私のDear Lover~ずっと会いたかった光~

空海エアン

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第3話(1) 『2人きりのランチ』~憧れだった人~

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※男性社員の気持ち悪い言動描写があるため、苦手な方はご注意ください。

___________



 無事に午前分の業務を終え、一息ついた頃には昼休憩の時間が迫っていた。これが戦闘士関連のトラブルがあると昼も返上して右往左往することもあるのだが、今日はいつになく平和な日である。

「やっとお昼だー。ルナさんは今日もカフェ?」
「はい。限定サンドの日で、ライラにも頼まれてるんです」

 隣のデスクの同僚が「いいね~」とのびをしている。
 なんだか根掘り葉掘りの予感がしているので、一応センリとランチの約束をしたことは誰にも伝えていない。

「そういえばセンリさんはずっと席外してるね」
「そうですね。管理者さんとのお話が長引いてるんでしょうか」

 施設案内の後から、センリはずっと管理者の部屋にいるようだった。
 平社員とは違い、次長を任せるつもりで雇ったのだから必要な話もあるのだろうと想像している。

「それにしてもあのセンリがウチに来てくれるなんて、クレースさんもようやく緊急連絡のないお休みを満喫できるように…って」

 言いかけた同僚は、はっとして両手を合わせた。

「ごめんごめん、お昼引き留めちゃって」
「ふふ、センリさんみたいな大物が来たらついつい話題にしちゃいますよね」
「だよねー。私は今もドッキリ疑ってるもん」

 笑い合い、自前の弁当を取り出した同僚に別れを告げて、ルナも事務所を出る。
 またお昼に、と言われたがどうしようかと思っていると不意に両肩を掴まれた。

「よっ、ルナちゃん。今からお昼?」

 ルナは努めて冷静に、息を吐く。少し肩は跳ねたが、相手は気付いていないようだ。

「はい、お疲れ様さまです。カールさん」

 いつもなにかと理由をつけては肩や腕に触れてなかなか離してくれないこの同僚が、ルナは苦手だった。
 この頃は特にしつこく、隙を見せるとしつこくディナーに誘われるのも不快でしかないのだが、職場の人間にはあまり失礼にできないので困る。
 それに、カールは30後半であり、まだ21のルナからすればそういった対象として見れない。

「今はライラさん出動だろ?1人?」
「あ、いえ…」

 今も肩から手を離してくれないので、さりげなく振り向くようにして距離をとる。申し訳ないが、触れ方がそわそわとしていて気持ちが悪かった。
 ルナは平均より背が低いので、あまり近くに寄られると威圧感を感じてしまう。それはルナ個人の感想なので相手が悪いわけではないが、それでも嫌なものは嫌だった。

「俺も1人なんだ!良かったら一緒に食べない?」

 せっかく離した距離を縮められ、あまつさえランチにも誘われ、胃が痛かった。タバコとコーヒーの混ざったのような香りにも顔をしかめそうになる。
 ルナは鈍感な訳ではない。目の前の男が胸ばかりに視線を向けて、強気に断らないルナを狙っていることはわかっていた。

「今日は」
「さ、行こ行こ。パスタとかでいい?」

 話を聞かずに押しきろうとするところが嫌悪感を増幅させる。腕も掴まれ、さすがに無理だと思ったルナが振り払おうとしたところで、急に腕が軽くなりカールとの距離が離れた。同時に、ふわりと良い香りがする。

「っんだよ!って…え、せ、センリさん?」

 見るとルナとカールの間に、センリがいた。
 センリは声を荒げられるようなほど無理やり割り込んだわけではない。さすが1級と言うべきか、柔らかく巧みにルナとカールを引き離してくれている。

「施設案内の延長でランチの案内も俺が予約していたんだ。カール・マックス、悪いが1人で行ってくれるか」

 ジャケットを着ていても分かる鍛えられた体躯と長身のセンリ見下ろされたカールは、フルネームを記憶されていることも相まってか顔色を悪くしている。
 強気に出られないような相手には途端に勢いをなくすカールは、ライラが一緒のときには近寄りもしないくらいなのだ。センリに凄まれてはひとたまりもないだろう。

「はい!もちろんです!失礼します!」

 カールは素早く一礼して後退していき、すぐに姿は見えなくなった。
 センリがルナに向き合い、申し訳なさそうに一歩分距離をとられる。

「遅れてごめん。待ったよな」
「いえ、今事務所を出たところでした」

 今、なぜセンリに対しては気を張らなくて良いのかわかった気がする。
 センリは常に常識的な距離を保ち、極力触れないように気を遣ってくれるからだ。
 動きも声量も穏やかなので落ち着いて接していられる。無遠慮な誘いの後では、その気遣いをより深く感じられた。

「そうか、もう出れる?」
「はい、いつでも!」

 端末を見せるようにして頷くと、また優しげな笑みが向けられる。これは確かに、他の人には向けていなかったかもしれない。

「じゃあ行こうか。ここからカフェはどのくらい?」
「歩きで5分程度です」

 ルナとセンリは、カフェのメニューなどを話しながらエントランスから出ていく。もちろん外にランチにいくのも、事務所の外にいるのもルナ達だけではないのでとても視線を感じるが、気付かないフリをした。

「今日は週1回の限定サンドの日なんです。ライラもすごく好きで、数量限定ではないんですけど閉店までには必ず売りきれちゃうんですよ」
「へえ、なら頼んでみようかな。何が入ってるんだ?」
「えーと、ハムとレタスと…」

