32 / 40
六章 雪原の狼と『模倣』の魔法使い
32、スティリア騎士団
しおりを挟む
北部スティリアバーグは国境に面している。隣国は冬の精霊の加護を受けており、地続きのスティリアバーグはその影響で一年中寒冷な気候だ。
隊服の色から「青の騎士団」と呼ばれるスティリア騎士団は、山の頂にある城を拠点としている。比較的穏やかな春夏ならば馬車で行くことも可能だ。
スティリア騎士団は身分を問わない。
北部の小さな農村でも、一人の青年が出立しようとしていた。
「にーちゃん、いってらっしゃい!」
「怪我すんなよ、兄貴」
「休みが取れたら帰ってきてよね」
母と弟妹に見送られ、褐色の肌をした青年・アーノルドは北の砦を目指す。
しなやかな長身は戦いに向いていたし、剣を振るのも得意だった。最近特に体力も伸びていた。狩猟を続けていたからか、感覚も鋭くなってきている。
金を稼ぐのに騎士は丁度良かったのだ。こうして青年はスティリア騎士団に入団した。
叙任の日、若者たちはスティリア城の広間に集められた。
簡易的な叙任式を終え、老齢の騎士団長が壇上から語り掛ける。
「お前たちは見ての通り、出自も身分も年齢も様々だ。これは我々の戦う相手が人間ではなく、魔物だからだ」
彼は一度言葉を区切った。
「魔物はこちらの戦力を見て標的を選んだりはしない。目の前の生き物を襲う。そんな相手から市民を守るのが我々の役目だ。俺はお前たちの生まれに関わらず、魔物から市民や仲間、自分の命を守れるように指揮を取るからな。自分がしていることは何のためなのか、努々忘れないように。以上、解散!」
騎士団長が手短に挨拶を終える。浮ついた若者たちが移動する中で、アーノルドの目に留まる者が居た。
移動するでもなく、青白い顔で若い騎士たちをじっと見つめている。
確か宿舎で同室になった青年だ。
アーノルドは動こうとしない銀髪に声を掛けた。
「よう。緊張してるのか?」
ゆっくりとこちらを振り返った銀髪の青年は、眩しそうに目を細めた。
ピアスやらペンダントやら、やけに装飾具を着けているのは気になるが、穏やかそうな痩身の男だった。アーノルドよりはいくらか若そうに見える。
(騎士って言うより学者センセーって感じだな)
アーノルドはそう感じた。アーノルドは学校に行ったことがないし、学者先生の知り合いも居ないのだが。
「俺はアーノルド。同じ部屋だよな、行こうぜ」
アーノルドの言葉に彼は奇妙に表情を歪めた。アーノルドにはそれが、弟たちが泣くのを堪えている時の表情に見えた。
「僕はセス。……よろしくお願いします、アーノルド卿」
改まった物言いにアーノルドは噴き出した。
「卿って!」
「……皆さんは騎士なので」
彼の世間知らずな言葉に、アーノルドは思わず鼻で笑ってしまった。
「騎士って言っても名前だけだろ。何を期待してんのか知らねえけど、俺もそうだけど、給料が良いから選んだ力自慢ばっかりだぜ」
「それでも、……人を守る仕事を選んだのでしょう。尊敬します」
アーノルドは頬を掻いた。直球で照れ臭いことを言われてしまった。
「まあ、俺のことは呼び捨てにしろよ。他の奴らも多分同じ反応だと思うけどな」
「分かりました。──アーノルド」
アーノルドは頷いた。二人で宿舎へと向かう。その途中で、話しぶりや雰囲気から彼が魔法使い出身者だと当たりをつけた。
「魔法使いも来てるって聞いたけど、セスが魔法使いなのか?」
「……ええ、そうです」
微妙な間にアーノルドは首を傾げる。
「僕は魔力を持たないので、想像されている魔法使いとは違うかもしれません」
セスの言葉に彼はギョッとした。慌てて周囲を確認し、声を潜める。どうやら周りを歩く騎士たちには聞こえていなかったようだ。
「おい! そんな大事な事こんな場所で言って良いのかよ」
「聞かれても困りません。一緒に戦う人には情報を共有した方が良いですから」
セスの答えにアーノルドは頭を抱えた。
世間知らずの坊ちゃんだろうな、と早くも感じていたが、世間知らず過ぎる。
「あのな、団長が話していただろ。俺たちには色んな身分の奴がいるって。魔法使いってだけでお前を煙たがる奴だっているんだ。弱点を教えてやる必要があるか?」
「僕が嫌われて弱点を突かれるなら、それは仕方のないことです」
アーノルドは意外な気持ちで彼を見た。子供のように素直かと思えば、妙に達観している。
だが率直に言って、アーノルドは既にこの奇妙な青年のことを、心地よく感じていた。
◆
「魔物とは、放置された生物の死体に『瘴気』が入り込んで変化させたものだ」
騎士団に入って最初に教わったことは魔物についてだった。
「彼らに意思はなく、見境なくこちらを攻撃してくる。彼らを止めるには攻撃して再起不能にするしかない」
