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第2章
39.調査
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【アルニラム神皇国】
孤児院の院長、ローズは疲れきった顔で帰宅すると、執務室の机に着き溜め息を吐いた。
「ミャー♡」
黒猫のニュクスことナアマは、ローズの膝の上に乗ると、甘えた声で鳴く。
「あらあら、どこから入ってきたのかしら。ニュクスは本当に神出鬼没ね」
ローズに撫でられ、ナアマはゴロゴロと喉を鳴らした。
「お帰りなさいませ、院長先生。……今期の予算はどのようになりましたか?」
紅茶を運んできた修道女のアンが、心配そうに尋ねる。
「魔王復活により、国防費が増えているとのことで、また少し削られました。わたくしの力不足で、みんなには迷惑をかけます。申し訳ありません」
「そんな! 院長先生は頑張っておられます。頭をお上げください!」
アンが慌てて言う。
「先代の教皇様なら、このような時世でも、きっと孤児院を守ってくれたはずです。教皇が代替わりして……」
「おやめなさい! ニコラウス様は、先代教皇を殺めた大悪魔・メフィストフェレスを封印した聖人。きっと深いお考えがあってのことでしょう……」
「そのお話なら聞いたことがありますが……本当のことなのでございましょうか?」
「ええ、事実ですよ。メーテス大聖堂の地下に、メフィストフェレスを封印した指輪が保管されているそうですよ」
(メフィストフェレス様が封印されている……?)
ナアマの目がキラリと光った。
***
【皇国騎士ニックの家】
「なんというか、本当に魔人なのかと疑うことが多かった。連行していく奴等から、魔力の類は一切感じなかったからな」
ニックの同期、ロバートはそう言ってエールを飲み干した。
「日を追うごとに、この任務から外してくれって思いが強くなっていく。『この人たちは、本当に捕らえなきゃならないのか』って疑問が常につきまとう」
「お前が感じた違和感を、騎士団長殿には報告したか?」
空になったロバートのジョッキにエールを注ぎながら、ニックが問う。
「言ったさ! だが『我々の仕事は教団がリストアップした人物を捕らえることだ。白黒は異端審問官が判断する。余計なことは考えるな』だと。どうしようもねえよ」
ロバートは吐き捨てるように言って、またエールをグイッと呷った。
「……そういえば、異端審問所の警備にあたっていたヤツも、笑えない話をしていたな」
ストレスに加え、酔いも手伝ったのだろう。
普段は口数の少ないロバートが饒舌になっている。
「裁判で、魔人であることを自白した連中の身体には、例外なく酷い痣や傷があったそうだ。取り調べで何が行われていたのか、推して知るべしだ」
「まさか、そこまで腐っていたとは……」
ニックは言葉を失った。
「こんなことを話しているのがバレたら、俺もお前も異端審問所行は確定だな」
ロバートは笑った。
***
【貧民街の教会】
「ベルゴリオ司教を殺した犯人は、本当に悪魔憑きだったの?」
礼拝堂に碧の声が響いた。
「……わたくしには分かりかねます」
司祭のモートンが、弱々しい声で答える。
「正直に言え! ここで起こった事件が引金となって『魔人狩り』が始まったんだ。この国が現在どんな状況なのか、説明が必要なのか?」
エディが低い声で凄む。
「……ベルゴリオ司教を殺めたアンダーソンは『悪魔憑き』ではないと思います。彼には動機がありました。母親が行っていた過剰な布施により、家庭が崩壊したのです。原因はアストレア教団にあると、逆恨みしたとしても不思議ではありません」
「日々の暮らしさえ、ままならない貧民街の連中からも、金を毟り取っていやがるのか!」
エディはモートンの胸ぐらを掴んだ。
「教団の上からの命令なのです。一介の司祭でしかない、わたくしに何ができるというのですか!?」
悲痛な声だった。
「熱心な信者さんの中には、どん底の暮らしから抜け出そうと、藁にも縋る思いで布施をされている方もいます。それを断れというのですか? 神から見捨てられたと思わせろと? あなたに、そんなことをする権利があるというのですか!」
頬に、涙が伝っていた。
エディはモートンから手を離すと、
「アンタは、アンタで苦しんでいたんだな……すまなかった」
と、頭を下げた。
「……じゃあ、ニコラウス教皇は、なぜ『悪魔憑き』なんていう嘘を?」
「その問いには私が答えましょう、勇者様」
