コーヒーに魅せられて

book bear

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儚い想い

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あの日以来、私はなんとなく店に行きづらくなった。
私のせいで店主は怪我をしてしまったと言う事もだが、私は正直店主に惚れてしまっていた。

あくまでも店主はお客様として私を助けてくれたのはわかっている。

わかっていても心が好きと思ってしまったら、もう気持ちに逆らうことはできない。

店に行って顔を見たいと思う気持ちと、私のせいで怪我させてしまった罪悪感から合わせる顔がないという気持ちがせめぎ合っていた。

結局私はもう一週間店に行ってないままずっと悩んでいた。

更に一週間が立った時、私は人事部に呼ばれ辞令を言い渡された。

一ヶ月後に転勤が決まった。

あの店に行けるのもあと一月、けれど私の中で葛藤は続き、店に行く決断が出来ずにいた。

このままもう転勤してしまった方がいいのかもしれないと思う気持ちと、それで後悔はしないのかという気持ちがぐるぐる頭の中を巡っていた。

帰宅する時もずっと考えていた。
気づいたら店の前に来ていた、私の家はこの店を超えた先にある。

私は店の前で悩んだ。
すると背後から声がした。
「お久しぶりです、良かったら入ってください」
聞き慣れた声の方に向くとそこには店主が居た。
その横に居る子供と手を繋いでいた。

「今日は妻に店を任せて息子の迎えに行ってたんですよ」

店主は既婚者だったのか、それに子供も居る。
私はなんて馬鹿なんだと思った。

勝手に独身だと思っていて、惚れてしまい一人で悩んでいた。

私がこの店に行きたいと思うのは今となっては店主に会いたいと思う恋心からだ。

結婚しているなら話は簡単、もうこの店には行けない。

幸せな家庭の邪魔をしてはいけない。

「すいません、今日は・・・」

店主は残念そうにそうですか、また来てくださいねと言うと息子の手を引いて店に入っていった。

その後ろ姿は幸せに満ちていた。

帰ると気が抜けて、抑えていた感情が溢れ出してきた。

私は悲しさに身を任せ泣けるだけ泣いた。

失恋はとても辛い、今までのそばに居てくれてた人が居なくなり孤独になった気分だ。

それに心に穴が空いたような感じがする。

きっと私の心の一部は店主に持っていかれたからこんな感覚になるんだろうな。

恋愛って心を相手にあげることなんだと思った。

辛いけど店主にならあげてもいいと思えた。

名前も知らない人なのに。

それに私はもう前とは違う。
悲しさや辛さを受け入れ、向き合うことを教えてもらった。
だから私はこの辛さを受け入れよう。
そしてまた成長すればいい。
この先きっといい人に巡り会えるはずだから。




--------------------------------------------------


一ヶ月後



私は新しい職場に歓迎され、とてもいいスタートを切れた。

初日に中のいい人も出来たし順調だ。


帰りに喫茶店に行こうよと誘われて行くことなった。

そこは小さな店で、おしゃれな雰囲気の店だった。
bgmも店の雰囲気を引き立たせていて、何より珈琲の香りがとても良い。


メニューをみるとおまかせブレンドがあった。

あの店を思い出していた。

元気にしているだろうか、またあの落ち着くような珈琲を飲みたいなと思った。

ここの店主のおまかせブレンドはどんな味なのだろう。

お客に寄り添った味なのだろうか、それとも店主の個性のある味なのか、気になり私はおまかせブレンドを注文した。


運ばれてきた珈琲はとてもいい香りを湯気に乗せてたち登らせていた。


そして、一口飲み、その味に笑顔がこぼれてしまった。
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みんなの感想(1件)

2020.05.05 ユーザー名の登録がありません

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2020.05.05 book bear

感想ありがとうございます!
今後ももっといいものを書いて行こうと思いますのでよろしくお願いします!

解除

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