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第2章
33.魔人狩り
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ベルゴリオ司教が殺害されたことを契機に、アルニラム神皇国は不穏な空気に包まれた。
「反アレキサンドル皇帝派の貴族が、また一人、粛清されたらしいぜ……」
「悪魔に取り憑かれて魔人になってたって聞いたぞ」
「そういえば、貧民街の教会で司教を殺した犯人も、そうだったんだろ?」
「近々、人間と魔族の間で大きな戦争が始まるのかねぇ……」
街中に不安の声が溢れる。
――と同時に、悲劇が始まりを見せていた。
「待って! お父さんは魔人なんかじゃありません! 連れて行かないで!」
騎士団に拘束され、連行される男を少女が追う。
屈強な騎士の脚にすがりつき、必死に冤罪であることを訴える。
「チッ!」
髭面の騎士は舌打ちをすると、少女の髪を掴んで乱暴に引き剥がした。
「密告があったんだよ! お前の父ちゃんが魔人だとな! ……いや、待てよ……魔人の娘ということは、お前にも悪魔が取り憑いている可能性があるということか……」
下卑た笑いを浮かべ、好色な目を少女に向ける。
「お待ちください! 娘は関係ありません! どうか……どうか、お慈悲を」
後ろ手に縛られた男が、泣きながら騎士に懇願する。
「やかましい!!」
別の騎士が捕らわれの男の顔を殴った。
「おい、この娘も連れていけ」
髭面の騎士が部下に命じる。
悲鳴を上げる少女を街の人々は遠巻きに見ている。
かわいそうに、と同情しながら……。
もしかしたら次は自分の番かもしれない、と怯えながら……。
***
『魔人狩り』が始まって、人々の生活は一変した。
「国内に潜む魔人の情報を皇国騎士団に提供すれば、報奨金がもらえるらしいぜ」
人々の間に噂が広まり、金目当てや私怨などから密告が相次いだ。
友人が疑われても、その人物をかばえば自分も疑われてしまう。
人々は自分の身に火の粉が降りかからないよう、見て見ぬふりをするしかなかった。
アストレア教団の異端審問官による取り調べは苛烈を極め、時には拷問すら行われたという――。
「平和だったはずの日常が、新魔王の誕生によって壊されたんだ!」
アルニラム神皇国の人々の怒りは新魔王と魔族に向けられ、異端審問に対する恐怖も手伝ってか、次第にアストレア教団に対する不平不満の声は消えていった。
***
「こんなの絶対おかしいよ!」
騎士団の宿舎を離れ、街の中心部にある食堂で夕飯を食べながら碧は憤った。
「強引すぎるよ、やり方が……中には無実の人だっているかもしれないじゃん!」
「アオイ様、もう少し小さな声で……これでは宿舎を離れた意味がなくなります」
皇国騎士のニックが声を潜める。
「誰かに密告されてもアオイ殿が魔人と認定されることはないでしょうが、行動の制限などを受ける可能性は否定できません。慎重を期すに越したことはありません」
カールは店内を見回しながら言った。
「でも、アオイが言ってることは正しいよ。密告だけで誰かを捕らえるなんて狂気の沙汰だ。運よく異端審問で白になっても、世間からは色眼鏡で見られる。元の生活には戻れない」
エディが、やりきれないといった表情でエールを飲み干した。
カポネ公爵の荘園でポイズンワームと戦闘して以来、碧は4人の皇国騎士と共に、何体もの魔獣を討伐してきた。
いまではエディと孤児院で顔を合わせる以外にも、ときどき5人で食事に出掛けたりするくらいに距離が縮まっている。
「ねえ……《ソドムの森》へは、どうやって行けばいいの?」
「魔王討伐に向かわれるおつもりですか?」
ニックが驚く。
「討伐というか、確かめたいんだよね。本当に、魔王なんてものが存在しているのか」
碧は慎重に言葉を選びながら答えた。
「この世界に来て、魔獣は何匹も見たし、戦っても来た。でも、魔族といわれる存在には遭遇したことさえない。以前、エディに言われたけど、なんか『私ってアストレア教団に騙されているのかな?』っていう疑念が芽生えてきてるんだよね……」
「いいね!」
エディが手を叩いて笑った。
「自分の頭で考え、自分の目で確かめることは、後悔なく生きていくためには欠かせないないことだ。アオイも、ちょっとは成長したじゃねえか」
「エディ、アオイ様を焚き付けるような言動は慎め。魔王討伐のための切り札である勇者様を、何の準備もなく《ソドムの森》へ行かせるわけにはいかない」
ニックは厳しい表情で言った。
「いや、偵察くらいはしておくべきだろう……」
カールが腕組みしながら言った。
「魔王が誕生したというのに、《ソドムの森》への調査隊が派遣されたという話は聞かない。これは不自然ではないか? 魔族の現状がどうなのか、調べておいて損はないと思う」
「危なそうなら、即時撤退すれば問題ないのでは?」
