さよならの代わりに

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目覚め

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奥村総司は暗闇の中、1人彷徨っていた。

夜の森の様な暗闇ではなく、黒一色でそれ以外は何も見えない本当の意味での闇の中に居た。

ここはどこなのか、自分が誰なのか、何をしていたのか、全く思い出すことが出来ないでいた。
 

ただ、早くここから抜け出したいという気持ちが、足を前へ運ばせていた。

けれど、歩いても歩いても景色は変わらず、前へ進んでいるのかもわからない。

後ろを振り向いても闇一色で、どれくらい進んできたのかもわからない。

出口のない闇に包まれた総司は気が狂いそうになり始めていた。

なんでこんなことになっているんだ?

何があった?

それに俺は誰だ?


思い出そうとするが、何も頭に浮かばない。
頭の中も真っ暗な闇に包まれていて、自分はもしかして闇そのものなのではないか?とさえ思えてきた。

しかし、その考えはどこからかぼんやりと聞こえてくる声によってかき消された。

-総ちゃん!-

総ちゃん?

俺の事なのだろうか、名前があると言うことは自分は闇ではなく、命のある生き物なのだろう。

けれど、生き物であった時の記憶はない。

犬だったのか、猫だったのか、それとも植物だったのか何も覚えていなかった。

自分が何者なのか、その答えを知るためにも声の聞こえる方へと進んでいく。

-総ちゃん!しっかり!-

声はさっきよりもはっきりと聞こえる。
確実に何処かへ向かっている事が実感できる事に、少し安心感を感じた、このまま声の方へ行けば、闇から抜け出せる、そんな希望が沸き、総司は走り出した。
走っているのに風を切ることもなく、ただ足が動いているだけで、前に進んでいる感覚が全くない。
近づいてくる声だけが進んでいることを感じさせてくれている。

今はこの声だけが道標だった。

-総ちゃん!わかる?私のことわかる?-

やがて前のほうが少しづつ明るくなってきた。
どれだけこの闇の中を彷徨っていたのかわからないが、久しぶりに光を感じたような気がする。

総司は光が差す方へただひたすら走り続けた。

------------------------------------------------------


ゆっくりと目を開くと、見覚えのない女性二人と男性一人に囲まれていた。


「総ちゃん!気がついたのね!」

そう言って女性が俺の手を強く握りしめていた。
20代後半くらいだろうか?黒のボブヘアの似合う奇麗な人だ。
誰だろう?
そして、ここはどこだろう?
そう思い辺りを見回した。
さっきとは打って変わって、白一色に囲まれた部屋に居た。

ベッド、布団、カーテン、壁、どれも真っ白だった。

そして、駆けつけてきた中年の男も白衣に身を包んでいた。

唯一色があったのは、窓から見えた雲一つない青空だけだ。

それは青空の絵画の入った額縁のようだった。

「奥村さん!わかりますか?」

白衣の男が総司に声をかける。

わかる?何が?
なんの事を聞かれているのかわからずに、ただ白衣の男をぼんやりと見ることしかできなかった。

すると白衣の男は、俺を囲っている人達にこう言った。

「意識が戻ったばかりで混乱しているのでしょう、脳波に異常はありませんでしたから、しばらく様子を見ましょう」

そう言って白衣の男は去っていった。

「総司、私のことわかる?」

声をかけてきたのは先程の女性とは別の50代位の女性だった。

次々に知らない人から声をかけられて、精神的にかなり疲労を感じ始めていた。

何なんだ、せめて、知っている人たちに会いたい、そう言えば俺の家族は誰だろう?顔も思い出せない。

思い出そうとしても、またさっきと同じ闇しか浮かばない。

まるで今、人生が始まったばかりで思い出す記憶が無いような、そんな感覚に囚われそうになった。

しかし、言葉が分かるということは、生まれたばかりというわけではないはずだ。

記憶はきっと暗闇の中にあるのだろう、何がきっかけで記憶が闇に包まれたのかわからないが、きっと記憶はあるはずなのだ。

「お母さんよ、覚えてない?」

とても不安そうな表情で俺の顔を見つめていた。
この人が俺の母親なのか?


「お母さん?」

「そうよ、わかる?」

思い出すために記憶を辿ろうにも、記憶の道が見えないため、どうしようもなかった。

だから、謝ることしかできなかった。


本当に母親なのだとしたら、息子に忘れ去られる事がどんなに辛いことなのか、想像すると心が痛んだ。

それに俺の手を握りしめているこの女性も、恋人なのかわからないが、ショックを受ける一人なのだろうと思い、申し訳ない気持ちになった。




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