教官が歩きながら説明する。
『瘴気』とは何なのか。どこから来るのか。謎の多くは解明されていない。ただ、明らかに空気とは違うものが存在していて、魔物が現れる原因だということは分かっている。
スティリア騎士団は暖かい季節、魔物に備えての活動が主だ。
魔物は放置された生物の死体からできる。温かい季節はまず死体を片付けること、死体を生まないことが重視された。
行方不明者の捜索、動物や遭難者の遺体の回収、遭難者を出さない為の街道の整備。
一見すると地味な仕事だ。
「よくそんなに熱心にできるな」
手を動かしながら、アーノルドは隣のセスに話しかける。街道沿いの朽ちた柵を建て直しているところだ。
「魔物の予防は大切ですから」
「もっと騎士らしいことしたいとは思わないのか?」
「騎士らしい?」
「魔物と戦いたい、とか」
セスは逡巡した。
「どうでしょう……。考えたことが無かったな。必要なことですから、魔物に出会ったら戦うでしょうけど」
セスは手を止めてアーノルドを見る。
「……アーノルドは、こういう作業は嫌いですか? 魔物と戦いたいですか?」
アーノルドは暫く考え込んだ。
セスの様子を窺い、躊躇いながら口を開く。
「……子供のころ、親父が俺たちを置いていなくなってさ。お袋は「魔物に食われて死んだ」って俺たちに説明したんだ」
「えっ」
セスは目を見張った。青白い顔をますます青くしている。アーノルドは彼の素直な反応に噴き出してしまった。
「勿論嘘だったけどな。この辺だと、行方を眩ました奴のことを、古い人は「魔物に食われた」って言うらしいぜ」
「えっと、ということは……」
「後から知ったんだけど、親父は流れ者ってやつらしい。要するに捨てられたんだよな」
アーノルドは自身の掌を見つめた。この辺りでは珍しい、煮つめた紅茶のような肌は、異国の血が由来していたのだと、今なら分かる。
「……お袋の嘘を信じてなかったけど、少しだけ、本当に魔物に食われてしまったのかも、って思ってたんだ。でもこうして作業して分かった」
アーノルドは大きく息をついた。
「これだけ騎士団が雪原を捜索してたら、死体でもなんでも出てくるだろ? だからやっぱり親父は俺たちを捨てたってハッキリした。長年の疑問が解消したぜ。魔物を斬ったら腹から親父が出てきたらどうしよう、とか考えたことも有ったんだけどよ、これで心置きなく魔物と戦えるな。……まあ、だから必要な作業だと思うぜ」
悪趣味な言い方をした自覚はある。ただ、本心でもあったので、セスの様子を窺って目を見開いた。
彼は青褪めて口元を押さえている。アーノルドは慌てて彼に駆け寄った。
「セス!」
「……大丈夫です」
ちっとも大丈夫そうに見えない。摩った背中は冷え切っているのに、額に脂汗が浮いていた。
「悪い。変な話聞かせた」
「いいえ、」
セスは自身の胸を押さえた。
アーノルドは空気が揺れるような、奇妙な気配を感じた。眉を顰めて周囲を見回すが、変わった様子はない。
その間にセスは顔を上げた。すっかり平素の様子に戻っている。
「僕は大丈夫。……アーノルド、大事な話を教えてくれてありがとう」
「おう。どーいたしまして。……それよりお前、魔法か何か使ったのか?」
セスは答えあぐねていた。どう説明したらよいのか迷っているようだった。そんな二人に声が掛けられる。
「魔法使いのお嬢ちゃんに騎士の仕事はキツイんじゃねぇの~?」
声の方を向くと、小柄な騎士の青年が、数人の仲間と共に意地の悪い視線を送ってきていた。
「ああ? 何だお前」
アーノルドは声を低くして凄む。体調不良の人間に絡んでくる根性に腹が立つ。
(なんて名前だったかな……)
うっすらと思い出す。同期の一人の筈だ。
彼が反応したことに気を良くしたのか、小柄の騎士は仲間たちとニヤニヤと笑い合っている。こういう輩は最初に分からせなくてはいけない。ぐっと拳に力を籠める。と、彼の腕をセスが引いた。
セスの方を振り返ると、本気で不可解そうな顔をしている。
「アーノルド、僕はこれでも男らしくなった方なんですが」
「いや知らねえよ」
「印象を変えるって難しいですね」
「おいほのぼのしてんじゃねぇ!」
彼は声を張り上げた。悔し気にアーノルドとセスを見比べ、吐き捨てるように叫んだ。
「チクショー! お前なんかどうせソイツの──で──のクセに!」
「はあ?」
下世話な悪態にアーノルドの声が尖る。女性や子供が居たら耳を塞いでしまうだろう。
(箱入りの坊ちゃんには意味が分からないだろうけどよ……)
アーノルドはちらりとセスに視線を遣った。
彼は真顔で口を開いた。
「いえ、僕は抱かれていませんから、──じゃないですよ」
ゲホッゴホッ!
