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レースのリボン
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手紙がきて、レティセラは、アルバートに期限よりも早く、帰らなくてはいけなくなった事を伝えると、彼もこの急な話にとても驚いていた。
その時に、2月になったら、海をわたり嫁ぐことになっている事も、アルバートにだけは明かす事にした。
「残念ですね。オズヴァルド様に話してみたら、お力になって頂けるかもしれませんよ?」
レティセラは、首をふっていた。
「いいえ、そんな事、頼めません。ただでさえ父が無理言って、ここにいさせてもらっているのですから」
「ですが、レティセラ……、レンヴラント様には、お伝えしておくべき、なのではないですか?」
「はい……。そうするべき、だと思います」
最初は最悪で、意地悪だったけど、この一年、彼には良くしてもらった。わたしの言った事に「誇らしい」と言ってくれた事が嬉しかった。
そう思って伝えることを決心してから、ようやくレンヴラントに呼び出されたのは、その、5日あとの事だった。
部屋に入るとレンヴラントは机に座っており、彼の目の前にレースのリボンで結ばれた小さな箱があった。
「2月って言ったよな?」
「そう、ですね」
「ずっと、いる事は出来ないのか?」
そう言われて、『ずっと、いたい』と言ってしまいそうになった。なのに、レティセラはにっこりと笑って首をふった。
「親から言われているんです。一年間だけだって」
自分よりも優先する、とレンヴラントは腹がたった。小さな箱をゴミ箱に投げすて、背中を向けた。
「レンヴラント様、箱の中身が可愛そうです」
「受け取ってもらえないなら、意味なんてない!」
ゴミ箱に捨てられた箱からレースのリボンだけをとる。
「これだけ。頂いてもいいですか?」
「………好きにしろ」
レティセラはリボンをネックレスに結い、後ろを向いたまま黙るレンヴラントに声をかけた。
「あの。お世話になりました」
「…………」
レンヴラントの背中にお辞儀をすると、レティセラは部屋を出て行った。
その2日後。
誰も見送りにこない屋敷の前で、レティセラは馬車に乗り込んだ。
見送りにはアルバート、ただ一人。
それは、私が望んだことだった。
「レンヴラント様には、伝えたのですよね?」
「……はい」
彼にもらったリボンで髪を束ねて、馬車の中から、レティセラは相変わらず笑顔をはりつけていた。
「わたしだけが見送りなんて、寂しいですね。言えばみんなきっときていますよ」
「いいんです。この方が去りやすいので」
レンヴラントは怒っていた、その証拠に呼び出された日から見かけることもなかった。
「ただ、一年いただけのしがない使用人、がいなくなるだけなんですから」
実際、こんな馬車を用意してくれるだけでもありがたい。本当に、感謝をしていた。
「アルバートさんも、体に気をつけて。それと、レンヴラント様を、お願いします」
惜しい。
彼女が乗った馬車が、小さくなって行くのを見て、アルバートは思っていた。
一週間。
一週間だ。レティセラと話していない。姿も見ていない。
レンヴラントは屋敷を歩き回ったり、外に出てレティセラの姿を探していた。
彼女の声が聞きたい。
でも、そんな事言えなかった。偶然をよそおえば、いつでも誤魔化せるから。
どんだけ探しても、レティセラはおらず、レンヴラントは我慢ができなくなって、アルバートに聞くことにした。
すると、アルバートはとても驚いて目を丸くしていた。
「聞いたのではないのですか?」
「聞いたって、何を、だ?」
アルバートが言った事に、レンヴラントが勢いよく立ち上がり、椅子が音を立てて倒れる。
「なんだって!! そんな……5日も前に辞めただなんて! 期限は2月だったはずだろう?!」
「家から、連絡が来たのです。時期を早めるようにと」
「そんな、あいつは家に帰っても、べつに用事なんてないだろう?」
「……いいえ。いいえ。違うんです。彼女は確かに、あなたをロウラクして来るように、言われていたのだそうです」
そんなことは知ってる。でも、そんな素振りは全くなかったんだ。
「でも、出来なかった場合………」
「どうした、早く言え!」
レンヴラントは嫌な予感しかしなかった。
「彼女は、他のところに嫁ぐことが決まっていたんだそうです……」
目を見開く。
