ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ

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第2章 

14.人間の国①

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【アルニラム神皇国・帝城(玉座の間)】

「死の樹海に新しい魔王が誕生しただと! ニコラウス教皇、それはまことか?」

「アレキサンドル皇帝陛下、【賢者の石】がそう告げております。間違いないでしょう」

 玉座の間に控える近衛騎士団から、ざわめきが起こる。

「至急、勇者を召喚せよ!」

「ご安心ください。すでに準備は進めております」

「それは結構」

 満足気にアレキサンドル皇帝が頷く。

「勇者というのは素晴らしい! 世界を救うという使命を背負わせれば、進んで命を投げ出してくれるのだからな。我が国の兵力を損なうことなく、魔王を討伐できる。いやはや勇者様というのは、誠に使い勝手のいい召喚獣よ!」

「召喚獣というのは言いえて妙ですな」
 ニコラウス教皇は愉快そうに笑った。

 とはいえ、勇者を召喚しても、すぐに魔王を討伐できるというわけではない。
 過去の記録によると、異世界からやってきた人間の中には、剣を握ったことすらない者もいたという。
 一定の訓練期間を設ける必要があるのだ。

「ギーク、皇国騎士団の一部を、死の樹海に最も近い砦へ向かわせよ」
 
 アレキサンドル皇帝が、騎士団総長グランドマスターに命令する。
 近衛騎士団は皇帝を守護する組織、皇国騎士団は国を守る組織で、総長グランドマスターは2つの組織を束ねる最高位指導者だ。

「勇者が使い物になるまでの間に、魔族が攻めてきた場合に備えるのだ。こちらから攻め込む必要はないぞ。危険なことは、異世界人に任せておけばよい」

「御意。すぐに手配いたしましょう」

(民衆の間にくすぶっている、アストレア教団へ対する不満が爆発する前に、新魔王が誕生したのは僥倖)

 玉座の間を後にするギーク騎士団総長グランドマスターの背中を見送りながら、ニコラウス教皇は、ほくそ笑む。
 
(『アストレア教団は貴族や金持ちばかりを優遇』『神聖魔法による病気治療を受けるには高額なお布施が必要』『アストレア教団の拝金主義は目に余る!』――これらの声は、魔王誕生のニュースによってかき消されるだろう……)


  ◇


 ジャングリラからアンジャル王国までは、通常なら馬車を使っても1か月以上かかる道程だ。

<メッセージ>『転移魔法が使えます。行きたい場所を選択してください』
  
 目の前にウィンドウが現れ、Google Mapのような地図が表示された。
 手を近づけたり遠ざけたりすることで倍率が変化する。
 さすがに施設名の表示やストリートビューの機能はなかったけれど、国名と主要な街の名前は表示されるようだ。

(もしかして、ウォータールーを選択すると街の中に突然、俺が出現するという状況になる? 騒ぎに巻き込まれるのは嫌なんだけど……)

『ご心配なく。城門の手前、衛兵には見えない場所へ転移します。尚、マスターが実際に足を運んだ場所は、地図情報に追加されます。次回より、その場所への転移が可能です』

 緑の丘の上に転移した。
 円形の城壁に囲まれた、ジャングリラとは比べようもないくらい大きな街が見える。
 
『ディラン伯爵領は、アンジャル王国の最北部に位置します』

 伯爵家は代々、魔族と持ちつ持たれつの関係を続けていた。
 伯爵家はソドムの森でしか採れない薬草や鉱石などを求め、代わりに魔族は、(当時は貴重だった)小麦や大麦などの穀物を得ていた。
 100年前の戦争で一旦は関係が途絶えたものの、現当主の一人息子が病にせって状況が一変する。
 ディラン伯爵の愛息には、彼の叔父が雇った魔導士の呪詛が掛けられていたのだ。
 王国内の名だたる魔導士や治癒師ヒーラーが匙を投げた強固な呪詛をリリスは解呪すると共に、元凶であるディラン伯爵の弟と実行犯である魔導士を屠った。
 以降、ディラン伯爵はリリスに忠誠を誓っているのだそうだ。

 城門で通行証の提示を求められた。

 リリスからの紹介状を渡すと、衛兵は慌てた様子で上官を連れてきた。

 丁重な案内で、ゲートハウスの一室に通される。

 しばらく待っていると、豪華な装飾が施された馬車が迎えに来た。
 
「お初にお目にかかります、サタン様」

 デヴィッド・ディラン伯爵は、がっしりとした体躯たいくに鋭い眼光を持つ、カリスマ性のある人物だった。

「リリス様は、ご健勝であらせられますかな?」

「元気ですよ。突然の訪問にもかかわらず、領主様が自ら迎えに来てくださるとは痛み入ります」

 馬車に案内され、向かい合って座る。

「魔王様、もう人目ひとめは気にされる必要はありません。普段と同じようにお話しください」

「どうして俺が魔王だと? 紹介状に、そのような文言はなかったと思うが……」

「昨夜のうちにリリス様が使い魔を寄越され、教えてくださりました。わたくし以外に知る者はおりませんので、どうかご安心を」
 
 ディラン伯爵は、俺と敵対する意思がないことを示すためか、リリスへの感謝の言葉を何度も口にした。
 リリスが命を救った後継ぎは、王国の首都にある大陸有数の名門校・王立魔法大学で寮生活を送っているらしい。

「ところで、本日は観光のために来られたとか……」

 俺は頷き、
「ウォータールーの街を見て回る許可が欲しい。見聞を広め、魔族の生活向上に役立てたいんだ。もちろん、人間に危害は加えない。街のルールには従う」

「許可させていただきます。好きなだけ、この街でお過ごしください。……街のルールとおっしゃいましたが、正当防衛は罪に問われることはありません。誰もが等しく持っている当然の権利です。もっとも、相手を殺してしまうのは問題ですが……」

「しない、しない! 殺すだなんて絶対にしないから!!」

 ウォータールーに滞在している間、城の一室を使うよう申し出があったが、丁重に辞退した。
 貴族の暮らしを見ても参考にならない。
 出立前、リリスから革袋一杯の路銀を渡されていたので、庶民が利用する宿、食堂、酒場などを見て回るつもりだった。

「では、これをお納めください」

 ディラン伯爵は、紋章が入ったゴールドの懐中時計を差し出した。

「これを見せれば、たいていのことは解決するはずです。それでも何かお困りの場合、いつでも城にお越しください。できる限りのことをさせていただきます」

 城の前で馬車を下りて、地図情報に追加した。

 ディラン伯爵に礼を述べて、俺は商業区画の方へと向かった。
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