大人しく会話を聞いていたマイケルが言った。
「はぁ~っ……」
ニックは、大きな溜め息をついた。
「アオイ様と共に《ソドムの森》へ調査に向かう許可が得られるか、上層部に進言してみよう」
「反アレキサンドル皇帝派の貴族が、また一人、粛清されたらしいぜ……」
「悪魔に取り憑かれて魔人になってたって聞いたぞ」
「そういえば、貧民街の教会で司教を殺した犯人も、そうだったんだろ?」
「近々、人間と魔族の間で大きな戦争が始まるのかねぇ……」
街中に不安の声が溢れる。
――と同時に、悲劇が始まりを見せていた。
「待って! お父さんは魔人なんかじゃありません! 連れて行かないで!」
騎士団に拘束され、連行される男を少女が追う。
屈強な騎士の脚にすがりつき、必死に冤罪であることを訴える。
「チッ!」
髭面の騎士は舌打ちをすると、少女の髪を掴んで乱暴に引き剥がした。
「密告があったんだよ! お前の父ちゃんが魔人だとな! ……いや、待てよ……魔人の娘ということは、お前にも悪魔が取り憑いている可能性があるということか……」
下卑た笑いを浮かべ、好色な目を少女に向ける。
「お待ちください! 娘は関係ありません! どうか……どうか、お慈悲を」
後ろ手に縛られた男が、泣きながら騎士に懇願する。
「やかましい!!」
別の騎士が捕らわれの男の顔を殴った。
「おい、この娘も連れていけ」
髭面の騎士が部下に命じる。
悲鳴を上げる少女を街の人々は遠巻きに見ている。
かわいそうに、と同情しながら……。
もしかしたら次は自分の番かもしれない、と怯えながら……。
***
『魔人狩り』が始まって、人々の生活は一変した。
「国内に潜む魔人の情報を皇国騎士団に提供すれば、報奨金がもらえるらしいぜ」
人々の間に噂が広まり、金目当てや私怨などから密告が相次いだ。
友人が疑われても、その人物をかばえば自分も疑われてしまう。
人々は自分の身に火の粉が降りかからないよう、見て見ぬふりをするしかなかった。
アストレア教団の異端審問官による取り調べは苛烈を極め、時には拷問すら行われたという――。
「平和だったはずの日常が、新魔王の誕生によって壊されたんだ!」
アルニラム神皇国の人々の怒りは新魔王と魔族に向けられ、異端審問に対する恐怖も手伝ってか、次第にアストレア教団に対する不平不満の声は消えていった。
***
「こんなの絶対おかしいよ!」
騎士団の宿舎を離れ、街の中心部にある食堂で夕飯を食べながら碧は憤った。
「強引すぎるよ、やり方が……中には無実の人だっているかもしれないじゃん!」
「アオイ様、もう少し小さな声で……これでは宿舎を離れた意味がなくなります」
皇国騎士のニックが声を潜める。
「誰かに密告されてもアオイ殿が魔人と認定されることはないでしょうが、行動の制限などを受ける可能性は否定できません。慎重を期すに越したことはありません」
カールは店内を見回しながら言った。
「でも、アオイが言ってることは正しいよ。密告だけで誰かを捕らえるなんて狂気の沙汰だ。運よく異端審問で白になっても、世間からは色眼鏡で見られる。元の生活には戻れない」
エディが、やりきれないといった表情でエールを飲み干した。
カポネ公爵の荘園でポイズンワームと戦闘して以来、碧は4人の皇国騎士と共に、何体もの魔獣を討伐してきた。
いまではエディと孤児院で顔を合わせる以外にも、ときどき5人で食事に出掛けたりするくらいに距離が縮まっている。
「ねえ……《ソドムの森》へは、どうやって行けばいいの?」
「魔王討伐に向かわれるおつもりですか?」
ニックが驚く。
「討伐というか、確かめたいんだよね。本当に、魔王なんてものが存在しているのか」
碧は慎重に言葉を選びながら答えた。
「この世界に来て、魔獣は何匹も見たし、戦っても来た。でも、魔族といわれる存在には遭遇したことさえない。以前、エディに言われたけど、なんか『私ってアストレア教団に騙されているのかな?』っていう疑念が芽生えてきてるんだよね……」
「いいね!」
エディが手を叩いて笑った。
「自分の頭で考え、自分の目で確かめることは、後悔なく生きていくためには欠かせないないことだ。アオイも、ちょっとは成長したじゃねえか」
「エディ、アオイ様を焚き付けるような言動は慎め。魔王討伐のための切り札である勇者様を、何の準備もなく《ソドムの森》へ行かせるわけにはいかない」
ニックは厳しい表情で言った。
「いや、偵察くらいはしておくべきだろう……」
カールが腕組みしながら言った。
「魔王が誕生したというのに、《ソドムの森》への調査隊が派遣されたという話は聞かない。これは不自然ではないか? 魔族の現状がどうなのか、調べておいて損はないと思う」
「危なそうなら、即時撤退すれば問題ないのでは?」
大人しく会話を聞いていたマイケルが言った。
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