アーノルドは咽た。相対する騎士たちも目を丸くしている。
「おいっ!」
「すみません、下品でしたね」
アーノルドは額を押さえる。シモの話は疎そうなのに、平然と猥語を口にしたセスに衝撃を受ける。何となく抱いていたセスの印象が大きく変わってしまった。
「はぁ~ッ誰だよお前にそんな悪いこと教えたやつは」
思わずぼやいてしまう。セスは何故か不貞腐れたような、奇妙な表情でアーノルドを見つめた。
「何だよ」
「別に……」
セスは騎士たちに顔を向けた。小柄な騎士へ呼びかける。
「マイク。僕が気に入らないのは仕方ないけれど、あんまり品が無いのは勿体ないですよ。ここには女性も務めているんですから」
マイク。そう、確かこの小柄な騎士はマイクと言う名前だった。
「行きましょう。騒ぎすぎて罰を受けては困りますから」
セスはマイクたちを一瞥すると、彼らに背を向けて歩き出した。アーノルドもセスの背中を追う。
セスが騎士たちに向けた視線が、どこか親しみを持っているのを不思議に思いながら。
隊服の色から「青の騎士団」と呼ばれるスティリア騎士団は、山の頂にある城を拠点としている。比較的穏やかな春夏ならば馬車で行くことも可能だ。
スティリア騎士団は身分を問わない。
北部の小さな農村でも、一人の青年が出立しようとしていた。
「にーちゃん、いってらっしゃい!」
「怪我すんなよ、兄貴」
「休みが取れたら帰ってきてよね」
母と弟妹に見送られ、褐色の肌をした青年・アーノルドは北の砦を目指す。
しなやかな長身は戦いに向いていたし、剣を振るのも得意だった。最近特に体力も伸びていた。狩猟を続けていたからか、感覚も鋭くなってきている。
金を稼ぐのに騎士は丁度良かったのだ。こうして青年はスティリア騎士団に入団した。
叙任の日、若者たちはスティリア城の広間に集められた。
簡易的な叙任式を終え、老齢の騎士団長が壇上から語り掛ける。
「お前たちは見ての通り、出自も身分も年齢も様々だ。これは我々の戦う相手が人間ではなく、魔物だからだ」
彼は一度言葉を区切った。
「魔物はこちらの戦力を見て標的を選んだりはしない。目の前の生き物を襲う。そんな相手から市民を守るのが我々の役目だ。俺はお前たちの生まれに関わらず、魔物から市民や仲間、自分の命を守れるように指揮を取るからな。自分がしていることは何のためなのか、努々忘れないように。以上、解散!」
騎士団長が手短に挨拶を終える。浮ついた若者たちが移動する中で、アーノルドの目に留まる者が居た。
移動するでもなく、青白い顔で若い騎士たちをじっと見つめている。
確か宿舎で同室になった青年だ。
アーノルドは動こうとしない銀髪に声を掛けた。
「よう。緊張してるのか?」
ゆっくりとこちらを振り返った銀髪の青年は、眩しそうに目を細めた。
ピアスやらペンダントやら、やけに装飾具を着けているのは気になるが、穏やかそうな痩身の男だった。アーノルドよりはいくらか若そうに見える。
(騎士って言うより学者センセーって感じだな)
アーノルドはそう感じた。アーノルドは学校に行ったことがないし、学者先生の知り合いも居ないのだが。
「俺はアーノルド。同じ部屋だよな、行こうぜ」
アーノルドの言葉に彼は奇妙に表情を歪めた。アーノルドにはそれが、弟たちが泣くのを堪えている時の表情に見えた。
「僕はセス。……よろしくお願いします、アーノルド卿」
改まった物言いにアーノルドは噴き出した。
「卿って!」
「……皆さんは騎士なので」
彼の世間知らずな言葉に、アーノルドは思わず鼻で笑ってしまった。
「騎士って言っても名前だけだろ。何を期待してんのか知らねえけど、俺もそうだけど、給料が良いから選んだ力自慢ばっかりだぜ」
「それでも、……人を守る仕事を選んだのでしょう。尊敬します」
アーノルドは頬を掻いた。直球で照れ臭いことを言われてしまった。
