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第二部
91.再会(前編)
しおりを挟む気付いたときには、エリスはアレクシスに抱きしめられていた。
「すまなかった、エリス」と。
「もう何も心配はない」と。
どこにも逃がさないとでも言うように、強く強く抱きしめられる。
そんなアレクシスの言動に、エリスは悟らざるを得なかった。
(ああ……殿下はもう、噂の真相を知っていらっしゃるんだわ)
そうでなければ、アレクシスがこんなことを言うはずがない。
ここまで必死になって自分を探す理由がない。
アレクシスの鼓動が早いのは、彼がこんなにも呼吸を乱しているのは、噂を流したのがリアムであることを既に知っているから。
だからこうして、アレクシスは自分に謝っているのだろう。
昨夜ジークフリートが言ったように、『リアムが噂を流した原因は自分にある』のだと、自責の念を感じているのだろう。
「……殿下、……わたくし」
全ては推測に過ぎないけれど。
アレクシスが何を思っているのか、本当のところはわからないけれど。
心のどこかでは、リアムとの関係を疑われている可能性も残っているけれど。
だとしても、今アレクシスに抱きしめられていることは現実で、それだけが、今のエリスの全てだった。
「……わたくし、殿下にお会いしとうございました」
「――!」
「たったひと月ですのに……とても、寂しくて。……毎晩、殿下を思い出して……」
――ああ、いけない。
うっかり涙が零れてしまいそうになる。
声が震えてしまいそうになる。
絶対に泣かないと、アレクシスを困らせることだけは止めようと、そう決めていたのに。
あまりに、アレクシスが優しくて。
「……っ」
エリスは涙を堪えようと、ぐっと奥歯を噛みしめる。
どうにか笑顔を見せようと。
――すると、次の瞬間。
「もういい。何も言うな」
と低い声がしたと思ったら、身体がぐん、と宙に浮き、気付いたときには、アレクシスの左腕一本で抱き上げられていた。
「――っ。で、殿下……何を……」
「大人しくしていろ。話なら後で聞く」
「……っ、……はい」
まさかこの状況で抱き上げられるなど想像もしていなかったエリスは、顔を真っ赤にして俯く他ない。
その一方で、アレクシスは困惑した様子のシオンを睨むように見定めた後、ジークフリートの方を振り返った。
胸倉を掴まれたにも関わらず、いつもと変わらぬ緩い笑みを浮かべるジークフリートを冷えた瞳で一瞥し――有無を言わさぬ口調で、セドリックに命じる。
「俺はエリスを連れて先に戻る。お前は二人から、よく話を聞いておけ」
――と。それだけを言い残し、アレクシスはエリスを抱えたまま、帝国ホテルを後にした。
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