ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな

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第二部

71.復讐の布石(前編)


 同じ頃、シオンは図書館二階で本を物色しながら、エリスのことを考えては繰り返し溜め息をついていた。

(本当は殿下が戻るまで閉じ込めておきたかったけど、先週は少し言いすぎちゃったからな。マリアンヌ様とのお喋りで、多少は気がまぎれるといいけど)


 アレクシスが演習に出掛けてから一ヵ月。

 その間、シオンは心労の連続だった。

 エリスが目の前で倒れ、妊娠が判明し、リアムから誘われたお茶会に渋々参加したところ、オリビアからは『これ以上関わるな』と不可解な忠告を受けた。

 その理由もわからないうちに、エリスは夜風に身を晒したせいで熱を出し、その理由を問い詰めれば、『オリビアをアレクシスの側妃に』などと言われたものだから、シオンはリアムに殺意を募らせるほど驚いた。
 と同時に、この事態を自分一人で抱え込もうとしていたエリスに強い憤りを覚えた。

(この期に及んで姉さんは、僕を頼ってはくれないのか……!)

 だから、シオンはつい言ってしまったのだ。
 怒りと悲しみに任せ、「そういう気の引き方は好きじゃない」と。


(姉さんには少しもそんなつもりはないって、わかってたのに……)

 エリスはアレクシスと出会うまで、人に頼ることを知らずに生きてきた。
 その環境は、ランデル王国で差別なく育ってきた自分よりも、ずっと厳しいものだったはずだ。

 つまり、エリスにはそういう生き方・・・・・・・が染み付いてしまっている。
 それを変えるためには、長い時間が必要だ。

(これじゃあ、姉さんの側を離れた意味がない。エメラルド宮を出るとき、僕は決めたじゃないか。いつかちゃんと姉さんに頼られるような、強い男になるんだって。……それなのに、あんなに余裕のない態度を見せたりして……それどころか怯えさせるなんて……最悪だ)

 シオンは、そのときのエリスの表情を思い出し、本棚に手をついて盲反する。

 ――すると、そのときだった。

 シオンのすぐそばの廊下を横切る、三人の若いレディたち。
 その女性たちの興奮気味の声が、シオンの意識を現実へと引き戻す。


「それにしても、さっきは驚いたわね。あの方、突然倒れられて。心配だわ」
「ほんとうよね。お顔が真っ青だったもの。でも、もっと驚いたのはその後じゃない?」
「ええ、ええ! わたくし、思わず叫んでしまいましたわ。倒れた女性を抱きかかえられて、『どいてくれ。彼女は私の連れだ』って! まるで童話の王子様のようでしたわよね、リアム様・・・・ったら!」


「――!」

(今、リアムと言ったか?)

 瞬間、シオンは大きく目を見開いた。
 何の前触れもなく耳に届いたリアムの名前に、彼の鋭い勘が警鐘を鳴らす。
 
 ――まさか、と。

 エリスの名前など一言も出ていないというのに、その予感を拭えない。

 シオンは堪らず、女性たちを呼び止める。

「……あの! 今の話、詳しく教えていただけませんか? 僕、リアム様の知り合いなんです」

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