「まあ、俺のことは呼び捨てにしろよ。他の奴らも多分同じ反応だと思うけどな」
「分かりました。──アーノルド」
アーノルドは頷いた。二人で宿舎へと向かう。その途中で、話しぶりや雰囲気から彼が魔法使い出身者だと当たりをつけた。
「魔法使いも来てるって聞いたけど、セスが魔法使いなのか?」
「……ええ、そうです」
微妙な間にアーノルドは首を傾げる。
「僕は魔力を持たないので、想像されている魔法使いとは違うかもしれません」
セスの言葉に彼はギョッとした。慌てて周囲を確認し、声を潜める。どうやら周りを歩く騎士たちには聞こえていなかったようだ。
「おい! そんな大事な事こんな場所で言って良いのかよ」
「聞かれても困りません。一緒に戦う人には情報を共有した方が良いですから」
セスの答えにアーノルドは頭を抱えた。
世間知らずの坊ちゃんだろうな、と早くも感じていたが、世間知らず過ぎる。
「あのな、団長が話していただろ。俺たちには色んな身分の奴がいるって。魔法使いってだけでお前を煙たがる奴だっているんだ。弱点を教えてやる必要があるか?」
「僕が嫌われて弱点を突かれるなら、それは仕方のないことです」
アーノルドは意外な気持ちで彼を見た。子供のように素直かと思えば、妙に達観している。
だが率直に言って、アーノルドは既にこの奇妙な青年のことを、心地よく感じていた。
◆
「魔物とは、放置された生物の死体に『瘴気』が入り込んで変化させたものだ」
騎士団に入って最初に教わったことは魔物についてだった。
「彼らに意思はなく、見境なくこちらを攻撃してくる。彼らを止めるには攻撃して再起不能にするしかない」
教官が歩きながら説明する。
『瘴気』とは何なのか。どこから来るのか。謎の多くは解明されていない。ただ、明らかに空気とは違うものが存在していて、魔物が現れる原因だということは分かっている。
スティリア騎士団は暖かい季節、魔物に備えての活動が主だ。
魔物は放置された生物の死体からできる。温かい季節はまず死体を片付けること、死体を生まないことが重視された。
行方不明者の捜索、動物や遭難者の遺体の回収、遭難者を出さない為の街道の整備。
一見すると地味な仕事だ。
「よくそんなに熱心にできるな」
手を動かしながら、アーノルドは隣のセスに話しかける。街道沿いの朽ちた柵を建て直しているところだ。
「魔物の予防は大切ですから」
「もっと騎士らしいことしたいとは思わないのか?」
「騎士らしい?」
「魔物と戦いたい、とか」
セスは逡巡した。
「どうでしょう……。考えたことが無かったな。必要なことですから、魔物に出会ったら戦うでしょうけど」
セスは手を止めてアーノルドを見る。
「……アーノルドは、こういう作業は嫌いですか? 魔物と戦いたいですか?」
アーノルドは暫く考え込んだ。
セスの様子を窺い、躊躇いながら口を開く。
「……子供のころ、親父が俺たちを置いていなくなってさ。お袋は「魔物に食われて死んだ」って俺たちに説明したんだ」
「えっ」
セスは目を見張った。青白い顔をますます青くしている。アーノルドは彼の素直な反応に噴き出してしまった。
「勿論嘘だったけどな。この辺だと、行方を眩ました奴のことを、古い人は「魔物に食われた」って言うらしいぜ」
「えっと、ということは……」
「後から知ったんだけど、親父は流れ者ってやつらしい。要するに捨てられたんだよな」
アーノルドは自身の掌を見つめた。この辺りでは珍しい、煮つめた紅茶のような肌は、異国の血が由来していたのだと、今なら分かる。
「……お袋の嘘を信じてなかったけど、少しだけ、本当に魔物に食われてしまったのかも、って思ってたんだ。でもこうして作業して分かった」
アーノルドは大きく息をついた。