彼女が、他の誰かのものになる。全身に震えが走った。
「船に乗るのは、ちょうど今日」
出港は2時。
レンヴラントは時計も見ず、走り出していた。
その時に、2月になったら、海をわたり嫁ぐことになっている事も、アルバートにだけは明かす事にした。
「残念ですね。オズヴァルド様に話してみたら、お力になって頂けるかもしれませんよ?」
レティセラは、首をふっていた。
「いいえ、そんな事、頼めません。ただでさえ父が無理言って、ここにいさせてもらっているのですから」
「ですが、レティセラ……、レンヴラント様には、お伝えしておくべき、なのではないですか?」
「はい……。そうするべき、だと思います」
最初は最悪で、意地悪だったけど、この一年、彼には良くしてもらった。わたしの言った事に「誇らしい」と言ってくれた事が嬉しかった。
そう思って伝えることを決心してから、ようやくレンヴラントに呼び出されたのは、その、5日あとの事だった。
部屋に入るとレンヴラントは机に座っており、彼の目の前にレースのリボンで結ばれた小さな箱があった。
「2月って言ったよな?」
「そう、ですね」
「ずっと、いる事は出来ないのか?」
そう言われて、『ずっと、いたい』と言ってしまいそうになった。なのに、レティセラはにっこりと笑って首をふった。
「親から言われているんです。一年間だけだって」
自分よりも優先する、とレンヴラントは腹がたった。小さな箱をゴミ箱に投げすて、背中を向けた。
「レンヴラント様、箱の中身が可愛そうです」
「受け取ってもらえないなら、意味なんてない!」
ゴミ箱に捨てられた箱からレースのリボンだけをとる。
「これだけ。頂いてもいいですか?」
「………好きにしろ」
レティセラはリボンをネックレスに結い、後ろを向いたまま黙るレンヴラントに声をかけた。
「あの。お世話になりました」
「…………」
レンヴラントの背中にお辞儀をすると、レティセラは部屋を出て行った。
その2日後。
誰も見送りにこない屋敷の前で、レティセラは馬車に乗り込んだ。
見送りにはアルバート、ただ一人。
それは、私が望んだことだった。
「レンヴラント様には、伝えたのですよね?」
「……はい」
彼にもらったリボンで髪を束ねて、馬車の中から、レティセラは相変わらず笑顔をはりつけていた。
「わたしだけが見送りなんて、寂しいですね。言えばみんなきっときていますよ」
「いいんです。この方が去りやすいので」
レンヴラントは怒っていた、その証拠に呼び出された日から見かけることもなかった。
「ただ、一年いただけのしがない使用人、がいなくなるだけなんですから」
実際、こんな馬車を用意してくれるだけでもありがたい。本当に、感謝をしていた。
「アルバートさんも、体に気をつけて。それと、レンヴラント様を、お願いします」
惜しい。
彼女が乗った馬車が、小さくなって行くのを見て、アルバートは思っていた。
一週間。
一週間だ。レティセラと話していない。姿も見ていない。
レンヴラントは屋敷を歩き回ったり、外に出てレティセラの姿を探していた。
彼女の声が聞きたい。
でも、そんな事言えなかった。偶然をよそおえば、いつでも誤魔化せるから。
どんだけ探しても、レティセラはおらず、レンヴラントは我慢ができなくなって、アルバートに聞くことにした。
すると、アルバートはとても驚いて目を丸くしていた。
「聞いたのではないのですか?」
「聞いたって、何を、だ?」
アルバートが言った事に、レンヴラントが勢いよく立ち上がり、椅子が音を立てて倒れる。
「なんだって!! そんな……5日も前に辞めただなんて! 期限は2月だったはずだろう?!」
「家から、連絡が来たのです。時期を早めるようにと」
「そんな、あいつは家に帰っても、べつに用事なんてないだろう?」
「……いいえ。いいえ。違うんです。彼女は確かに、あなたをロウラクして来るように、言われていたのだそうです」
そんなことは知ってる。でも、そんな素振りは全くなかったんだ。
「でも、出来なかった場合………」
「どうした、早く言え!」
レンヴラントは嫌な予感しかしなかった。
「彼女は、他のところに嫁ぐことが決まっていたんだそうです……」
目を見開く。
彼女が、他の誰かのものになる。全身に震えが走った。
「船に乗るのは、ちょうど今日」
出港は2時。
レンヴラントは時計も見ず、走り出していた。
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