幻術士って何ですか?〜世界で唯一の激レアスキルでのし上がります〜

犬尾猫目

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不協和音の奏者

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帝国きっての大都市の門はさながら砦のような堅牢さと威容を誇っている。そこに行き交う人々もその門の前には豆粒に等しかった。

「ふん、巡礼となぁ。こんな時期にご苦労な話よ。」

「ええ、こういうことは思い立った時が始め時なのです。これも神の思し召しでございましょう。」

世捨て人のような巡礼者も多い中、例に漏れず目の前の若者も荷物らしい荷物を持っていなかった。曰く財物は魂を虜とする鋼鉄の檻なのだそうだ。日々小銭集めに身を削る我が身には到底理解しがたい考えだ。

「それで?お前はどこの馬の骨だと言うんだ?」

「これは失礼しました。お検めください。」

差し出されたのは冒険者ギルドの身分証だった。それなりの腕利きなのだろう、そこにはCランクの記載があった。

「マキアスシドー・・・冒険者か。なるほど聖騎士ねえ。ならばわからんでもない。武装はどうした?」

「巡礼に武具は無粋というものでございましょう?」

「杓子定規のつまらんヤツめ、もう行ってしまえ。」

どうやらコイツはクソ真面目な信仰者のようだ。こういう手合は面白い受け応えなどできたためしがない。そのクセ興味の無い話を滔々と語りだすのだ、まったく迷惑この上ない。ここセントクーンズは巡礼で周らずに済まないほど信仰上重要な場所とは言え、こうも毎日大勢押し寄せるのも困りものだ。

「ええ、この旅路にてさらなる精進を」

「知らん、興味なんぞ無いわ。とっとと通れ!」

守衛は通行税をむしり取ったらもう用は無いとばかりに手を振る。しかし目の前の巡礼者はまだ何か言い残したことでもあるような雰囲気だ。案の定すれ違いざまに何か話し出した。

「・・・あぁ、そうそう」

「まだ何ぞあるのか」

さばかねばならない通行人がまだまだ山ほどいる守衛はウンザリした顔で男をにらみつけた。

「ソワリー山脈の峠でAランクの冒険者を追い抜きました。もうすぐココに立ち寄られることと思いますよ。」

「何?・・・!!!」

その言葉はついでに過ぎないものだったが、守衛の顔色が色をなして変わる。それに気づいたのは自らの順番を待っている通行人だけだった。

「それではこれにて」

守衛が聞きとがめるも、お構いなしに巡礼者はスタスタ歩いて行こうとする。

「おい、待て!」

「はぁ?」

***

守衛に連れられて通されたのは衛兵隊長室のようだ。さすが大都市の衛兵隊長ともなると扱いが違うのだろうか。割と上質な調度品に溢れているではないか。冒険者が持ち回りで携わる片手間のグラムススタイルとは段違いの扱いにマキアスも舌を巻く。すると執務用の大きな机を前に腰かけた男が声をかける。

「貴様、A級冒険者を見たと抜かしたそうだな?」

「はい」

「誰だ?」

質問が端的だ、おそらく軍人なのだろう。実に都合がいい。

「えーと・・・以前帝都で目にしたんですが名前は思い出せなくて」

「本当に見たんだろうな?見間違いでムダな時間を取らせたなど許さんぞ!」

マキアスの曖昧な返答に副官の男が声を荒らげた。それに次いで静かに隊長がマキアスに問いただす。

「どんなヤツだった?」

「背の高い女装の男と可愛らしい娘でした。」

「可愛らしいだと?」

あの生意気なクソガキがか?よほどアイツの性格を知らんと見える、俺に言わせりゃあんなの汚物だ。

副官の男が吐き捨てるように言う。何とも苦々しい面持ちを見るに何かあったのだろう。

目の前の巡礼者から聞いた限りでは十中八九、ジェゼーモフとヴァイスに間違いない。
だがわざわざセントクーンズに立ち寄るのは新手の嫌がらせか?それに加えてハウンドはどうした?このあいだ流れて来た噂と違うようだが・・・