「これだけ騎士団が雪原を捜索してたら、死体でもなんでも出てくるだろ? だからやっぱり親父は俺たちを捨てたってハッキリした。長年の疑問が解消したぜ。魔物を斬ったら腹から親父が出てきたらどうしよう、とか考えたことも有ったんだけどよ、これで心置きなく魔物と戦えるな。……まあ、だから必要な作業だと思うぜ」
悪趣味な言い方をした自覚はある。ただ、本心でもあったので、セスの様子を窺って目を見開いた。
彼は青褪めて口元を押さえている。アーノルドは慌てて彼に駆け寄った。
「セス!」
「……大丈夫です」
ちっとも大丈夫そうに見えない。摩った背中は冷え切っているのに、額に脂汗が浮いていた。
「悪い。変な話聞かせた」
「いいえ、」
セスは自身の胸を押さえた。
アーノルドは空気が揺れるような、奇妙な気配を感じた。眉を顰めて周囲を見回すが、変わった様子はない。
その間にセスは顔を上げた。すっかり平素の様子に戻っている。
「僕は大丈夫。……アーノルド、大事な話を教えてくれてありがとう」
「おう。どーいたしまして。……それよりお前、魔法か何か使ったのか?」
セスは答えあぐねていた。どう説明したらよいのか迷っているようだった。そんな二人に声が掛けられる。
「魔法使いのお嬢ちゃんに騎士の仕事はキツイんじゃねぇの~?」
声の方を向くと、小柄な騎士の青年が、数人の仲間と共に意地の悪い視線を送ってきていた。
「ああ? 何だお前」
アーノルドは声を低くして凄む。体調不良の人間に絡んでくる根性に腹が立つ。
(なんて名前だったかな……)
うっすらと思い出す。同期の一人の筈だ。
彼が反応したことに気を良くしたのか、小柄の騎士は仲間たちとニヤニヤと笑い合っている。こういう輩は最初に分からせなくてはいけない。ぐっと拳に力を籠める。と、彼の腕をセスが引いた。
セスの方を振り返ると、本気で不可解そうな顔をしている。
「アーノルド、僕はこれでも男らしくなった方なんですが」
「いや知らねえよ」
「印象を変えるって難しいですね」
「おいほのぼのしてんじゃねぇ!」
彼は声を張り上げた。悔し気にアーノルドとセスを見比べ、吐き捨てるように叫んだ。
「チクショー! お前なんかどうせソイツの──で──のクセに!」
「はあ?」
下世話な悪態にアーノルドの声が尖る。女性や子供が居たら耳を塞いでしまうだろう。
(箱入りの坊ちゃんには意味が分からないだろうけどよ……)
アーノルドはちらりとセスに視線を遣った。
彼は真顔で口を開いた。
「いえ、僕は抱かれていませんから、──じゃないですよ」
ゲホッゴホッ!
アーノルドは咽た。相対する騎士たちも目を丸くしている。
「おいっ!」
「すみません、下品でしたね」
アーノルドは額を押さえる。シモの話は疎そうなのに、平然と猥語を口にしたセスに衝撃を受ける。何となく抱いていたセスの印象が大きく変わってしまった。
「はぁ~ッ誰だよお前にそんな悪いこと教えたやつは」
思わずぼやいてしまう。セスは何故か不貞腐れたような、奇妙な表情でアーノルドを見つめた。
「何だよ」
「別に……」
セスは騎士たちに顔を向けた。小柄な騎士へ呼びかける。
「マイク。僕が気に入らないのは仕方ないけれど、あんまり品が無いのは勿体ないですよ。ここには女性も務めているんですから」
マイク。そう、確かこの小柄な騎士はマイクと言う名前だった。
「行きましょう。騒ぎすぎて罰を受けては困りますから」
セスはマイクたちを一瞥すると、彼らに背を向けて歩き出した。アーノルドもセスの背中を追う。
セスが騎士たちに向けた視線が、どこか親しみを持っているのを不思議に思いながら。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
お気に入り・感想、宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる