さよならの代わりに

book bear

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帰宅

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葉月の運転で家に向かう途中、あちこちで崩れた家があった。

きっと家の持ち主は避難所で生活しているのだろう。
だから、街には人がほとんど見当たらなかった。

ふと自分の家は無事なのだろうかと疑問に思った。

「そういえばさ、家は大丈夫だったの?」

「うん、家の中は散らかってるけど無事だよ、それに総司さんがこんなときの為に、備えていた食料品と水もあるから生活はなんとかなると思う」

葉月は前方を見ながら総司に言った。
俺は結構先を見据えて行動するタイプだったのだろうか?
我ながらよくやったと自分を褒めたい気持ちになった。

「いつもなら、さすが俺!とか言うのに」

ふふっと笑いながら葉月はこちらをちらっと見て言った。

「え、俺ってお調子者な感じなの?」

「そうだね、こんなに大人しくしてるのは初めて見た」

そう言われて、以前とは違う自分になってしまったんだと少し寂しく思った。

それに、葉月や両親の方がきっと、もっと寂しい思いをしているんじゃないだろうか?

必ず記憶を取り戻して、みんなの元へ本当の自分になって帰ってこなければならないと強く思った。

「ごめんな、記憶が無くて辛い思いをさせてしまってると思うけど、記憶を取り戻す努力はするから待ってて欲しい」

葉月は暫く黙っていた。
そして、総司が想像していなかった言葉が帰ってきた。


「思い出さなくても大丈夫だよ、これから新しい関係を築いていけばいいんだよ、だから昔のことはもう忘れよう」

総司は本当にそれでいいのだろうか?と思った。
自分が葉月の立場だったらきっと耐えられないと思った。

大切な人との大切な思い出を捨てて、新しい関係を再構築する。

記憶のない俺でもどこか寂しい気持ちになるのに、葉月は寂しくないのだろうか?。

けれど、葉月の表情に寂しさはなく、これから先の人生が楽しみで仕方ないと言った様子を見て、総司の中で一つの仮設が建てられた。

もしかしたら、俺はとんでもないクズだった可能性がある。

葉月や両親を苦しめ、手のつけられない旦那だったのだろうか?

さっきも、俺はお調子者だったと言うのは嘘なのかもしれない、記憶があった俺から遠ざけるために嘘をついたのかもしれない。
もしそうなら、昔の俺なんて帰ってこない方がいいに決まっている。

だから、新しく幸せな人生を歩みたいと葉月は思っているのかもしれない、だから俺に記憶を取り戻して欲しくないのかもしれない。



でも、それでいいのだろうか?本当に俺は記憶を取り戻さなくていいのだろうか?

記憶がない今、簡単に答えは出なかった。

------------------------------------------------------

病院を出て、一時間程して家についた。
この辺はあまり被害は出ていないようだった。

とはいえ、普段に比べたらそれは悲惨な光景と言う事には変わりなかった。

電柱は折れ、崩れた家もあった、二次災害で火災が起きたのだろうか、焦げている建物もある。

実は俺は死んでいてここは地獄なのではないだろうかとも思ってしまうほどだ。

家が無事だったのは不幸中の幸いだ、そう思えたのは、家に入るまでの僅かな時間だけだった。

車から降り、葉月の後をついて行った。

前を歩く葉月はかばんを漁って何かを探していた、おそらく家の鍵だろうと総司はぼんやりと考えていた。

予想通り、家の鍵を取り出した葉月は玄関前で鍵を挿し、そして捻った。

「あれ?鍵が開いてる、出てくるときに確実に締めたはずなのに」

普段ならどうせ、締め忘れただけだろう、何してんだよと言ったかもしれない。

けれど、総司はこのとき嫌な予感がした。
先日病室のテレビを見ていたときに、震災の時は犯罪件数が跳ね上がると報道されていた。

その犯罪の中でも空き巣が多いらしい、わざわざ被災地の外からくる人だって居る。

「葉月、待って」

もしかしたら今、家の中に空き巣が居るかもしれない、刃物を持っている可能性だってある。

ここは慎重に行かなければと思い、総司が先に家に入る事にした。

恐る恐る扉を引く。

ガチャっという音が鳴った。中に人が居ればきっと今頃焦っているのではないか?
焦って襲ってこないだろうか?と思いながらゆっくりと扉を開いた。

すぐに逃げれるように、扉は開いたままにして、奥へと進む。

廊下を抜けた先がおそらくリビングだろう、手前の部屋から確認していく。

正直かなり怖かった、相手も息を潜めて襲ってくるかもしれない。

廊下の部屋はとりあえず無事だった。
部屋の中は散らかっていたが、震災のせいなのか空き巣のせいなのか全くわからなかった。

そのおかげで、ちょっとだけ心が紛れた。
実は、本当に鍵を締め忘れただけで、散らかっているのは地震のせいなのではないかとそう思えてきた。

そして、迷わずリビングの扉に手をかけ、開いた。

ほら、誰も居ない、総司はほっとして玄関前にいる葉月に声をかけようと、玄関を振り返った。

すると玄関前に居る葉月の表情が、驚きの表情になり、こちらを指差していた。

え?と思ったときには床に倒されていた。
やばい!

総司は迷わず玄関に居る葉月に言った。

「葉月!逃げろ!」

総司を押し倒した何者かは玄関へ一直線に走っていった。

総司は立ち上がり、すぐに後を追いかける。

しかし、男の足は早く、追いつけなかった。
男は車に乗り、そのまま逃走していった。

玄関先で腰を抜かしている葉月の元へ駆け寄り、無事を確認した。

もう、ここは本当に地獄なのかもしれない、自分の身は自分で守らなければだめなのだと思い知らされた。

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