届け、紙飛行機

book bear

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彼女の元へ

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線香の匂いと献花の香りが仄かに香る。
落ち着く匂いなのだが、今はそんな気分にはなれなかった。  

どうしてこうなってしまったのだろうか、二人は結婚して幸せな生活を送るだろうと思っていた。

なのに、どうして死んでしまったのか。

遺書もなかったのでどんな状況でこんな結末を迎えたのかは全く知る由もなく、ただもうこの世にいないという事実だけを突きつけられ、そしてその悲しみをどこへぶつければいいのか、どうやって乗り越えたらいいのかわからない。

ただこうしてお墓参りに来ることくらいしかできなかった。

「何も気づいてあげられなくてごめんね」

かけてあげれる言葉はそれしか出てこなかった。

二人の異変に気づいてあげていればなにか力になれただろう。

いや、絶対に何をしてでも助けてあげたかった。

できることなら今自分の命と引き換えてでもいい。

生きてほしかった。
これから先にあったであろう幸せを掴んでほしかった。

けれど、もう叶うことはない。

涙を拭いながら手を合わせる。

石碑には熊本家と書かれている。

どうか、二人共あの世では幸せになってほしいと言う思いを込めて、手紙を添える。

母から娘である杏里と志拓へ向けての最後の手紙。

もう一度だけ手を合わせてその場をあとにした。


----

春風に吹かれ献花の花びらが散っていく。

時折墓所の外に咲いている桜の花びらが風にのって熊本家の墓石にも舞い降りてくる。

しかし、今日は桜の花びらだけではなかった。

風に吹かれて飛ばされた紙が熊本家の墓へと転がり込んできた。

紙はボロボロになっていたが紙飛行機の名残があった。

所々破れた箇所から文字が見える。

そこには"今までありがとう"と書かれていた。

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