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第二部
128.真相(前編)
しおりを挟む駆け付けたエリスの前で、アレクシスは静かに告げる。
『リアム。お前にはここで死んでもらう』
降りしきる雨に打たれながら、リアムとオリビアを冷たく見下ろし、選択を迫る。
『オリビア、お前はどうする? 兄と共に逝くか、今すぐ選べ』
――その光景を目の当たりにしたエリスは――。
◇◇◇
「……っ!」
――ハッ、と瞼を開いたエリスの視界に映ったのは、見慣れたベッドの天蓋だった。
ここはエメラルド宮のエリスの寝室である。
侍女が開けてくれたのだろう、カーテンの開かれた窓からは燦々と日が降り注ぎ、気持ちのいい朝の訪れを示している。
つまり、今のは、夢――と言いたいところだが、今のワンシーンは、正真正銘、現実に起こったことだ。
「……また、あの日の夢」
エリスは両手で顔を覆い、「はぁー」と大きく息を吐いた。
決闘が行われてからちょうど一週間。
アレクシスのあのときの台詞は、すべてが誤解だったと判明したにも関わらず、聞いた瞬間のショックが大きかったせいか、まだこうして夢に見てしまう。
――それにしても。
(殿下も、起こしてくださればいいのに)
隣には、昨夜共に眠りについたはずのアレクシスの姿は無く、時計の針が九時を回っていることからも、既に宮を出てしまっていると予想がついた。
というのも、決闘が終わった翌日から、疲れが出たのかエリスはなかなか朝起きられず、アレクシスはそんなエリスを気遣ってか、ひとりで朝食を済ませて出てしまう日が続いているのだ。
エリスが「見送りたいので起こしてほしい」と頼んでも、「無理はしなくていい」と、取り合ってもらえない。
侍女たちからも、「眠り悪阻という言葉もあるくらいですから、殿下の仰るとおりになさった方が」と言われてしまい、結局この一週間、エリスは一度もアレクシスを見送ることができないでいた。
(殿下がお優しいのはわかるけれど、ここまで気を遣われると、逆に居心地が悪いのよね。でも、わたしにそんなことを言う資格がないのは、わかってる)
エリスは一週間前、夢に見たあの場面の直後、ショックのあまり気を失ってしまったのだ。
シオンが咄嗟に身体を支えてくれて大事には至らず、幸い三十秒ほどで意識を取り戻したから良かったものの、その場にいた全員に心配をかけてしまった。
その後すぐに、アレクシスの言い放った『死』の意味が誤解だったとわかり、どれだけホッとしたことか。
けれど、そんなエリスの中に芽生えた次の感情は、自己嫌悪だった。
(結局わたしは、最後まで殿下を信じることができなかった。本心ではずっと、殿下のことを疑っていたんだわ。……きっと、今も)
わかっている。こんな気持ちになるのは、自分の心が弱いせいだと。
それに今回の一件について、アレクシスは「全て俺の責任だ」と言ったが、エリスは、少なからず自分にも原因はあったのだと、強く自覚していた。
(殿下に、ちゃんと気持ちをお伝えしなきゃ。……この子のためにも)
エリスは下腹部にそっと両手を当て、決意する。
そしてようやく顔を上げると、窓の向こうの晴れ渡る空を見上げ、目を細めた。
「お二人は、そろそろあちらに着いたころかしら……」
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