「それだけか?他にはいなかったのか?」

「ん?あぁ、そうそう。あともう一人がエルフの女でしたね。」

副官らしき男が何やら耳打ちをしている。

「やはり一人足りないが間違いない。概ね事前の情報と符合する。」

「あのー・・・」

「用は済んだ。もういい、下がれ」

どうやら本当にババを引いたようだと衛兵隊長は額を押さえてうめく。マキアスの相手をするのもウンザリといった様子でどこかに行けと手を振った。

「はい」

そそくさとマキアスは部屋を後にしつつもしっかりと聞き耳を立てていた。どうやら何らかのアクションをとるつもりらしい。副官と協議に入ったようだ

「どうする?」

「どうするも何も、あの変態野郎ジェゼーモフがいてはどうしようもない。」

「いっそ門を閉ざすか?」

「閉ざせるものかよ。冒険者の分際で我らをコケにしておるのだぞ。帝国中の笑い者にでもなりたいのか?」

「とはいえここで素通りさせるなど恥の上塗りもいいところだ」

副官に焚きつけられた衛兵隊長はいくつかの選択肢を検討して一つの結論にたどり着いた。とは言え思いついた選択肢など初めからあって無いようなものだ、苦々しく言葉を吐き捨てる。

「やはり威圧の一つもしてみせせねば面目も立つまいな。やむを得ん、今すぐ兵を集めろ!」

ヘヘ、どうやらオジキの言う通りだったな。とことん軍部とは折り合いが悪いらしい。次は旧都冒険者ギルドだ。この調子で情報をばら撒くぞ。

***

「そろそろ休ませたいんな」

山道を間断なく走り続けた馬たちにもぬぐいがたき疲労の色が見える。羊娘のアミルもさすがにこの状況には黙っていられなかった。殴られるのを承知で声を上げる。

「休ませろって?毛玉風情が贅沢言うじゃないの」

「ここまで一生懸命頑張ってくれましたん。」

ここまで退屈していたヴァイスはニヤつきながら適当な言葉を返す。アミルの懇願をどう料理してやろうか考えを巡らせる。

「四つ足はそういうもんだ。頑張らない四つ足は人間様に食われるだけなんだよ。」

「少しだけでも良いのん・・・うわぁっ」

<ゴンッ>

ヴァイスは御者台で手綱を握るアミルに向けて容赦なくげんこつを振り下ろした。アミルがたまらず悲鳴を上げるとゴドウィンリーが悲しげな視線を背後に投げかける。

「うるせえんだよ毛玉!誰に向かってモノ言ってんだ?黙って言うとおりにしてろや人モドキが。」

「私にも傷つく心はありますん・・・何もヒュームと違いは無いん」

いましがた叩きつけられた拳などよりも心の方が何倍も痛かった。心の痛みははるかに深く、そして長く続く。

「何か言ったか?あぁっ!」

「ひぐぅっ」

「あっはっはっ、そうやってビクついてるのがお似合いなんだテメェらはよ。」

暴力と理不尽で他者を抑圧することに伴う自己肯定感がヴァイスを高揚させる。だがアミルもへこたれずに、なおも懇願を続ける。

「酷使しすぎたら潰れてしまいますん」

「走れなくなった奴からバラバラにしてやんよ。それ見りゃあ嫌でも走る気になんだろ。」

今度は損得勘定に訴えて翻意を促すアミルだったが、全く取り合うつもりのないヴァイスに一蹴されてしまった。いくらなんでも運良く生き残った馬たちまで気分次第に殺されてはたまらない。これ以上の悲劇を繰り返すなど耐えきれないアミルはこれに従わざるを得なかった。

その一方、憔悴してぼんやり虚空を見つめたままのリアンにはもはやアミルの悲鳴も届かないようだ。この場にアミルたちの苦境を救ってくれる者など誰一人としていない。自分が巧く立ち回るほかない状況ともなればアミルも心を決める。

・・・ゴメンなん、もっさん、べーやん、ミポリン、ゴリさん。もう少しだけ頑張ってほしいん

すると遠くに何か待ち構えているような一団が見えた。それに気づいたヴァイスが目を細める。

「ありゃ何だ?」
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