旅行記

井津 馨

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富士山

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 あの後、旅館に帰った私たちは旅館を経営している夫妻と話した。

 " 夜明け前に河口湖に行ってごらん。
   日にもよるけれど、波が立っていなければ綺麗な逆さ富士が見られるよ。"
 と聞いて、必ず明日行こうと連れと約束して眠りについた。

 


 翌日、起きたはいいが外は真っ暗。しかも季節は冬から春に移行している最中で、かなり寒かった。
 「本当に行く?」「行かなきゃ来た意味無いだろ、せっかくだから行こう。」のやり取りを何回かして、
 やっと身体を動かし始める。

 朝4時前。
 辺りは街灯も無く真っ暗で、フクロウなのか獣の鳴き声が頻繁に暗闇から聞こえてくる。
 何とか教えてくれた橋に辿り着き、夜が明けていくのを待つ。

 観光客らしき人々が歩いたり、走ったりして集まってくる。
 日本人と同人数くらいで外国人がいた。
 一眼レフ用三脚を持参している人、スマホで必死に撮ろうと試む人、色んな人がいた。





 夜明けが始まり、綺麗に富士山が照らされていく。
 徐々に富士山に積もった雪が太陽の光で赤く染められ、水面に富士山が反射していく。
 まさに旅館の夫妻が教えてくれた逆さ富士、そのものだった。


 この世で見たものの中で一番綺麗であった。
 連れと合流し、複数枚写真を撮る。綺麗な景色と尋常でない寒さに言葉が出てこなかった。


 橋の上からも撮ろうと言ったが、余り綺麗ではなかった為やめた。
 目に焼き付けていると、何人かが後ろを三脚を持って走っていく。
 寝坊したのだろうか、朝早いから分かるぞと心の中で共感しながらそれぞれを見守る。




 目に焼き付けた後は、近くの広場でココアを一杯。
 私の好きな曲をかけて、人がいない広場で連れと一緒に富士山を眺める。
 寒かったが、幸せな時間だった。



 もし将来何処かに移住することになったら、迷わず山梨県を選びたい。
 それほど人も景色も良い所であった。
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