ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな

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第二部

127.決着(前編)

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 ◇



「オリビア様ッ!」


 エリスがそう叫んだのと、アレクシスの剣が止められたのは、ほぼ同時だった。
 アレクシスの放った刃は、オリビアに届く寸でのところで、ジークフリートによって防がれたのだ。



 二階席のエリスたちは、その一部始終を上から見ていた。

 今しがた、ジークフリートと共に闘技場に姿を現したオリビアが、止める間もなくアレクシスの前に飛び出していったところを。
 そんなオリビアを追いながら、ジークフリートが剣を抜いた瞬間を。


 正直エリスはその場面を見たとき、もう駄目だと思った。
 ジークフリートは間に合わないのではないか。間に合ったとしても、アレクシスの剣を防ぎきれないのではないか、と。

 けれど、ジークフリートは防いでくれた。
 それを見届けたエリスは、ほっと胸をなでおろす。

「……良かった」

(オリビア様に怪我はないみたい。……でも、この状況って……)


 正直、エリスは今の状況を、どう判断すればいいのかわからなかった。

 激しい雨音に掻き消され、二階席には下の会話が聞こえてこないからだ。

 眼下では、どういうわけかアレクシスとジークフリートが揉めだしており、そこにセドリックが仲裁に入っている様子だが、内容は少しも聞き取れない。

 だが少しして、アレクシスに剣を向けられたリアムが、地面に項垂うなだれたまま小さく首を振ったのを見て、クロヴィスが教えてくれる。

「ルクレール卿が負けを認めたようだ。これ以上は戦えないとな」
「では、殿下の勝利、ということですか?」
「ああ、そうなるだろう」

 アレクシスの勝利――それを聞いたエリスは、心から安堵する。


 正直なところ、エリスはずっと気が気ではなかった。
 リアムの剣がアレクシスを掠める度、心臓が止まる思いだったのだ。

 けれど、エリスが気を緩めたのも束の間、クロヴィスの一言が、エリスを現実に引き戻す。

「さて、私は下に降りるとしよう。賭けの結果を見届けなければな」
「――!」

(賭け……。そうよ、まだ終わりじゃないんだわ)

 決闘に気を取られて忘れていたが、そもそもこの決闘は『敗者が勝者の望みを叶える』という賭けの元に行われている。

 つまり、これからアレクシスがリアムに何らかの望み、あるいは命令を下すということなのだ。

(殿下は、リアム様に何を望まれるのかしら……)

 クロヴィスは決闘が始まる前、「悪いようにはならない」というような趣旨のことを言っていたが、本当にそうだろうか。

 エリスは不安に思いつつも、覚悟を決めて、クロヴィスらと共に下へと向かう。

 だが、そんなエリスを待っていたのは、あまりにも衝撃的な光景だった。


 土砂降りとも言える雨の中、地面に両ひざをついたまま項垂れるリアムと、それに寄り添うオリビア。
 そんな二人を冷たく見下ろして、アレクシスは言ったのだ。

「リアム。お前には、ここで死んでもらう」と。

 そして、こう続けた。

「オリビア、お前はどうする? 兄と共に逝く・・か――今すぐ選べ」
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