強い意志が感じられる声がした。
碧が振り返ると、白い司教服を纏った長身の男が立っていた。
「お初にお目にかかります。勇者・アオイ様、そして皇国騎士・エディ殿。私はベルゴリオ司教の後任として当教会を預かるアヒムと申す者……」
孤児院の院長、ローズは疲れきった顔で帰宅すると、執務室の机に着き溜め息を吐いた。
「ミャー♡」
黒猫のニュクスことナアマは、ローズの膝の上に乗ると、甘えた声で鳴く。
「あらあら、どこから入ってきたのかしら。ニュクスは本当に神出鬼没ね」
ローズに撫でられ、ナアマはゴロゴロと喉を鳴らした。
「お帰りなさいませ、院長先生。……今期の予算はどのようになりましたか?」
紅茶を運んできた修道女のアンが、心配そうに尋ねる。
「魔王復活により、国防費が増えているとのことで、また少し削られました。わたくしの力不足で、みんなには迷惑をかけます。申し訳ありません」
「そんな! 院長先生は頑張っておられます。頭をお上げください!」
アンが慌てて言う。
「先代の教皇様なら、このような時世でも、きっと孤児院を守ってくれたはずです。教皇が代替わりして……」
「おやめなさい! ニコラウス様は、先代教皇を殺めた大悪魔・メフィストフェレスを封印した聖人。きっと深いお考えがあってのことでしょう……」
「そのお話なら聞いたことがありますが……本当のことなのでございましょうか?」
「ええ、事実ですよ。メーテス大聖堂の地下に、メフィストフェレスを封印した指輪が保管されているそうですよ」
(メフィストフェレス様が封印されている……?)
ナアマの目がキラリと光った。
***
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「日を追うごとに、この任務から外してくれって思いが強くなっていく。『この人たちは、本当に捕らえなきゃならないのか』って疑問が常につきまとう」
「お前が感じた違和感を、騎士団長殿には報告したか?」
空になったロバートのジョッキにエールを注ぎながら、ニックが問う。
「言ったさ! だが『我々の仕事は教団がリストアップした人物を捕らえることだ。白黒は異端審問官が判断する。余計なことは考えるな』だと。どうしようもねえよ」
ロバートは吐き捨てるように言って、またエールをグイッと呷った。
「……そういえば、異端審問所の警備にあたっていたヤツも、笑えない話をしていたな」
ストレスに加え、酔いも手伝ったのだろう。
普段は口数の少ないロバートが饒舌になっている。
「裁判で、魔人であることを自白した連中の身体には、例外なく酷い痣や傷があったそうだ。取り調べで何が行われていたのか、推して知るべしだ」
「まさか、そこまで腐っていたとは……」
ニックは言葉を失った。
「こんなことを話しているのがバレたら、俺もお前も異端審問所行は確定だな」
ロバートは笑った。
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礼拝堂に碧の声が響いた。
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「正直に言え! ここで起こった事件が引金となって『魔人狩り』が始まったんだ。この国が現在どんな状況なのか、説明が必要なのか?」
エディが低い声で凄む。
「……ベルゴリオ司教を殺めたアンダーソンは『悪魔憑き』ではないと思います。彼には動機がありました。母親が行っていた過剰な布施により、家庭が崩壊したのです。原因はアストレア教団にあると、逆恨みしたとしても不思議ではありません」
「日々の暮らしさえ、ままならない貧民街の連中からも、金を毟り取っていやがるのか!」
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悲痛な声だった。
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頬に、涙が伝っていた。
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と、頭を下げた。
「……じゃあ、ニコラウス教皇は、なぜ『悪魔憑き』なんていう嘘を?」
「その問いには私が答えましょう、勇者様」
強い意志が感じられる声がした。
碧が振り返ると、白い司教服を纏った長身の男が立っていた。
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