 並んで歩いている間も、センリは一歩以上距離を開けて道路側を歩いてくれている。紳士的で素敵だ。

「ねえ、あれってセンリ?」
「うそ!なんでここに!?」
「イケメンすぎ~!足長~!」

 大人気の戦闘士と歩いているため、様々な囁き声が聞こえてくる。
 1般人からも視線は感じるし囁く声も聞こえるが、寄ってはこない。もっと都心の方だと話しかけられることもあるそうだが、戦闘士はいつ出動命令がかかり移動を強いられる事態になるかわからないため、どんなに人気でも囲み込むようなことはしてはならないとされている。
 緊急車両のような扱いと言えばわかりやすいだろうか。万が一囲まれて出動に支障が出れば、法によって裁かれかねないのだ。

「隣のあれ…彼女かな?」
「やだ、絶対違うよ」

 好き勝手言われることだけは避けられないが。
 ルナはあまり気にしていないが、センリは申し訳なさそうな顔をしていた。

「こっちではまだ大人しい方だと思ってたけど、気になるよな」
「私は気にしてませんよ!アイドルと違って押し寄せてこないから平和ですし」

 ルナが冗談めかして言うと、センリがホッとしたように笑みを浮かべる。
 確かに視線はすごいが、何かされるわけではないので問題はない。

「今度からメガネくらいはかけてくる」
「それは…似合っちゃって余計騒ぎになりませんか?」
「まさか」

 センリは笑っているが、メガネだってよく似合いそうなので余計に視線を集めてしまいそうだ。

「あ、ここです!」

 あっという間にカフェに到着し、センリがまた扉を開けてくれる。今度は固まらずに済んだが、外でされると本当に関係を疑われそうだと思いヒヤヒヤしてしまう。

「いらっしゃいま、せ!2名様でしょうか?」
「はい、テーブル席で。あ、あとテイクアウトで限定サンドをツーセットお願いします」
「かしこまりました!」

 店員がセンリを見て一瞬停止したが、根性ですぐに再起動していた。
 いつもは席の指定などしないのだが、窓際のカウンター席だとセンリが鑑賞物になってしまいそうだ。

「静かで良い店だな」
「はい、ゆっくりできてお気に入りなんです」

 センリのファンなのか、近くの席の女性客が顔だけ叫んでいる。今のところはプライベートのセンリに話しかけようとする人もおらず、落ち着けそうだった。店員の配慮で死角になりやすい場所へ案内してくれたのも大きい。

「何にしますか?」
「限定サンドがどのくらいのボリュームかによる」
「女性向けサイズです。センリさんには少し足りないかも…」

 センリはルナからの情報で、ピラフを追加することに決めたらしい。大盛りで頼んでいた。

「やっぱり身体を動かす仕事だといっぱい食べられるんですね」
「ああ、ルナは限定サンドだけ?」
「出動命令がなければ座り仕事だけなので、あんまり満腹だと眠くなっちゃって」

 センリと話していると、ルナの方がどんどん話してしまう。いつもは聞き役に回ることが多いのに。

「わかる。俺も珍しく事務仕事だけの時は少し眠くなるよ」
「センリさんも?なんだか意外」

 午後にうとうとするセンリを想像すると、少しかわいく思えてしまう。

「他の職員が話してる声を聞きながらだと余計に」
「わかります!それで電話のコール音でびっくりしたり」

 他愛もない話を掘り下げてくれるので、本当に話しやすい。戦闘士にありがちな武勇伝語りもなく、楽しかった。

「ふ、ルナがうとうとしてる時は気をつけて見とく」
「う、だめです。見られるのは恥ずかしいです」

 そしてやはり、表情も声も甘い気がする。気のせいと思うとそうにも思えるが、ほぼ初対面のルナに対して気さくすぎることには変わりなかった。
 少しだけ気になりながらも会話は弾み、その内に料理が運ばれてくる。
 料理からほわほわと暖かい熱気がきて、空腹が刺激される。
 ルナはいつもの癖で手を合わせた。祖父の影響が大きいこれは、ライラには珍しそうに見られるだけだったが。

「あれ?センリさんも手を合わせるんですね」

 同じく手を合わせるセンリが見え、思わず尋ねる。
 自分以外になかなか見ない所作であるが、センリの近くにもそうする人がいたのだろうか。

「ああ、昔人に教わったのが癖になってる」

 やはり、親しい人に同じような人がいたのだろう。センリのそれはどこか優雅で、ルナとは違うようにも見えてしまうが。

「祖父以外に同じ人をはじめて見たので、なんだか嬉しいです」

 暖かいサンドは一口サイズにカットされており、食べやすい。
 ピラフは大盛りなので熱そうだったが、センリは平気そうだった。

「…俺に教えてくれた人も祖父に教えてもらったって言ってたな」
「すごい偶然ですね」

 もしかしたらルナの祖父の同郷だったりするだろうか。聞きたいが、懐かしむような表情を見ているとあまり踏みいったことを聞くのは避けたかった。

「限定サンドはどうですか?」
「美味いよ。これはテイクアウトを頼みたくもなる」

 センリは食べる姿も品が良く、たくさん食べているように見えない。所作からしても教育を受けていそうで、育ちが良いのだろうと思った。

「もしセンリさんがお昼に出動の日があっても、ご希望ならテイクアウトしてきますよ」
「それはめちゃくちゃありがたい。本当に頼むぞ?」
「ふふ、はい、ぜひ」

 嬉しそうなセンリを見ていると、胸が締まる。自分はこんなにもチョロかっただろうかと心配になるが、このどことなく懐かしくなるような雰囲気は、センリに惹かれているという理由だけではないような気がした。
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