さよならの代わりに

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退院

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朝起きると、白衣を着た先生が総司の元へやって来た。

「体調はどうですか?」

太った丸い顔をほころばせて聞いてきた。

「特に問題ないです」

記憶以外に関しては健康体そのものだった。
だから、ずっとベットに寝ているのが暇で仕方なかった。

「そうですか、じゃあもう一度だけ脳波を撮って異常が無ければ明日にでも退院しましょうか」

そう言って検査のスケジュールの説明をしたあと、先生は部屋を出ていった。

それと入れ替わりで両親が部屋へ入ってきた。
父親の両手には膨れ上がった買い物袋がぶら下がっていた。

「ほら、入院食だけじゃ足りないだろうと思って色々持ってきたぞ」

相変わらず無愛想に父親は言った。
けれど、自分の事を思ってくれているというのは十分に伝わった。

俺は両親の愛情に嬉しくなった。

「ありがとう、せっかく沢山買ってきてくれたのに今日検査して異常が無かったら明日退院できるみたいなんだ」

総司は申し訳ないような、嬉しいよなそんな表情で買い物袋を見ながら言った。

すると父親はそうかと一言だけ言うと椅子に腰掛けた。
 

「そういえば、明日は葉月ちゃんが来てくれるみたいよ、退院できるならそのまま手続き済ませて一緒に帰ったら?」


「葉月って?」

「あなたの奥さんよ」

総司は思った。
もしかして、昨日手を握ってくれていた人が妻なのだろうか?

でも、昨日父親はそんな人は居なかったと言っていた。
だったら昨日見たのは誰だったのか。
その事が総司の中でひっかかっていた。

昨日確かに居たと思ったのだがあの時は混乱していたし気のせいなのだろうか?

この時はまだ、そんなふうにぼんやりと思っていた。


「昨日の昼間、総司が昼寝しているときに来てたみたいよ、私達と入れ違いだったから会えなかったけどね」

「昨日きてくれてたんだ」

自分の事を心配してくれる人が居ると思うと心か暖かくなるのを感じた。

妻はどんな人なのだろうか、美人だろうか、優しいだろうか、もしかしたら気が強くて尻にしかれてしまうかもしれない、そんなことを思いながら、窓から見える空をぼんやりと眺めていた。

------------------------------------------------------

-翌日-

検査の結果も問題なく、無事退院となった。

妻が迎えに来るまで暇だったので退院時間を昼にしてもらい、余っていたテレビカードでテレビを見ていた。

どのチャンネルも地震についての報道がされていた。

映し出されている映像を見て、総司は言葉が出なかった。

体感した筈なのに覚えていない。
知らない間に街は変わり果てた姿になっていた。

今映像に写っているのは商業ビルの崩れ去った映像で、リポーターが必死に現場の状況を解説していた。
リポーターも大分混乱しているのだろうか、かなり噛みながらのリポートになっていた。

そして、商業ビルの地下は瓦礫で埋め尽くされていて、人が何人も生き埋めになっているようだ。

このビルは休日になると大勢の人が集まる場所だから巻き込まれた人は多いのではないだろうか。

ブランドショップや食料品売り場など、あらゆるものが揃っているから便利で利用客が多い。

そんな街の住人に愛されていたビルが、跡形もなく崩れ去っていた。

リポーターによると耐震設備もしっかりしていたビルらしいが崩れてしまっている、今回の地震はそれほどまでに、強烈だったのだ。

日本中が絶望感を感じていただろう、そして総司もその一人となった。

この国はどうなるのだろう、復興するのだろうか、俺の記憶同様、日本中も先の見えない暗闇へと包まれてしまった。

総司はあまりの出来事に思考が停止し、テレビの少し下をぼーっと見つめていた。

「どうしたの?ぼーっとして」

と不意に声をかけられた総司は、はっと顔を上げた。
放心状態になっていることにも気づかなかった。

声の方へ視線を向けると、そこには昨日手を握っていた女性が立っていた。

けれど総司は一瞬だれが気づかなかった。
昨日とは髪型も、雰囲気も何処か違っていたから別人だと思ったのだ。

今は黒髪のロングのストレートを後ろで団子にしていた。

雰囲気は違えど、顔は同じだ、やはり昨日のは勘違いではなかったのではないだろうか?


「いや、ちょっと地震で大変なことになってて驚いてしまって」

「そうだよね、起きてすぐこんな状態だと驚くよね」

女性はテレビをみつめながら呟くように言った。

「あ、そうだ!総司さん記憶ないんだよね?私、総司さんの妻の奥村葉月です。よろしくね」

そう言って葉月は手を伸ばして握手を求めてきた、総司は葉月に見惚れながら、よろしくと握手を返した。

「あ、そういえばさ、昨日の朝お見舞いに来てくれた?」

「昨日の朝?いや、昼間しか来てないよ?」

葉月はキョトンとした表情で言った。

「ほんと?俺の気のせいかな?葉月さんにそっくりだったんだ、両親に聞いても居なかったって言うし・・・・それに、髪型もボブで雰囲気が違っていたし・・・・」

葉月は一瞬、僅かだが驚いたような表情になり、それを隠すように

「もしかして、昔の私が総司さんの記憶から幻覚として現れた・・・・とか?」

と言った。
葉月の言うように、俺の記憶に居る昔の葉月がみえたのだろうか?

頭を強く打ったんだ、幻覚が見えてもおかしくないのかもしれないと納得したが、葉月が何かを隠すような素振りが引っかかった。

けれど、気にする程でもないだろうと思い、考えるのを辞めた。


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