキに記入を終えた、呆れ顔のジークフリートの姿があった。
そう。二人は今まさに、郵便局にて絵ハガキにメッセージを書いているところである。
アレクシスはエリス宛に、ジークフリートは祖国の親姉弟たちに。
だが、慣れた様子でサラサラと文章を綴っていくジークフリートとは反対に、アレクシスは全く筆が進んでいない。
その理由は、アレクシスが人生で一度も、手紙というものをまともに書いたことがないからだった。
(報告書であればいくらでも書けるというに。手紙となると、何を書けばいいのか全くわからん)
アレクシスは、宛先だけが書かれた絵ハガキを見つめ、少し前の自身の発言を悔いる。
こんなことなら、「俺だって手紙くらい書ける」などと、見栄を張るべきではなかった、と。
◆
そもそも、どうして二人が今郵便局にいるのかを説明するには、時を一時間ほど前に遡る。
市場を見学し終えたアレクシス一行は、その後予定通りクロヴィスから指定された貴金属店を順に回っていた。
アレクシスは、宝石に造詣の深いジークフリートから色々とレクチャーを受け、エリスへのプレゼントとして真珠の宝飾品を注文し、それなりに充実した視察を行っていた。
だが、最後の店に向かおうとした道すがら、スリに出くわしたのである。
といっても、狙われたのはアレクシスたちではない。
被害者は別の高級時計店から出てきた妙齢のご婦人だった。
「スリよ! 誰か捕まえて!」
そんな悲鳴が聞こえ、アレクシスらが背後を振り向くと、バッグを胸に抱えた男が人々を押しのけ、こちらに向かってくるのが確認できる。
「どけ!」
と叫び、五人の中で最も弱そうなジークフリートの方へ突っ込んでくるスリを見て、真っ先に動いたのはセドリックだった。
セドリックはジークフリートの身の安全を図るべく、ジークフリートの肩を掴んで自身の後方へと追いやる。
それによってスリへの通路を開ける形になったが、今度はその空いたスペースにアレクシスが立ちふさがり、正面からスリを迎え撃った。
アレクシスがスリを地面に押さえつけるまでにかかった時間は、わずか一秒足らず。
事件はあっという間に解決し、もちろん怪我人はなし、バッグも無事。
スリの身柄はセドリックが警備隊に引き渡しにいくことが決まり、セドリックが戻るまでの間、残りの四人は現場付近で待つことになったのだが、ジークフリートが「ハガキでも書きながら待つっていうのはどうだい?」と言い出しことで、今に至る。
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