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第二部
93.愛と嫉妬と独占欲(前編)
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それからしばらく後、エメラルド宮に戻ったエリスは、広々とした湯舟に太ももまでを浸かりながら、身を硬直させていた。
そんなエリスのすぐ後ろには、こちらも同じく脚だけを湯舟に入れ、エリスの背中を射るように見つめるアレクシスの姿がある。
つまり二人は共に風呂に入っているのだが、未だこの状況が飲み込めないエリスは、緊張と羞恥心のあまり、どうにかなってしまいそうだった。
(確かに、殿下の言葉に頷いたのはわたしだわ。でもまさか、こんなことになるなんて……)
エリスは今にも沸騰しかけた頭で、これまでの経緯を思い出す――。
◆
――「わたくしのこの身体を知るのは、神に誓って、殿下ただおひとりでございます」
エリスが馬車の中でアレクシスにそう告げたのは、今より三十分ほど前のこと。
そのときアレクシスは、エリスの言葉を聞いて何を思ったか、驚きに目を見開いて、少し考える素振りを見せた後、このように言葉を返した。
「そうか。ならば、それを確かめさせてくれないか。君の言葉を疑うわけじゃないんだが……あいつが君に少しでも触れたかと思うと、俺は今にも気が狂ってしまいそうになる。だから、確信がほしい」と。
そう言われたエリスは、いったいどうやって確かめるというのだろう? と不思議に思ったが、アレクシスが安心できるのならば、と承諾した。
するとそれを受けたアレクシスは、エメラルド宮に着くなり、使用人らにこう指示したのだ。
「今すぐ湯を沸かせ。エリスと風呂に入る」と。
しかも、「世話はいらん。全て俺がやる」とまで言うではないか。
当然、エリスの侍女たちや――それまでエメラルド宮で留守番をしていた――マリアンヌは困惑した。
エリスの不義の噂や、リアムとの細かい事情を知らない侍女たちは『アレクシスにエリスの風呂の世話などできないだろう』と思ったし、
おおよその事情を察したマリアンヌは、『アレクシスとエリスを風呂場で二人きりにして大丈夫だろうか』と不安を抱いた。
もしエリスの身体にリアムから受けた何らかの痕跡が残っていたら、それを見たアレクシスは逆上するかもしれない。――妹のマリアンヌがそう考えてしまうほど、リアムの手紙を見つけたときのアレクシスの形相は恐ろしいものだったからだ。
とは言え、アレクシスの言い分も一理ある。
何も知らない侍女たちがエリスの身体に痕を見つけてしまったら、間違いなく大騒ぎになるだろう。
それを瞬時に理解したマリアンヌは、「エリス様の湯あみなら、わたくしがお手伝いしますわ」と自ら申し出たのだが、結局、アレクシスは一歩も譲らなかった。
「不要だ。エリスも承知している」
「……エリス様、それは本当ですの?」
心配そうな眼差しで問われ、エリスは正直返事に困った。
確かに馬車の中で頷きはしたが、まさか一緒に風呂に入るという意味だとは思わなかったからだ。
――正直、一緒にお風呂に入るなど死ぬほど恥ずかしいし、考えるだけで顔から火を噴いてしまいそう。
とはいえ、この状況で否定できるわけがない。
それに何より、アレクシスが安心できるのなら構わない、という気持ちの方が大きかった。
だから、エリスは微笑んだのだ。
「ありがとうございます、マリアンヌ様。ですが殿下の仰るとおり、わたくしも承知の上でございます。何も心配はいりませんわ」
――こうして、エリスはアレクシスと二人きりで風呂に入ることになったのだが……。
そんなエリスのすぐ後ろには、こちらも同じく脚だけを湯舟に入れ、エリスの背中を射るように見つめるアレクシスの姿がある。
つまり二人は共に風呂に入っているのだが、未だこの状況が飲み込めないエリスは、緊張と羞恥心のあまり、どうにかなってしまいそうだった。
(確かに、殿下の言葉に頷いたのはわたしだわ。でもまさか、こんなことになるなんて……)
エリスは今にも沸騰しかけた頭で、これまでの経緯を思い出す――。
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――「わたくしのこの身体を知るのは、神に誓って、殿下ただおひとりでございます」
エリスが馬車の中でアレクシスにそう告げたのは、今より三十分ほど前のこと。
そのときアレクシスは、エリスの言葉を聞いて何を思ったか、驚きに目を見開いて、少し考える素振りを見せた後、このように言葉を返した。
「そうか。ならば、それを確かめさせてくれないか。君の言葉を疑うわけじゃないんだが……あいつが君に少しでも触れたかと思うと、俺は今にも気が狂ってしまいそうになる。だから、確信がほしい」と。
そう言われたエリスは、いったいどうやって確かめるというのだろう? と不思議に思ったが、アレクシスが安心できるのならば、と承諾した。
するとそれを受けたアレクシスは、エメラルド宮に着くなり、使用人らにこう指示したのだ。
「今すぐ湯を沸かせ。エリスと風呂に入る」と。
しかも、「世話はいらん。全て俺がやる」とまで言うではないか。
当然、エリスの侍女たちや――それまでエメラルド宮で留守番をしていた――マリアンヌは困惑した。
エリスの不義の噂や、リアムとの細かい事情を知らない侍女たちは『アレクシスにエリスの風呂の世話などできないだろう』と思ったし、
おおよその事情を察したマリアンヌは、『アレクシスとエリスを風呂場で二人きりにして大丈夫だろうか』と不安を抱いた。
もしエリスの身体にリアムから受けた何らかの痕跡が残っていたら、それを見たアレクシスは逆上するかもしれない。――妹のマリアンヌがそう考えてしまうほど、リアムの手紙を見つけたときのアレクシスの形相は恐ろしいものだったからだ。
とは言え、アレクシスの言い分も一理ある。
何も知らない侍女たちがエリスの身体に痕を見つけてしまったら、間違いなく大騒ぎになるだろう。
それを瞬時に理解したマリアンヌは、「エリス様の湯あみなら、わたくしがお手伝いしますわ」と自ら申し出たのだが、結局、アレクシスは一歩も譲らなかった。
「不要だ。エリスも承知している」
「……エリス様、それは本当ですの?」
心配そうな眼差しで問われ、エリスは正直返事に困った。
確かに馬車の中で頷きはしたが、まさか一緒に風呂に入るという意味だとは思わなかったからだ。
――正直、一緒にお風呂に入るなど死ぬほど恥ずかしいし、考えるだけで顔から火を噴いてしまいそう。
とはいえ、この状況で否定できるわけがない。
それに何より、アレクシスが安心できるのなら構わない、という気持ちの方が大きかった。
だから、エリスは微笑んだのだ。
「ありがとうございます、マリアンヌ様。ですが殿下の仰るとおり、わたくしも承知の上でございます。何も心配はいりませんわ」
――こうして、エリスはアレクシスと二人きりで風呂に入ることになったのだが……。
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