まわる相思に幸いあれ~悪人面の神官貴族と異邦者の彼女~

三加屋 炉寸

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本編

126:神官騎士から見たスヴァトプルク①

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ある商家出身の神官騎士は、綺麗に整えられた道を走っていた。幸い道には人ひとりおらず、ぶつかってしまう心配もない。聖句を唱えると、身体強化を施し、走る速度を高めていく。

遅刻の原因は複数あった。家を出る際、小さな妹になんども質問をくりかえされたこと。腐ったパンに気づかず口に入れてしまい、解毒が終わるまで時間がかかったこと。道に迷った老人がいたこと。

様々なことが重なり合い、こんな時間になってしまったのだ。神官騎士学校時代であれば、ここまで急ぐことはなかった。だが、今日向かう先は神官貴族の家である。貴族というだけで面倒だというのに、場所を提供する人物はあのノルベルト・イザーク・スヴァトプルクである。

商家の神官騎士は、彼と学年は違えど同じ時期に神官騎士見習いとして、学んでいたことがある。直接話したことはないが、遠目から見ても善人とは言い難かった。まずは見た目からして、悪人面である。徒党を組んで意地の悪いことをしそうに見える。

実際にはそんなことはせず、むしろ一人でいることが多かった。だが外見の第一印象とは、根強いものである。そんな彼にわざわざ話しかける人はあまりいない。商家の神官騎士も、例にもれずもちろんその中の一人であった。

しかしそこが学び舎であれば、必ず会話を交わす場面は発生する。そんな時、彼はいつも鼻で笑ったり、ひねくれた言動を発するばかりであった。座学だけでなく騎士としての動きもこなし、文武両道。そして貴族となれば、とっつきにくいのも致し方ないことである。

商家の神官騎士は、いったいどんな小言を言われるのだろうと考え、腹がキリキリと痛む。聖句を唱えるが、あまり効果はない。即効性云々ではなく、精神的なものだからだろう。

必死に走り続けると、ようやくスヴァトプルク家の門が見えてきた。そこをくぐらずに迂回し、裏門まで回る。そこに立っていた門番と目が合うと、手を組んで挨拶をする。

「神々に誓って……ぼ、わ、私は」
すると急いでいるのがわかったのか、無言で頷き通してくれた。一目で神官騎士としてわかる、衣服を着用していたこと。神々に誓ったあとに、嘘をつくことはないと判断されたのだろう。

なおも駆け、ようやく仲間の神官騎士たちが集まっている所にたどり着く。

「遅い」
不機嫌そうな声がかけられ、顔を上げると案の定スヴァトプルクが腕を組んで立っていた。その顔にさほど迫力はないが、延々と嫌味を言われそうである。商家の神官騎士はまた腹を痛めると、非礼を詫びた。

「まあまあ、ノルベルト。予定の時間ぴったりなんだから、そう怒らなくてもいいと思うけど」
横から助け舟を出してくれたのは、同じく神官貴族のセドニクであった。彼は一回り程年上なのもあって、関りはない。だが、一見軽薄そうに見えて、貴族内ではやり手らしい。スヴァトプルクと違い、こちらも別の意味で厄介な人物だ。笑みを浮かべていようとも、腹の底ではなにを考えているかわからない。

そんな者たちに目をつけられてはたまったものではないと、商家の神官騎士は冷や汗をかく。

「理由は」

短く詰問するように、スヴァトプルクが尋ねてきた。ごくりとつばを飲み込み、どう答えようか考えあぐねる。彼の見下すような視線も辛いが、それよりも穏やかな笑みを浮かべるセドニクの方が怖かった。

「道に迷ったご老人を案内しておりました!」
その結果、正直にいうことにした。うまい嘘など、思いつくこともつける気もしなかったからだ。

「そうか、ならいい」
長い小言か叱責を覚悟していたため、商家の神官騎士は呆気にとられた。セドニクは一度伺うように、目を見てきたかと思うと「大丈夫そうだね」と言い、スヴァトプルクの後を追った。

商家の神官騎士はあることを思い出した。彼は確かに鼻持ちならないが、意外と悪い人ではなく、素直な面もあるのだと。今の今まで全く信じていなかったが、少しだけ腑に落ちた。
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