ヴィスタリア帝国の花嫁 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

夕凪ゆな

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第二部

129.真相(後編)

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 ◇


 一方その頃、アレクシスは宮廷内の執務室にて、セドリックと共に書類をさばいているところだった。


(あと数日はかかるかと思ったが、今日中にはどうにかなりそうだな)

 執務卓には、目を通さなければならない資料や、機密事項としるしの入った分厚い封筒がまだいくつも積まれているが、急ぎ裁可を下さなければならない稟議書類は残りわずか。

 アレクシスは、それらの書類をパラパラとめくりながら、安堵の息を吐く。


 二人は連日、決闘の為にさぼってしまった仕事の遅れを取り戻すため、普段より二時間早く宮廷に上がり、夜遅くまで仕事をしていた。

 決闘の後始末に加え、予定を繰り越していた軍法会議や他国の軍事関係者との面会など、かなり慌ただしい一週間だったが、無事乗り切れたのはセドリックのおかげと言えよう。

 セドリックは、演習から戻った翌日から決闘が行われるまでの一週間の間、夕方には帰宮してしまうアレクシスに代わり、出来うる限りの仕事を終わらせてくれていたのだから。
 
 ――それに。

「…………」

 アレクシスは手にしていた書類の束を机に置くと、右の一番上の引き出しを開け、A4サイズの茶封筒を取り出す。

 それは一見何の変哲もない封筒だが、中に入っているのは、リアムについての調査報告書だった。


(もう、一週間になるのか)
 

 アレクシスがこの書類を受け取ったのは、決闘前日の朝のこと。

 エリスとの夕食を経て、アレクシスがリアムについての処遇を考え直し始めていたところ、セドリックからこの茶封筒を渡されたのだ。

「殿下が心変わりをしたら、渡すつもりで調べておりました。無駄にならなくて良かったです」と。

 そこには、リアムの生い立ちについて事細かに記されていた。

 ルクレール家に引き取られてから、リアムが父親からどのような暴力を受けてきたのか。執事や昔の使用人たちの証言や、病院の診察記録カルテ

 他にも、死んだ実の母親のことや、育った孤児院の名前と住所。それに、その孤児院が火事で焼け落ちたときの当時の記録と、それから……。


「……『Lucaルカ』? これがリアムの本当の名前なのか?」
「はい。ランデル語で『光をもたらす者』と言う意味ですね。帝国語ですと、第四皇子殿下の御名みなLucasルーカスがこれに当たります。リアム様の母親は、ランデル王国出身だったのでしょう」
「……ルカ」

 アレクシスは繰り返す。が、正直違和感しか感じなかった。
 アレクシスにとってリアムはリアムであり、今更別の名前だったと言われても、大した意味を持たなかったからだ。

 だが、きっと、本人にとっては大いに意味のあるものなのだろう。

 ――それにしても。


「セドリック、お前、本当にこれを一人で調べたのか?」

 アレクシスには到底信じられなかった。
 たった五日で、それも夕方以降の短い時間で、これだけのことを調べ上げたなどとは。

 するとその問いに、セドリックは肯定も否定もせず、微かに口角を上げる。
 それはつまり、協力者がいるということを意味しており、アレクシスは全てを悟った。


(ああ、やはりそうか。……兄上め)

 こうなると、ジークフリートが今帝都にいることすら、クロヴィスの策謀なのではと思えてくる。
 その目的は不明だが、何もかもが、クロヴィスの手のひらの上のことのように感じてしまう。

 いや、事実、自分は転がされているのだろう。
 だが例えそうだとしても、やることは変わらない。

 今のリアムの置かれた状況からして、エリスの望みを叶える方法は、たった一つしかないのだから。


 アレクシスは腹をくくり、セドリックに命じる。

「お前はこれから遺体安置所に行き、若い男女の遺体を探してこい。できるだけ良い・・状態のものをな」
「……! 承知しました。衣類もこちらで手配しておきます。して、殿下はどうなさるのです?」
「ジークフリートに会いにいく。死人の受け入れ先が必要だからな」
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