126 / 139
本編
125:忘れもの
しおりを挟む
「では、行ってくる」
「うん。気を付けてねー」
きりっとした表情のノルに対し、ぬいは穏やかな笑みを浮かべると緩く手を振った。しかし、その表情を見るとノルは踵を返して肩を掴んだ。
「ん、どうしたの?なにか忘れ物でもした?」
「……いったい僕のことを何歳だと思っている?」
ムッとした表情で尋ねてきた。
「わたしより七歳年下だよね?」
事実を言うと、むきになったのか掴んだ肩に力を入れられた。そんな様子がかわいらしいと、ぬいは笑みをこぼす。
「言っておくが、君は書類上僕と同い年だ」
「え‥‥どういうこと?」
笑顔を引っ込めると、怪訝そうに尋ねる。
「一緒に確認しただろう?」
ノルは悪そうに笑う。書類にサインをしたときなど、一度しかない。
「もしかして‥‥正式な住民になるってやつに、隠されていた?」
あの時のぬいは高揚感から浮かれていた自覚がある。おまけに確認中ノルに邪魔をされ、婚姻誓約書に意識を持っていかれている。見落とししてしまうのも、当然である。
「言い方が良くないな。君が読み飛ばしただけだろう」
「だから読んでくれたりしなかったんだ。変だとは思ってたんだよ。知ってる?それ、不正って言うんだよ」
「神は君の肉体を若返らせたと言っていた。問題などなにもない。さらに言うと、誕生日は出会った日だ。つまり君は僕より年下というわけだ」
「確かに傷は消えてるけど、あのねえ……」
不満気に頬をふくらませる。すると、肩から手を離し頬を固定するように押さえてくる。
そのまま顔を近づけると、優しく口付けてきた。すぐに離されたが、わざとらしく音をたてる。あまりに急で一瞬だったため、ぬいは目を瞬く。
「本当に仲がいいんですね」
「あんなに愛されてるなんて、いいなー」
「坊ちゃん……もう少し大人な所を見せないと」
周りからささやかれる声を耳にし、ようやく何をされたのか理解した。みるみるうちにぬいの顔は赤くなっていく。
「ノ、ノルくん……今は朝で、ここ玄関だし皆いるんだけど」
場をわきまえないその行動に、羞恥で体を震わせながら言った。大声で非難したくとも、そんな行動を取れば余計に目立ってしまう。ゆえに抑え気味の声である。
「ああ、知っている。家の者だけでなく、外部の者も通る場所だ」
恥じらうぬいのことをうっとりと見つめながら、なんて事のない風ににノルは言う。一見周りが見えていない行動のようであるが、そうではないらしい。
「見せつけた方が、愛妻家という話がより……いや、言う通り忘れ物を取りに来ただけだ」
そう言うと、当てていた手を離し、流れるような動作で両頬にも唇を押し当ててきた。
「っう……しばらく会えないみたいな感じになってるけと、今から行くの訓練所だよね?しかも見に来てって、ノルくん言ったから、またすぐに会えると思うんだけど」
するとノルは一瞬押し黙ったが、すぐに自慢気な表情になる。他者から見れば見下しているように見えるが、これは自身を鼓舞するときに見せるものである。
「いいか、僕はこの先君と生きるために、どんな手だって使うだろう。どうか信じて見守っていて欲しい」
言っていることはいたって真面目なものであった。自宅の敷地内でいったいなにが起こるのか。ぬいが不安げにノルのことを見ると、頭を撫でられほほ笑まれる。そのまま背を向けると予定の場所へと向かって行った。
「うん。気を付けてねー」
きりっとした表情のノルに対し、ぬいは穏やかな笑みを浮かべると緩く手を振った。しかし、その表情を見るとノルは踵を返して肩を掴んだ。
「ん、どうしたの?なにか忘れ物でもした?」
「……いったい僕のことを何歳だと思っている?」
ムッとした表情で尋ねてきた。
「わたしより七歳年下だよね?」
事実を言うと、むきになったのか掴んだ肩に力を入れられた。そんな様子がかわいらしいと、ぬいは笑みをこぼす。
「言っておくが、君は書類上僕と同い年だ」
「え‥‥どういうこと?」
笑顔を引っ込めると、怪訝そうに尋ねる。
「一緒に確認しただろう?」
ノルは悪そうに笑う。書類にサインをしたときなど、一度しかない。
「もしかして‥‥正式な住民になるってやつに、隠されていた?」
あの時のぬいは高揚感から浮かれていた自覚がある。おまけに確認中ノルに邪魔をされ、婚姻誓約書に意識を持っていかれている。見落とししてしまうのも、当然である。
「言い方が良くないな。君が読み飛ばしただけだろう」
「だから読んでくれたりしなかったんだ。変だとは思ってたんだよ。知ってる?それ、不正って言うんだよ」
「神は君の肉体を若返らせたと言っていた。問題などなにもない。さらに言うと、誕生日は出会った日だ。つまり君は僕より年下というわけだ」
「確かに傷は消えてるけど、あのねえ……」
不満気に頬をふくらませる。すると、肩から手を離し頬を固定するように押さえてくる。
そのまま顔を近づけると、優しく口付けてきた。すぐに離されたが、わざとらしく音をたてる。あまりに急で一瞬だったため、ぬいは目を瞬く。
「本当に仲がいいんですね」
「あんなに愛されてるなんて、いいなー」
「坊ちゃん……もう少し大人な所を見せないと」
周りからささやかれる声を耳にし、ようやく何をされたのか理解した。みるみるうちにぬいの顔は赤くなっていく。
「ノ、ノルくん……今は朝で、ここ玄関だし皆いるんだけど」
場をわきまえないその行動に、羞恥で体を震わせながら言った。大声で非難したくとも、そんな行動を取れば余計に目立ってしまう。ゆえに抑え気味の声である。
「ああ、知っている。家の者だけでなく、外部の者も通る場所だ」
恥じらうぬいのことをうっとりと見つめながら、なんて事のない風ににノルは言う。一見周りが見えていない行動のようであるが、そうではないらしい。
「見せつけた方が、愛妻家という話がより……いや、言う通り忘れ物を取りに来ただけだ」
そう言うと、当てていた手を離し、流れるような動作で両頬にも唇を押し当ててきた。
「っう……しばらく会えないみたいな感じになってるけと、今から行くの訓練所だよね?しかも見に来てって、ノルくん言ったから、またすぐに会えると思うんだけど」
するとノルは一瞬押し黙ったが、すぐに自慢気な表情になる。他者から見れば見下しているように見えるが、これは自身を鼓舞するときに見せるものである。
「いいか、僕はこの先君と生きるために、どんな手だって使うだろう。どうか信じて見守っていて欲しい」
言っていることはいたって真面目なものであった。自宅の敷地内でいったいなにが起こるのか。ぬいが不安げにノルのことを見ると、頭を撫でられほほ笑まれる。そのまま背を向けると予定の場所へと向かって行った。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
異世界の花嫁?お断りします。
momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。
そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、
知らない人と結婚なんてお断りです。
貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって?
甘ったるい愛を囁いてもダメです。
異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!!
恋愛よりも衣食住。これが大事です!
お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑)
・・・えっ?全部ある?
働かなくてもいい?
ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です!
*****
目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃)
未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる