サリオン記

サリオンの記録者

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第二章

リオレットの名のもとに・二の吟スピンオフ

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《リオレットの名のもとに》
ーーー
風がこの吟を運んでくる。
これは、リラの音と地脈の余韻がまだ記憶に新しい、ある野営地での話。
ーーー

焚き火の音にかき消されるほど、小さな旋律だった。
セラの指がリラの弦をなぞると、空気がふるえ、夜の闇にほのかな光がにじんだ。

「……まだ、少し濁る」

調律を終えると、セラはリラをそっと抱え直す。
火の向こうでロウグが寝息を立てていた。
タリオスはまだ見回りから戻っていない。

彼女は目を伏せた。
火に映る影が揺れると、記憶のすみから、教会の石造りの回廊、朝を告げる鐘の音がよみがえる。

かつて、彼女は「リオレットの娘」と呼ばれた。
リオレットの家系は、聖堂でリラを奏でることを許された、限られた血筋。
セラもまた、その清らかな音色で、次代の弾き手に選ばれかけていた。

でも──あるとき、音が濁り始めた。
他の奏者と共に演奏すると、和音がぶつかり、共鳴が崩れる。
その異変に、彼女は誰より先に気づいていた。
けれど、誰もそれを口に出さなかった。

教会は言った。「音は記録できる。揺るぎない機構へと残すべきだ」
吟は儀式となり、旋律は歯車に刻まれようとしていた。

セラはただ、リラの音を失いたくなかった。
誰のためでもない、自分の中に響く音を。

逃げた日のことを、今でもはっきりと覚えている。
聖堂の裏庭にあった、崩れかけた石垣。
その向こうに偶然来ていた野の市。
露店の隙間で、彼女は息をひそめ、リラだけを抱えて夜を越えた。

あれから、どれほどの風景を越えてきただろう。
旅の市に混ざって生きる中で、リラはしばし眠っていた。

──でも。

セラは弦に触れる。
あの音が、またわずかに、戻ってきている。
タリオスの地脈の響き、リュカの沈黙の背に乗る風。
それらすべてが、彼女の音を少しずつ目覚めさせている。

「もう、あの頃の私とは違う。音は、いま──風と、誰かの鼓動と、静かに響き合っている。」

夜は静かだった。
風が少しだけ、リラの弦を揺らした。

ーーー
この話はここまで。
風が次の吟を運んでくるまで、しばしのおやすみを。
ーーー
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